<魂のピアニスト>の人間性に迫るドキュメンタリー。
20世紀末NHKテレビのドキュメント番組でブレイクしたフジコ・ヘミングの現在を通して彼女の人間性に迫るドキュメンタリー。
監督は音楽・ダンスのミュージック映像を専門にドキュメンタリーを手掛けてきた64年LA生まれの小松壮一良。企画・構成・撮影・編集もしている。
親子ほど年齢差がある二人が、素で向き合った約2年間はフジコが運命にもメゲズ自分のスタイルを貫いて生きる姿が映し出されている。
大好きなパリでクリスマス休暇を過ごすフジコ。傍から観ると一見孤独な老人だが、その装いや住まいのインテリアはとても華やかで個性豊か。動物愛護家で自宅には数匹の猫がいて、中でも<ちょんちょん>がお気に入り。そのせいかベジタリアンだが長年の愛煙家でもある。自身は16歳の少女と変わらないという。
その数奇な人生を14歳の時書いた絵日記とともに明かされて行く。東京・下北沢で暮らす幼少期に別れたロシア系スウェーデン人の父、ピアニストの母・大月投網子とベルリンで結ばれる。
ピアノの才能に恵まれ、母の厳しい教育やハーフであることへのイジメにメゲズ、ポジティブに過ごす少女時代が描かれている。
当時は母・投網子のピアノ教師をしながら女手一つの子育てが如何に大変だったことは窺えるが、弟ウルフとともにスクスクと育ったように見えるのは彼女本来の性格によるものか?
画家で建築家の父とピアニストの母の血が、80代半ばを過ぎても彼女の生き方に脈々と息づいていている様子が窺える。
いまでもマネージメントは自分で行い世界中を駆け巡り、車も運転するバイタリティは高齢女性の憧れでもある。何故か樹木希林や黒柳徹子を連想させるキャラクターが私生活から垣間見られる作品だ。
17年12月1日東京オペラシティコンサートでの「ラ・カンパネラ」は圧巻の演奏風景。古風だとかミスタッチが多いとか世評を気にせず、音一つ一つに色を付け歌うように弾く演奏スタイルは画面を通して観客に迫るものがある。
ハンディキャップにメゲズ邁進する音楽家は数多いが、彼女のように時代に翻弄されながら晩年で花が咲き実を結ぶ人生は世の人々を勇気づけてくれる。
今でも毎日4時間の練習は欠かさないという彼女。信仰に支えられながらの生きる力を映像で伝えてくれた。演奏会を聴く機会があったが、妻に譲ってしまったのが悔やまれる。