・ マイノリティへの温かい視線が伝わる英国コメディ。
サッチャー政権時代の84年、20か所の炭鉱閉鎖に反対した炭鉱労働者たちの抗議ストは4か月に渡り、生活困窮状態に陥ろうとしていた。
そんななか、ロンドンにあるレズビアンとゲイの活動家がLGSA(炭鉱夫支援レズ&ゲイの会)を立ち上げ、炭鉱夫家族のための募金活動を始めた。
地方で暮らす炭鉱労働者と都会に住むセクシャル・マイノリティは両極にあって、およそ交流は考えられない。ちょっとした誤解からウェールズの小さな炭鉱町オンルウィンが受け入れることになった。
炭鉱閉鎖をテーマにしたイギリス映画は「ブラス!」(96)、「フル・モンティ」(97)、「リトル・ダンサー」(00)など名作が多いが、共通するのは深刻な状況を捉え真面目に取り組む姿が、ユーモラスでハートウォーミングな物語であること。
本作も変に説教臭くなく、感傷的でもなく寓話的な明快さでUKヒット曲をバックに、まさにパレードのように突き進んで行く。
監督は舞台監督のマシュー・ウォーカースで、これが長編2作目。
LGSAの若きリーダー・マークに扮したのはベン・シュネッツアー。主要メンバーでは唯一アメリカ人俳優だが、抜擢されただけあってピュアな雰囲気とメイクした時の美しさはこの役にぴったり。
メンバーには俳優のジョナサン(ドミニク・ウェスト)やウェールズ出身の本屋・ゲシン(アンドリュー・スコット)、マークのパートナー・マイク(ジョセフ・ギルガン)、主要メンバーではただ一人女のステフ(フェイ・マーセイ)など、それぞれ実在人物がモデル。
唯一オリジナル・メンバーであるカメラ好きの若いジョー(ジョージ・マッケイ)が、メッセンジャーの役割を果たしている。
炭鉱で暮らす人々にはビル・ナイ、イメルダ・スタウントンの両ベテランを始め、ウェールズを代表してロンドンへやってきたダイに扮したバディ・コンシダインなどが脇を固めている。奇しくもI・スタントン扮するヘフィーナの実在モデルが撮影初日に亡くなったという。
ストのニュースをTVで見ていたマークが「敵はサッチャーと警官、つまり僕たちと同じだ」といって始めたLGSM。
LはロンドンのLだと思っていたダイが、ゲイクラブで行った「皆さんがくれたのはお金ではなく、友情です。」というスピーチが受け皿となった。
世代や境遇の違い・誤解や衝突など、紆余曲折を乗り越え連帯感を深めてゆく姿は、やや深みに欠けるきらいはあるものの、終盤まで盛り上りを見せて行く。
本作のミュージカル化計画があるそうだが、舞台にぴったりなテーマのような気がする。
カンヌ映画祭でクイア(セクシャル・マイノリティ)・パルム賞を受賞しているが、ウェールズとイングランドで同性結婚が合法となったのは昨年3月。
日本でも同性婚の条例案を提出した渋谷区などが話題となったばかり。マイノリティへの偏見を持たないことの難しさを改めて感じさせる作品でもある。