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コーイチ物語 「秘密のノート」 31

2022年08月29日 | コーイチ物語 1 4) コーイチとゆかいな仲間たち 2  
「こらこら、君たち、こんな所でたむろっていると遅刻してしまうぞ」
 いつの間にか印旛沼がコーイチの隣に立っていた。コーイチは驚いて飛び退き、柱にしがみついた。
「これはこれはミスター・マジック! まるで最新式伝送装置を使ったようなご出現ですなぁ」
 林谷が西洋の貴族のような仰々しい仕草で印旛沼に挨拶をした。
「本当に魔王の出現の仕方そっくりですわねぇ……」
 清水は組んだ両手を胸元にあてがい、惚れ惚れとした顔で印旛沼を見ていた。
「相変わらず、君たちはメカ好きオカルト好きで手品を認めんなぁ。その点コーイチ君はすばらしい! 手品の本質を知っている!」
 印旛沼は柱にしがみついているコーイチを手招きした。さては新作手品でも披露してくれるのか! コーイチは目を輝かせて柱から離れ、印旛沼に近付いた。
 突然、印旛沼の後から、スタイルの良い身体の線がはっきりと浮き出るほどぴっちりとした袖なしの白いミニドレスを纏い、白い大きなリボンをあしらった白いシルクハットをかぶった黒いショートヘアの若い女性がぴょんと飛び出してきた。白い網タイツに白いブーツを履いた長い脚を交差させ、微笑みながらコーイチにウインクをしてみせる。
「わっ! わっ! わっ!」
 コーイチはまた柱にしがみつく。視線だけはその女性を見ていた。
「わっはっは! 今朝のコーイチ君はかなりの人見知りだねぇ……」
 林谷はやれやれと言うように肩をすくめた。
「どうしたんだい、コーイチ君? 何かあったかね?」
 印旛沼はコーイチの視線の先を追って背後を振り返った。若い女性が立っている。
「なんだね、何に驚いているんだね、コーイチ君。これは私の娘、逸子だよ」
 印旛沼はちょっと不満そうな声で言った。
「お嬢さんですの! 可愛い方ですわねぇ。……でも、白い衣装よりも、やっぱり黒い方が言いですわぁ。魔女っぽくって……」
「清水君、勝手に君の仲間に加えんでくれ!」
「なかなかシンプルな洋服ですねぇ。もっと金銀を付け足すと良くなりそうですがねぇ……」
「林谷君、君の美的感覚の餌食にしないでくれ!」
「あのう、とても出勤スタイルとは思えないんですが……」
 質問したコーイチを見て、印旛沼はにこりとした。
「じつはこの娘は“Kan Kan(カン・カン)”とか言う女性ファッション雑誌のモデルをやっててな。知ってるだろう? “Kan Kan”」
 印旛沼は自慢げに話す。コーイチはその雑誌を知らなかったが、今後も手品を見たいので嫌われないために頷いた。
「今日、この駅の近くで撮影があるそうで、ついでだから一緒に来たってわけだ。モデルってのは普段から見られることを意識してなけりゃならんそうで、こういう服を着てるんだそうだ」
「そうなんですか……」
 コーイチは逸子に近付き小声で聞いた。
「ひょっとして、青龍刀、持ってる?」

     つづく

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