漂着の浜辺から

囁きのような呟き。

氷のスフィンクス

2008年05月19日 | 読書録

「氷のスフィンクス」 ジュール・ヴェルヌ著 吉田幸男訳
ジュール・ヴェルヌ・コレクション 集英社文庫 集英社刊

読了。

 長く積んだままだった本だが、ようやく読んだ。
 ストーリーは、エドガー・アラン・ポーの長編「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」の続編という設定。ポーの作品を知らなくても読めるが、当然、元になった話を知っていたほうがより楽しめる。
 主人公たちがピムの冒険の足跡を辿って南極に向かうというのが物語の格子だが、同じく極点に向かう物語として、同じくヴェルヌの初期の作品「ハテラス船長」と対を成す作品とも言えるのかもしれない。「スフィンクス」のレン・ガイ船長が兄思いのフランス人で、極点の制覇には拘らず無事生還したのに対して、同じく北極に向かった「ハテラス」のイギリス人ハテラス船長は、もっぱら自らのためにひたすら極点に拘り続けた挙句、壮絶な最後を遂げる。そういった点でも、対を成しているように思える。
 この作品は、ヴェルヌの晩年の作品ということで、よく言えば集大成的だが、悪く言えばややワンパターンな話の運びになっている上、盛り上がるべき場所で盛り上がらないという致命的な欠点もあり、面白さという点では随分と不満が残ったが、はっとするのは、途中にいきなり挿入される著者による注釈の中で、ヴェルヌ作品最大のヒーローであるネモ船長に言及されていることである。つまりこの作品は、「海底二万哩」と同一の時間軸にある作品と位置づけられているのだ(この物語のずっと後に「海底二万哩」が来るようだ)。この一点で、「氷のスフィンクス」に価値を見出す人もいそうだ。

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