漂着の浜辺から

囁きのような呟き。

バベル17

2014年01月22日 | 読書録
「バベル17」 サミュエル・R・ディレーニイ
ハヤカワ文庫SF 早川書房刊

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 ディレーニイといえば、通好みのSF作家というか、物語の背後に別の読み方や意味を潜ませるのが得意な、一筋縄ではゆかない作家というイメージがある。この作品は、そのディレーニイの代表作の一つ。
 物語自体は、裏表紙にもあるように、スペースオペラと言ってもいいようなものなのだが、ともかく登場人物がみんな変わっている。ひたすら個性的で、ほとんどグロテスクといっていいほど。ディレーニイがゲイの作家だという予備知識があるせいか、まるでドラッグクイーンのパーテイのようだと思ったり。この独特の乱痴気騒ぎのような物語世界に魅力を感じるかどうかが、この作品の好き嫌いを左右するのだろうが、その特異で個性的なキャラクターたちが次々に現れるのは、決して意味のないことではなく、曖昧さを許さず、思考停止に追い込んでしまうような力を持った言語「バベル17」に対比させるような目的を持っているようにも思える。
 随分と昔に書かれたSFの古典だが、ほとんど古さを感じさせないのは、もともとが荒唐無稽な魔術的ドタバタ小説であることに加えて、作家に無二の個性と幻視力があるからだろう。わかったような、わからないような、そんな気分にならないこともないけれども、なかなか面白い小説だった。