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One of my 愛娘

2017年06月19日 | 日記
KLAS 17期生(2009年卒業)の茂山翔子さんを紹介します。
茂山さんは、
以前このページで紹介した、本校の模擬家族制度(Faculty Family)で、
私の愛娘だった生徒の一人です。
彼女は入学時から、とても繊細な感性を持った生徒でした。


繊細さと純粋さ

毎年、入学直後の高校1年の生徒に国語の授業で、
「自分の大切なものを紹介する」
という趣旨の作文を課しています。

茂山さんが卒業して8年が経ちますが、
入学直後に彼女が書いた作文を、私は今も覚えています。
それはこんな内容でした。

「自分の大切なものとは何だろう。考えれば考えるほど、分からなくなってしまう。
ふと周りをみてみると、クラスの他の生徒は自分の大切なものについて、スラスラと書いている。
それなのに、私は自分の大切なものを思いつくことができない。
それはなぜなのかを考えてみた。
そして私が気づいたのは
『これまでの私は自分を大切に思って来なかったのではないか』
ということだった。
クラスのみんなが大切なものを大切だと素直に感じているのは、
みんなが無意識のうちに自分を大切にしているからだと思い、とても羨ましく思った。
これからのKLAS での3年間。
まずは私も自分を大切にすること。
私もそこから始めてみよう、今回の作文を通して私はそう思った。」


茂山さんと、その後いろいろな話をしてゆく中でわかってきたのは、
時に人を傷つけてしまうような経験をすると、
自分が許せなくなってしまうほど、彼女の心は純粋なのだ、ということでした。


純粋さが成長の源

茂山さんのそのような純粋さは、在学の3年間で大きな成長へとつながりました。
そのことは、茂山さんが「The Most Improved Student Award」を受賞したことに顕われています。
その年1年間、学業面、精神面で、最も努力し成長した生徒として、
全職員が投票によって決定する賞ですが、
茂山さんは、3年間で2回、この賞を受賞したのです。
この賞を複数回受賞した生徒は、本校の歴史の中で数えるほどしかいません。
大変、名誉なことなのです。






本校で大きく成長した茂山さんは、
卒業後、国際基督教大学 (ICU) に合格。
臨床心理学を専攻して、優秀な成績で大学を卒業。
大学院で Education の修士号を取得しました。

お話を伺いました。

子どもの成長に喜び

- 今、どんな仕事をしていますか?

私は今、臨床心理士として児童福祉領域の現場で、
子育て支援や児童養護施設の子どもの心理的ケアを行なっています。

その支援方法は幅広く、
離乳食の進め方、
母子の良好な関係性構築の促進、
学習支援、
かくれんぼ・おままごとなどの遊びを用いての心理的ケアも行なっています。

0歳〜18歳までの年齢の子どもや、
様々な家庭の生活の一部の支援に携われることは、児童福祉領域の魅力だと思っています。
自分の技量の乏しさ、どうしようもない現実にやるせなくなる時もありますが、
子どもの成長を共に喜び、人の可能性を強く感じる瞬間は、
とても尊いものだと感じており、この仕事にやりがいを強く感じています。



KLAS は私のお家


- KLASで学んだこと、経験したことが、今の自分にどう役立っていますか?

KLASは私にとって、大切な母校であり、お家でもある、とても特殊な空間です。

今私が仕事をしている中で、大切にしている時間があります。
それは、子どもが眠る前に、ひと部屋ひと部屋をまわり「おやすみ」を言うことです。
その時間に、絵本を読んだり、子どもが学校での話をしてくれたり、一緒に夜食のラーメンを食べたりしています。

児童養護施設の子どもは親の養育困難により預けられていることが多いため、
彼らの抱える背景と、私のものとは異なるのかもしれません。

しかし、全寮制の児童養護施設の環境は、
KLASでの自分の生活を彷彿とさせるものがあります。
「安心して眠りにつき、楽しい明日が迎えられるように子どもに接すること」
を、どうして自分が大切に思うのか、ふと考えたことがありました。
そして私が気づいたのは、
「あぁ、このことは、私がKLAS に在学していた頃、寮母さんや先生方に、私がしてもらったことなのだ。」
ということでした。
KLASの先生方の対応を良き大人のモデルとして自分の中に取り込み、
自分の心の一部にしているのだということに気づいたのです。

この私の対応が、子どもの役に立っているのか、
自分の気持ちの押し付けになってしまっていないか、
それはわかりません。
でも、今の私にできることは、
やがて彼らが子どもを育てる時、
子どもの話を聞き、
頭を撫で、
寝かしつける優しいパパやママになってくれるよう願い、行動することだと思っています。

このことはまさに私がKLAS で体験してきたことなのだ、そう感じています。



揺るぎない核

- KLAS とは、茂山さんにとってどんな存在ですか?

KLASの魅力は、もちろん、スイスの優美な大自然の中で友達と一緒に学び、心身ともに成長できること。
また、ヨーロッパでの修学旅行、交換留学、ボランティアトリップなどの多岐に渡るプログラムにあります。
しかし、それらのプログラムの中で最も重要なことは、プログラムの内容もさることながら、
それ以上に、それらの経験の中で様々な人に出会い、
友達と競争しながら分かち合い、
価値観を吸収し、
自立・行動力・柔軟性を培えることなのだと思っています。

子どもが何かに挑戦しようと思えるためには、
大人が子どもの可能性を信じ、
個性を認め、
失敗を受け止め、
時には待ち、
共に楽しんでくれる必要性があるのだと感じています。

KLASでの生活を一番近くで見守る先生方は、
教師の枠組みを超え、様々な体験をされています。
その柔軟な、人生の楽しみ方を知っている熱心な大人がいる環境は、
子どもたちが自分を信じ、外に目を向け、
挑戦する心を養うことに大きく貢献しているのだと考えます。


「大人は嘘つきだ」
と大人に対する不信感から、自分が大人になっていくことを受け入れられなかった私が、
「この子たちを守るために大人になるのなら、なってもいいかもしれないな」
と思えるようになったのは、
信頼の置ける大人のモデルを担って下さった、KLASの先生たちのおかげです。
先生方の力なくしては、体験し得なかったのではないかと思うのです。

今回、KLASでの生活を振り返る機会を得て、
私のKLAS時代は、こんなにも昔のことになってしまったのだと思い、寂しくなりました。
でも、子どもたちと接する自分を振り返ると、そこにはKLASがあるのだと心が暖かくなります。

日本で待っていてくれる家族。
スイスでの生活を見守ってくださる先生方。
切磋琢磨できる兄弟のような友達。
こんな大切な人たちと一緒に日本では体験できないことに挑戦し、
成功体験を積み重ねることができたのは、KLASだからこそだったのだ、と感じています。
KLAS での3年間は、今の自分に強く影響を与え、揺るぎない核になってくれているのだと思います。



今回の取材で、最も強く感じたのは次のようなことです。
「卒業して、就職して、大人になっても、翔子は翔子なのだな」

彼女の純粋さは、今もなお濁ることなく保たれ続けています。
彼女の純粋さが、児童福祉の世界にひと筋の輝きをもたらしている、私はそう信じています。

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