序破急

片足棺桶に突っ込みながら劇団芝居屋を主宰している爺です。
主に芝居、時々暮らしの中の出来事を書きます。

第36回公演「通せんぼ横丁」第四場ー1

2018-12-18 14:52:04 | 覗かれる人生芝居


第四場

     最後の花火上がる。
     明転。

最期の三尺玉の炸裂に照らされる一同。
     「ドーン!」

     
     拍手する一同。

由美子 「やっぱり三尺玉って迫力あるね」
佐知 「あそこ一杯に広がるものね」

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光子 「これで通せんぼ横丁の恒例行事は全て終了ね」
陣五 「そうだね、終わりだ」
由美子 「なんだか切ないね」
光子 「ほら、元気だしな。明日になりゃあ、新しい暮らし
の始まりだよ」

由美子 「ねえ、ここの取り壊しは来週から?」
誠二 「ええ、来週にはここに解体業者が入って取り壊しが
始まりますね」
佐知 「ここ簡単なんだろうね、無くなるの」
陣五 「どの位掛かるのよ」
誠二 「そうですね。解体には養生設置、設備撤去、内部解
体、外部解体、整地って手順があるです。重機が何台入るか
で違いますけど、多分ここの規模だと一週間で終わると思い
ますけど」

由美子 「ええ、そんなもんでこの横丁が無くなるの?」
陣五 「そうだろうな。家屋の解体工事なんか見ると、ま
あ、乱暴なもんだ。ユンボでこうやって天井からバリバリは
ぎ取って、何にも関係なく押し壊すっていうのか、グッシ
ャグシャにしちまうだからな、無残なもんさ」
由美子 「ああ、他人事で見てたけど、ここがあんな風にな
るんだ」
光子 「誠二、ここもそうするの?」
誠二 「ええ、外部解体はそうなりますね」
光子 「人手で解体していくもんじゃないんだ」
誠二 「いや、内部解体は人力でやります、廃材を分けな
きゃならないんで。でも全部それじゃずいぶん費用が掛かっ
ちゃいますからね、外部解体の時は重機が入ると思います
よ」
光子 「そうなのかい。・・・ずいぶん可哀そうな最後だ
ね」

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光子 「それじゃ最後に大家さんの倉本さんからご挨拶頂き
ましょう」
勝利 「えっ、私?」
光子 「お願い」
勝利 「いや参りましたね」
光子 「気持ちだけ。何でもいいのよ」
勝利 「そう?それじゃ」
由美子 「イヨッ、大統領」
陣五 「日本一」
佐知 「大家さん」
勝利 「ええと・・・ちょっと長くなるけどいいかな」

光子 「どうぞどうぞ」
勝利 「昔、ここら一帯は漁師町だったそうですが、埋め立
ての影響で海が遠くなり、川幅も小さくなったので漁師町が
そっくり移動したそうです。そこでこの一帯の土地を割安で
手に入れたのが祖父でした。この半端な作りの土地を何か有
効利用できないかと考え遊郭を作ったそうです。戦後、この
地区の横丁は赤線地帯と呼ばれていました。売春禁止法とい
う法律ができたので便宜上飲み屋横丁の体裁で営業してまし
た。でも中身は赤線の頃と大して変わりませんでした。わた
しはそれが嫌で嫌で堪らなかった。父の死後三十歳で私がこ
この後を継いで、始めた事はこの通せんぼ横丁やかけだし横
丁、ハモニカ横丁を健全な飲み屋横丁として変える事でし
た。その先頭にたってくれたのが光ちゃん家でした。以来こ
の横丁一帯は街のオアシスとして喜ばれて来ました。みなさ
んのお陰で私のささやかな願いが実現されました。有難う。
心から感謝します。これでこの通せんぼ横丁はなくなります
が、みんなの心の片隅にこの横丁の思い出が少しでも残ると
うれしいなと思っています。これで離れ離れになりますが、
みなさんの事は応援しています。頑張って下さい」
     黙然とする一同。
勝利 「(明るく)以上です!」


第四場ー2に続く
撮影鏡田伸幸


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