キレンジャーで、ブチ切れられたことがある。
怒りの主は友人ヒラバヤシ君であり、彼は特撮ヒーローファン。
中でも東映の「スーパー戦隊シリーズ」を、息長く愛している男だ。
特撮は好きだが、それはどちらかといえば怪獣が中心であり、戦隊ものといえば、『ファイブマン』以降見なくなった私としては、ときにそこで齟齬が生じることもある。
ある日のこと、ふたりでお茶を飲んでいて、なんとなく話が「スーパー戦隊シリーズ」のことになった。
そこで、今の戦隊ものにうとい私がなにげなく、
「そういや今年は、なんて名前のヒーローなん?」
その年にやっていたのは、平成の中期ごろでギンガマンだったかメガレンジャーだったか。
そう答えた彼に、またなにげなく、
「やっぱあれ? 今年もイエローはカレー好きなんかいな」
その瞬間であった。それまで楽しそうに、愛する戦隊モノの話をしていたヒラバヤシ君が、口をつぐんだのだ。
そこから、ふだん温厚な彼からは考えられないような憤怒の表情で、テーブルをゴンとたたくと、
「イエローはカレー好きじゃありません! それはサンバルカンとゴレンジャーだけです!」
いきなり大噴火に、おどろいていると彼は続けて、
「なんでみんなイエローいうたらカレー好きやと思ってるんですか。なんもわかってない!」
そういってまた、ノッてきた講談師のごとく、テーブルをパンパパンとはたきまくるのであった。
えー? イエローいうたらカレーちゃうの?
子供のころ見た、スーパー戦隊ものの先駆け的存在である『秘密戦隊ゴレンジャー』のキレンジャーはカレー好きという設定で、それを見て以来なんとなく、
「イエローといえばカレー好き」
といったイメージがあったのだが、ヒラバヤシ君によると、それはちがうそうで(当時)、
「イエローがカレー食べるのはサンバルカンとゴレンジャーだけなんですよ。それ以前も以降もイエローはカレー食べません!」
そう力説する。
そうか、私の勘違いかと謝罪したのだが、彼は気が収まらないらしく、
「なんでみんなキレンジャーはカレーが好きっちゅうイメージから抜けられないんですか。スーパー戦隊シリーズをなんやと思ってるんですか」
たいそう、怒っておられる。
「おまえら、ちゃんとマジメに見てるんかと言いたいですわ。ホンマやってられないっすよ!」。
先輩としては、ここはフォローの必要がありそうだということで、
「まあまあ、そう怒らんと、別にイエローがカレー好きでも嫌いでも、どっちでもええがな」
たしなめたのだが、どうもそれが火に油を注いだようで、
「どっちでもええ、とはなんや!」
ムチャクチャに怒っている。大失敗だ。
「元はといえば、あんたがスーパー戦隊シリーズのことロクに知らんと、《イエローはカレー好きなん?》みたいな、しょうもないこと聞くからあかんのでしょ!」
ビビりまくるこちらに、彼はさらなる追撃をかぶせてきて、
「なんもわからん素人のくせに、いちびってたら、どつきまわしますよホンマ。あー、腹立つわあ、どいつもこいつも、イエロー言うたらカレー」
「なんか、それで気の利いたこと言うてるつもりなんでっしゃろな。ひと笑いあるとでも思いましたか?」
彼はさらにブツブツと、
「あんたみたいなんがおるから、【関西人は自分のことを、笑いのセンスがあると思ってるからうっとうしい】とかいわれますねん。世の中アホばっかりですわ!」
もう、先輩怒られまくりである。
もはや止めようもない暴走トラックと化したヒラバヤシ君は、
「とりあえず、ちょっとそこに正座してください」
ビシッと人差し指を突きつけると、
「特撮は好きとかいうといて、アンタ、スーパー戦隊シリーズについてちっとも勉強してないですやん。怪獣ファンとか言うて、平成ゴジラも平成ウルトラも見てないし。やる気あるんスか?」
こんこんと説経さた。
それを「どうもスビバセン」と枝雀師匠のごとく神妙に拝聴しながら、
「ワシ、なんでそんなことで怒られてるんやろ」
という、人として実にまっとうな疑問が何度も脳裏をよぎるが、ヒラバヤシ君の
「だから、サンバルカンとゴレンジャー以外のイエローは、カレー好きちゃうんすよぉ!」
という魂の咆哮の前には、儚くかき消えていくのであった。
〉黄色、バルパンサー豹朝夫もカレーを食べまくってましたよ
あー、そういえばそうだったかも。
サンバルカンにもくわしい友人が間違えるわけないから、こちらがウッカリ聞き逃したみたいです。
ご指摘ありがとうございます。書き直しておきます。
>>アバレイエローは?
とのことですが、これは
>>その年にやっていたのは、ギンガマンだったかメガレンジャーだったか
と本文中にある様に、ずいぶん昔の話でして、『爆竜戦隊アバレンジャー』放映前の話だから出てきてないんだと思います。
たしかその友人とは「次の戦隊はレスキューもの」らしい、みたなことを話した記憶があるから、『救急戦隊ゴーゴーファイブ』のころかもしれませんね。
おそらく、冒頭の
「20年近く」
という「現在」の情報と、この話の舞台である
「ギンガマンやメガレンジャーの時代」
これがゴッチャになって書いてあるのが時系列の混乱を招くのかも。
ご指摘ありがとうございます。直しておきます。