この世界の憂鬱と気紛れ

タイトルに深い意味はありません。スガシカオの歌に似たようなフレーズがあったかな。日々の雑事と趣味と偏見のブログです。

バード、第一話「少年バード」

2012-09-30 15:21:03 | バード
 一年目 前夜 第一話「少年バード」


 少年は「バード」と呼ばれていた。
 無論それは彼の本名ではなかったのだけれど、誰もが彼のことをそう呼ぶものだから、いつの間にか彼自身もそう名乗るようになっていた。
 今彼はビルの屋上から大晦日の夜の街を見下ろしていた。
 『大崩壊』の日を境に、人々はかつての栄光を失ってしまった。
 それでも夜の街には深海魚が海の底を蠢くかのように人々が暮らしているのが見て取れた。
 バードはそれを見るのが好きだった。
「バード、明日のことを考えてるのかい?」
 そう後ろから問いかけたのはロボだった。
 ロボは義理の父親からの虐待によって足があり得ぬ方向に曲がっていて、そのせいでロボットのようにしか歩けなかった。けれど彼は仲間の中で一番すばしこかった。
 明日のことというのはバードたち「白の翼団」と敵対する「血塗道化団」の対決のことを指すのはバードにもわかった。
 だがバードが考えていたのは別のことだった。
 バードの無言を肯定と捉えたロボは黙って彼の横に立った。
「俺たち、勝てるよね、あいつらに」
 白の翼団と血塗道化団とは不倶戴天の敵同士だ。血塗道化団の幹部は自分たちのグループに所属しない少年たちに、それはつまり主に白の翼団のメンバーのことだが、「粛清」と称して無用の暴力を加えてきた。
 だがそれも限界に近づいてきた。
 ロボの問いに今度はバードも、あぁと小さく頷いた。
「ほんと?ほんとにそう思う?」
 念を押すように問い直したロボに、バードは「あぁ、勝てるさ」と短く、だが力強く答えた。
「よし、やった。バードがそう言うなら間違いないよね」
 そう無邪気に喜んだロボはギクシャクとした動きで飛び跳ねた。
 そんなロボを見て、バードは優しく目を細めた。
 彼は明日の対決のことは心配していなかった。
 白の翼団のメンバーは体の小さい者ばかりだが、ロボを始めとして皆すばしっこい。
 彼らがバードの指示に従って、血塗道化団のメンバーを挑発し、逃げ、挑発し、逃げ、それを繰り返してやつらの体力が尽きたところで一斉に反撃に打って出れば、必ず倒せるはずだった。
 その夜、バードの心を占めていたのは黒い夢のことだった。
「ちょっと出かけてくるよ」
 そうロボに言い捨てて、バードは階下へと続くドアへと向かった。


                             第二話「黒い夢」へ続く
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9 コメント

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前書きに代えて。 (せぷ)
2012-10-01 00:14:54
それでも見捨てずにいてくれる友へ捧ぐ。
返信する
パチパチパチ… (sunblue)
2012-10-01 00:47:16
始まりましたねぇ?せぷさんの物語。(^^)
いままで(何年?)始動する気配すら感じず、
「映画や本・日々の出来事・ちょっとイラスト」なブログと思っておりましたが…?何が起こったのでせうぅ?

まぁっ!何はともあれ、いい事です♪
もともと「書ける方」なのですから(^^)
ただ、私はてっきり、数ある「続き待ち」の作品が登場するのかと思っておりましたよぉ?…ププッ♪
さてさて続きがどうなりますやら…
楽しみ♪楽しみ♪
返信する
お待たせしました…。 (せぷ)
2012-10-01 21:56:08
>いままで(何年?)始動する気配すら感じず、
いや、もう小説を書く気はないのですよ。
今まで小説を書いて、よかった!と思ったことがないので。
どちらかといえば、落ち込むことの方が多い。
だから書く気が起こらないのです。

それが今回書くことにしたのは、ちょっとした恩返しですかねぇ。これぐらいのことしか自分には出来ないので。

予定としては隔週日曜日に連載するつもりですが、コメント数によって更新頻度は変わります。
sunblueさんからしかコメントをもらえないようであれば、打ち切りも十分あり得ます。
モチベーションが保てないので。
よく、連載物だから最終回を読んでからコメントしようと思った、という人がいますが、そういう人が多数を占めるようであれば、たぶん最終回にはたどり着けないと思います。笑。

あと、重要なことを一つ。
本作は完全オリジナルではないんですよ。
プロイスラーの書いた『クラバート』という作品が下敷きとなっています。
ストーリーラインはそれに沿うつもりです。
だから続きが気になるようであれば、『クラバート』をお読みになることをお勧めします。
返信する
打ち切り回避 (小梅)
2012-10-06 20:57:37
こんばんは!
小説を読むだけではなくて、書いてしまうとは。
すごいです。

感想は・・・今の段階でおもしろいとも、おもしろくないとも言えないので、
どうか落ち込まずに、マイペースに更新してください。

ちなみに「クラバート」は読んだことないし
先読みもしませんので~。
返信する
コメント、ありがとうございます。 (せぷ)
2012-10-09 22:37:05
小梅さん、コメント、ありがとうございます。

コメントがなくても読んでくれる人はいますよ、と言ってくれる人はいるのですが、自分が極度の人間不信のため、コメントがないってことは誰も読んでくれてないんじゃないかって思わずにはいられないのです。

基本的に自分はもう小説を書く人間ではありません。
ただ、今回はちょっと理由があって、書いてみようかという気になりました。
しかし、一歩目を踏み出したものの、二歩目を踏む前に立ち止まってしゃがみこんでしまいそうな感じです。
我ながら情けない…。

ところで『クラバート』は超絶的に良いですよ。
自分が読んできた小説の中で一番面白いと思います(それを下敷きに別の小説を書くのにはまた理由があります)。
大きな本屋であればだいたい置いてあると思いますし、図書館にもまず間違いなく蔵書であるはずです。
騙された!と思って一度読んでみて下さい。
返信する
ぜひぜひ、ご清読をっ!!! (sunblue)
2012-10-09 23:16:32
こちらへお越しの皆様、コメント欄へお越しの皆様へ

どうぞ、せぷさんの過去の作品も覗いて(ご清読)みてくださいませ。
(生意気にも、この場をお借りしまして失礼致します。)

案外「面白いモノ」に出会ってしまうかも知れません。(^^)
私は、
ショート・ショート内:
「潔癖症」「対決」「ウサギとカメ、そしてサル」「お見舞い」
「ある恋の終わり」「テレフォン」「霧の中の巨人」「一人暮らし」
「フリー」「スマイル」
中編(?)小説;
「断崖」「空のない街」
詩:「屍」
が、お気に入りの“せぷさんの子供たち”です。

「バート」の続きも気になりますが、旧作で、どんなか分かると、この先も面白いのではないかしら?と。
超・常連さんも新・常連さんも通りすがりさん(?)も御一考?御一読?アリと思いますよぉ?(^^)♪

あっ!ライト・ノベル的な作品もあったなぁ…♪

(余談ですが、「テレフォン」は、70年代に亡くなったジム・クロウチの歌う「オペレーター」という歌を思い出します。)
返信する
宣伝、ありがとうございます。 (せぷ)
2012-10-11 23:35:55
sunblueさん、宣伝、ありがとうございます。
sunblueさんはこの世で唯一、自分がネットに公表している作品をすべて読破されている方なのですよねぇ。
いやぁ、sunblueさんには足を向けて眠れません!!(ちなみに普段自分は北枕で寝てますけどね。笑。)

お薦め作品を目にして、へぇって思いましたよ。
『潔癖症』は何となく自分では上手くオチをつけられなかったかな、と思ったので。

どうせだったら、ご相伴に預かって、自分もお薦めのショートショートを紹介させてもらおうかな!
まずはやっぱり『対決』ですね。
自分でいうのもなんだけど、ビックリするぐらいよく出来てる(自分でいうな)。

あとは『バッティング・センター』とか『赤い外套の少女』、『風の歌を歌う』なんかが好きですね。
よくこのレベルのショートショートを週に一本書いてたもんだな我ながら驚きます(だから自分でいうなって!)
返信する
ファンの方! (小梅)
2012-10-12 21:23:16
こんばんば。
筆の遅い小梅です。

もうすでにせぷさんの小説のファンがいるんですねっ。
お二人のおすすめから順番に読んでみます。
その前に、届いたばかりの「吉祥寺の朝日奈くん」を読もうと思います。
返信する
唯一です。 (せぷ)
2012-10-12 22:36:40
>もうすでにせぷさんの小説のファンがいるんですねっ。
あはは、sunblueさんは唯一の愛読者と言っていいかもしれません。
愛読者が“唯一”っていうのは言ってて悲しいものがありますが。涙。

ところでコメント欄をチェックされる方がいるとは思ってなかったので、作品へのリンクを貼ってませんでした。
『対決』
http://blog.goo.ne.jp/sepurainnole/e/4ac85f4852f199430611a8f6a3b93515
『風の歌を歌う』他。
http://www.h5.dion.ne.jp/~yaneura/event.htm

暇なときにでも読んでみて下さい。
ところでカシオペア座は見つかりましたか?笑。
返信する

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