この世界の憂鬱と気紛れ

タイトルに深い意味はありません。スガシカオの歌に似たようなフレーズがあったかな。日々の雑事と趣味と偏見のブログです。

テッド・ザ・フォーエバー

2014-01-22 21:10:56 | ショートショート
 いつかジョンにサヨナラを言わなくちゃいけない日が来るってわかっていたけど、こんなふうにサヨナラするなんて思ってもみなかった。
 今わの際、ジョンは息も絶え絶えになりながら俺を呼んだ。
「テッド、お前にずっと言いたかったことがあるんだ」
 俺は一言も聞き漏らすまいと片方の耳をジョンの口元に出来るだけ寄せた。
「テッド、お前よりも洗剤のCMに出てくるクマの方がずっと可愛い」
 口をあんぐりとさせた俺にジョンはニヤリと笑った。
「冗談だ」
 何だよ、冗談かよ、俺はジョンの肩を叩こうとして、ジョンが息をしていないことに気付いた。
 ジョンは死ぬまで最高の奴だった。いや、死んでも最高の奴だった。
 程なくしてジョンに続いてローリーも死んだ。時々盛大に喧嘩もしたけど、俺は彼女が大好きだった。
 やがてジョンとローリーの子供たちも死んだ。子供たちの子供たちも。みんな死んでいった。気の合う奴もいた。合わない奴も。いい奴も悪い奴も。みんな死んだ。
 最後に人間の顔を見てからどれぐらいたつだろう。よくわからない。
 こんなセンチメンタルな日に聴く音楽は決まっている。ビリー・ジョエルだ。
 誰だよ、ビリー・ジョエルなんておかまが聴く音楽だって言ってるのは!
 俺はビリー・ジョエルが大好きだ。何といっても彼の音楽を聴いているとお尻の穴の周りがムズムズしてくる。あの感覚がたまらない。
 今では音楽を聴くのも大変だ。手回し発電機を三分も回さなくっちゃならないからな。クマのぬいぐるみには重労働だ。
 昔、ローリーから、テッド、もっと静かにしてよ!ってよく叱られたっけ。
 オーケー、ローリー、地球はもう少しでこれ以上ないってぐらいに静かになるから。それまでの我慢だ。
 静かな夜にビリーの歌声だけが響いた。そして俺のお尻の穴がムズムズした。
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5 コメント

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あとがき。 (せぷ)
2014-01-22 22:51:01
この作品は映画『テッド』の穴サーストーリーです。
『勝手にアナザーストーリー会議』というサイトで募集していたので応募したんだけど、最終候補作にも残らなかった!
う~ん、自信あったんだけどなぁ。。。
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未見の立場からの印象。 (小夏)
2014-01-24 17:06:23
『テッド』のストーリーは何となく想像できたとしても、そこから派生したせぷさんのSSについては、「話が見えない」の一点で、うまく評価できないと思うのですよ。
この部分は、「最終候補」に残るか否かにも大きく左右されたんじゃないかなぁ。
あくまで、未見の立場からの印象としてね。
作品の出来の問題じゃないですよ、念のため。

テッドは年をとらないの?とか。
世界はどうなったの?とか。
その辺は、映画で語られていることなのかな?
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いつもありがとうございます。 (せぷ)
2014-01-25 07:05:02
小夏さん、いつも感想コメント、ありがとうございます。

このショートショートは『テッド』がWOWOWで放送されるのを記念して企画されたインターネット番組で募集されていたので応募したので、『テッド』が鑑賞してあることは前提で書かれています。
なので鑑賞済みであれば何も問題はないはず、、、です。

っていうか、文字制限があったんですよ。800字の。
それでこの作品は790字ぐらいで書かれています。
残り10文字では世界観の説明に割く字数もあるわけもなく、読んでもらったような作品になりました。

いつか小夏さんが『テッド』を鑑賞されることがあったら、またこのショートショートのことを思い出して、読み直してみて下さい。
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Unknown (蒼史)
2014-04-28 04:33:26
私はこの作品を、古きよき時代を思わせる未来(あるいは別世界)の、テディベアの話として読みました。親から子へ、そして孫へ。何度も修理を繰り返しながら受け継がれるテディベア。それは微笑ましい、心温まる状況なんだけど、テディベア側から人間を見たら、この作品のように次々と死んでいくわけで、無常感やある種の恐怖を感じました。
コメント欄を読むと、映画「テッド」のアナザーストーリーだったんですね。未見なので内容がどうリンクしているのかよくわかりませんが、「テッド」を知らなくてもこの作品を楽しむことが出来ました。
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ありがとうございます! (せぷ)
2014-04-28 20:54:21
蒼史さん、感想コメント、ありがとうございます!
感想をもらえるとしてももっと先のことかと思ってました。
ショートショートの執筆、いよいよ気合を入れて頑張らなければいけませんね。

このお話は映画『テッド』の番外編として書きました。
『テッド』は見かけはテディベアなんですけど、中身が親父のぬいぐるみが主人公の映画です。
お下劣な映画なんですけど、相棒のジョンが中年に差し掛かって、なお年を取らないのであれば、もしかしたらテッドは不死なのかもしれない、そう思って書きました。
出来はすごく満足していますが、選考にはまったく引っ掛からなかったです。
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