この世界の憂鬱と気紛れ

タイトルに深い意味はありません。スガシカオの歌に似たようなフレーズがあったかな。日々の雑事と趣味と偏見のブログです。

物語を現代に移し替えることの限界を感じた『寄生獣  完結編』。

2015-04-25 23:13:08 | 新作映画
 山崎貴監督、染谷将太主演、『寄生獣 完結編』、4/25、ユナイテッドシネマキャナルシティ13にて鑑賞。2015年16本目。


 日曜日の夕方からは『アルスラーン戦記』が、深夜アニメでは『ジョジョの奇妙な冒険』や『寄生獣』が放送されている。どれも二十年以上前に発表された漫画や小説を原作としている。
 良いものはどれほど時を経てもその魅力が色あせることはないということなのか、それとも今の時代は二十年以上前の作品に手を出さなければならないほどアイディアに枯渇しているということなのか。

 『アルスラーン戦記』は架空戦記だし、『ジョジョの奇妙な冒険』はある意味時代を超越した物語なので、仮に100年後にアニメ化、映画化されたとしても特に問題はない。
 問題があるとすればやはり『寄生獣』である。
 漫画『寄生獣』は1990年代の日本を舞台にした物語である。
 一方アニメ版、映画版はどちらも現代(2015年?)の日本に舞台を変えている。
 1990年の日本と2015年の日本では当然いろいろなものが違っている。
 一番わかりやすい例は携帯電話の存在だろう。
 原作の『寄生獣』では登場人物が携帯電話を持ってさえいれば起こらなかった悲劇が何度も起きている。その代表が加奈の死であることは言うまでもない。
 そこら辺のことをどう処理しているのか、興味深くアニメ、映画を観た。
 比較的原作に忠実なアニメは(正直何度か録画ミスで見損ねているのだが)、時代を現代に移したことは上手く処理をしていた、、、ような気がする。処理をしているというか、胡麻化されているといった方が正しいかもしれない。
 一方映画ではその誤魔化しすら上手くいっていたとは言い難い。
 登場人物たちは(作り手の都合によって)携帯電話を使ったり、使わなかったりしていた。
 だから脚本はずいぶんご都合主義が鼻につき、無理があるように思え、結局それが1990年の物語を現代に移し替えることの限界を示すのだと思う。

 脚本の無理は何も携帯電話の有無にとどまらない。
 前作では新一の父、加奈、宇田など、原作の主要登場人物の何人かをバッサリとカットし、それが逆に長大な原作を前後編に収めるにはこれしかなかったのだろうと好印象を持った。その他の改変も悪い感じはしなかった。
 しかしこの完結編における改変はどれもが無理を感じた。
 映画では田宮良子は「渡したいものがある」と言って新一を動物園に呼び出し、最終的に彼女は新一に赤ん坊を手渡す。
 であれば当然田宮良子が新一に手渡したかったものは赤ん坊だったということになるのだが、その一方で彼女は事切れる間際、「この子と一緒に暮らしていきたかった」というような台詞を口にするのだ。
 ずいぶん無理、矛盾があるように思える。
 原作にはそのような無理、矛盾はない。田宮良子は映画と同じように赤ん坊を新一に渡すのだが、それはあくまでその状況下では彼女はそうするしかなかった、というだけである。

 矛盾は他にもある。
 後藤との第一ラウンドで傷を負った新一がゴミ焼却場の事務所に逃げ込み、朦朧とした意識の中で恋人である里美に電話をかける(当然この場面では携帯電話を持っている)。
 目覚めた新一の目の前には里美がいて新一は驚くのだが、新一以上に観ているこちらが吃驚である。
 新一はどうやって自分がいる場所を里美に伝えたというのか。
 ゴミ焼却場の事務所だったことがわかるのは新一が目覚めてからのことである。ゴミ焼却場だということが分かったとしても、新一が住んでいる街の周辺にゴミ焼却場は一ヶ所ではあるまい。
 仮に新一が自分がいる場所を正確に伝えられたのだとしても、里美はどうやってそこまでやってきたのか。徒歩か、自転車か、一番可能性として考えられるのはタクシーだろうが、タクシーの運転手も夜中に一人の少女が人里離れたゴミ焼却場で下してくれといっても、常識的にいって下ろさないだろう。
 ゴミ焼却場の事務所でのメイクラブがこの映画の売りの一つであろうことは容易に想像できるが、あれだけ状況的に無理があると、原作通りに最後の戦いに臨む前に新一が里美を抱いた、という方がはるかに増しというものである。

 前作、そしてこの完結編を通して観て、グロ描写はずいぶんと頑張ったなとは感心したが残念ながら、あまりに脚本上の無理が多いせいで、一つの物語として感動するには至らなかった。
 改めて原作の良さを再確認した。
 原作の『寄生獣』はこの先10年、いやこの先100年に渡って読まれ続けられるだろうが、5年後映画版『寄生獣』のことを覚えているものはおそらくいないであろうと思う。


 お気に入り度は★★★、お薦め度は★★★(★は五つで満点、☆は★の半分)。
コメント (7)
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