この歯列の変化の原因は色々考えられると思いますが、一番の原因は口腔筋機能の異常な動き或いは機能低下だと考えます。
半年間入院でのベッド生活、病院食等の生活環境の影響で別人のように変化してしまったのです。
言い方を変えれば病院生活に順応した歯型とも言えます。
顎口腔内の筋力や舌の力(位置)、呼吸・嚥下の仕方で歯列は簡単に変化すると言われています。
これは、様々な動きが反映された結果の歯列で、それもたった半年間で此処まで変化したのです。
入院前は、絶妙なバランスでⅠが維持されていたんでしょう。それが入院生活で破綻したんでしょう。
不正咬合(歯列不正や下顎頭の位置異常)の主な原因は以下のようになると思います。
1.口呼吸
口輪筋等の機能低下や舌の低位、舌癖異常、それに付随する異常嚥下、上顎骨の劣成長。
免疫力にも関係してくると考えられます。
2.咀嚼回数の不足
咀嚼筋を含む顎頭蓋周囲筋や頭蓋骨の正常な発育阻害
3.悪い姿勢
頭位と下顎位の関係、ひいては頸椎等の関係。
側湾症や猫背。
1.2.3.に関連することですが、舌房の小さい人が増加しています。
舌房が小さいと舌は緊張し、後方や低位、上下歯牙の間もしくは上下前歯の間に置かざるを得なくなります。
これが舌と咽頭、歯列、口蓋、下顎の位置関係に影響してきます。
例えば、舌が後方低位になると舌骨も後方低位となり気道を狭め、後方に押し込められた舌は咽頭を狭め、睡眠時無呼吸症の原因の一つにもなり、同じ1回の呼吸をしても呼吸の質には個人差がでます。
これがさまざまな疾患との関係や病気へのかかりやすさにつながっています。
風邪をひきやすい人、風邪をひくと高熱のでる人、のどを腫らす人、鼻詰まりや鼻炎がある人、アレルギー疾患のある人など多くの病の原因の一つにもなります。
これらは成長期の子供や成長が終わった成人に関係なく生涯ついて回ることは先ほどの写真からも言えると思います。
下顎は重心バランスをとる重要な役割をしています。
しかも脳神経の中で最大の三叉神経支配を受けていることからも、中枢神経系とは他の脳神経よりも大きな関わりを持っています。
体幹や頭部の重心を変えるとわずかに下顎も同じ方向に動きます。
この下顎が歯並びの問題で動きを制限されたり、ずっと偏位したままであれば頚椎のずれを引き起こし、背骨のずれへとつながっていきます。
この逆に、姿勢が悪く、骨盤のズレから背骨、頚椎そして下顎のズレにつながっていくと言われますが、このズレの多くは歯椎で止められるそうです。
『体幹や頭部の重心を変えるとわずかに下顎も同じ方向に動きます。』
と書きましたが、このような理由からNM Psitionの採得ではFH Plane、Bipupillar lineは水平になっていることに注意する必要があります。
子供の口呼吸・咀嚼回数不足・不良姿勢で成長期にすでに偏位していることも多く、偏位したまま成長すると頭蓋骨に変形をきたし、下顎の動きが制限されることもあり、TMDの予備軍になる可能性があります。
これらは顔の左右非対称、左右の目の大きさの違い、鼻筋の曲がりなどにも現われています。
不正歯列(咬合) ⇒目標⇒ 正常歯列(咬合)の要件
1.口呼吸 1.鼻呼吸
2.咀嚼回数の不足 2.十分な咀嚼回数
3.悪い姿勢 3.正しい姿勢
4.ムシ歯や歯周病に対する口腔ケア
筋電図や顎描記装置、TENS、咬合器など疎かに出来ませんが、
咬合治療の目的は三位一体をはかりながら不正歯列を正常歯列もしくは正常咬合を目標に生活習慣の改善をはからねばならないと思います。
そして子供であれば咬合誘導、成人であれば更なる悪化の阻止になるでしょう。
そういったことからもセルフケアは蔑ろに出来ないでしょう。
またセルフケアは異常な機能から正常な機能に誘導する役割と考えます。
今後の咬合治療は
上下歯牙の接触状態を考えるから、下顎位を考える、咬頭嵌合位を考える、咀嚼筋のバランスを考える治療。更に正常な口腔筋機能を維持・増進を図りながら、頭蓋骨の歪みを取り、口腔咽頭領域、顎顔面領域をフォローしなければならないでしょう。
また、そういった試み(治療)は赤ん坊から始まっていると考えます。
当然、成長期と非成長期とでは対応に変化があると思います。