ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 大澤真幸著 「夢よりも深い覚醒へー3.11後の哲学」  岩波新書

2012年11月29日 | 書評
倫理の破壊をもたらした大惨事の後に、原発への根源的な問い 第2回

序(2)
本書の題名(なにやらゆかし文学的表現)「夢よりも深い覚醒へ」はどうみても、フロイトからユングそしてラカンの心理学・精神分析の系列に関係ありそうだ。この名文句は実は大澤氏の東大時代の師である見田宗介氏の言葉だそうだ。フロイトの夢分析に死んだわが息子の遺体の側で眠る父の見た夢の話がある。夢の中で息子が枕元に立ち「僕がやけどをしているのにどうして分からないの」と父を激しく責める。夢から醒めた父は息子の遺体の側のロウソクが倒れ、息子の衣服を焼いているのを見た。この夢に対する標準的な解釈は、夢には睡眠を引き延ばす機能があると云う説である。これに対してジャック・ラカンは激しい夢がその内在的な力で人を覚醒に追いやるとして、息子を病魔から救えなかった父の深い罪悪感が夢の中で父を責めるだとした。父が目を覚ましたのはこの罪悪感から逃れるため、意識していなかった真実に出会って、今度はそこから現実のほうへ逃避したのだという解釈を示した。夢のほうに激しい真実があって、そこから逃げるように眼を覚ますのではなく、夢よりもっと深いレベルで夢の本質を意識し、覚醒してから行動を起こさなくてはならないという教訓を大澤氏は言いたかったのである。3.11の出来事が悪夢とすれば、その本質を深いレベルで認識し、我々は何をすべきなのかを問うのが本書の目的である。地震と津波による3.11福島第1原発事故は原子力安全神話がウソである事を白日の下にさらした。原発はすなわち原爆であることを知らしめた。
(つづく)

読書ノート 宮崎勇・田谷禎三著 「世界経済図説」 第3版 岩波新書

2012年11月29日 | 書評
世界金融危機・ユーロ危機を経た現在の経済状況を図説から読む 第16回

7)地球環境保全(2)
⑥土壌汚染・砂漠化
フロン・重金属・農薬による土壌汚染は同時に地下水汚染につながる。日本では厳しい規制が進んで問題となる事件は少なくなった。土壌の劣化や砂漠化・乾燥化は日本では考えられないが、中国・アフリカでは水資源問題と連動して深刻な問題である。
⑦ゴミ・廃棄物
日本の2007年一般廃棄物4800万トン・産業廃棄物4億2000万トンは、焼却場・最終処分場不足で一部不法投棄されている。2000年の世界の廃棄物量は127億トンである。
⑧都市問題と環境
世界中で都市に人口が集中しており、その生活環境は悪化している。交通混雑、騒音、大気汚染、スラム化、ヒートアイランドは止まない。今後地方分散・地方分権をすすめなければならない。
⑨自然環境と生態系
戦争および自然災害以上に自然環境を破壊するのは人間の経済活動である。(自然搾取) 森林の喪失はアフリカ。中南米で著しい。自然環境が失われると生息する生物種の生態系も破壊される。その生態系の理解はまだ科学的にできていない。
⑩国際協力(自然環境と開発)
「環境と開発に関する国連会議」(地球サミット)が1992年リオで開かれ、1997年京都議定書を初め一連の国棹会議が開催されている。地球環境保全に必要な費用も莫大にあると考えられるので、国際的な取り決めが必要となる。
(つづく)

筑波子 月次絶句集 「秋夜雑興」

2012年11月29日 | 漢詩・自由詩
空江日隠暮山昏     空江日隠れ 暮山昏く

麦隴天寒水巡村     麦隴天寒く 水村を巡る

枯樹敲窓風落葉     枯樹窓を敲いて 風は葉を落し
 
新霜凍壁月侵門     新霜壁を凍らせ 月は門を侵す


○○●●●○◎
●●○○●●◎
○●○○○●●
○○●●●○◎
(韻:十三元 七言絶句平起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)

読書ノート 大澤真幸著 「夢よりも深い覚醒へー3.11後の哲学」  岩波新書

2012年11月28日 | 書評
倫理の破壊をもたらした大惨事の後に、原発への根源的な問い 第1回

序(1)
 2011年3月11日の東日本大震災と福島第1原発事故発生の1周年を契機に、本書は2012年3月6日に岩波新書として発刊された。3.11後の1年間に、関係する本を特に原発に関する本を多く読んだ。本書はちょっと異色の切り口である。行政や政治、経済や科学技術という取り扱い方ではなく、哲学的・形而上学的というか、宗教的な意味合いも含まれている。本書のあとがきに「われわれは、その超えた何か、それ以上のものを言葉にし、それに対応した事を要求すべきではないだろうか」と述べている。そして書名が「夢よりも深い覚醒」という詩的な表現をとっている。この題名を補足して表現すると「夢が暗示するよりも深いレベルで覚醒せよ」ということであろう。3.11の出来事は悪夢だと思う人もいるが、悪夢だとして喉元すぎれば何とかで希釈されるべきことではなく、その夢から現実へ逃避するのではなく、夢により深く内在するようにして覚醒しなければならない。3.11の意味・意義を深く知れということである。こういう考え方をする人は哲学者に違いないが、大澤真幸氏については私はよく知らないのでプロフィールを調べた。大澤 真幸(1958年10月15日 -生まれ、長野県松本市)は、日本の社会学者、専攻は数理社会学、理論社会学、比較社会学・社会システム論だという。東京大学文学部社会学科卒業後、1987年東京大学大学院社会学研究科博士課程卒業し同年4月~1990年までの間東京大学文学部助手を勤める。その後、千葉大学文学部講師・助教授、1997年京都大学人間・環境学研究科助教授となり2007年同研究科教授になった。ところが、2009年9月1日付で突然辞職した。理由は世間でいうところによるとセクハラらしい。その後思想家として文筆業で復活した。2007年『ナショナリズムの由来』で毎日出版文化賞受賞。個人誌『大澤真幸THINKING「O」』(左右社 、2010年3月より)を発行している。主な著書には、『資本主義のパラドックス――楕円幻想』(新曜社、 1991年)、『虚構の時代の果て――オウムと世界最終戦争』(ちくま新書、1996年)、『「不気味なもの」の政治学』(新書館、2000年)、『帝国的ナショナリズム――日本とアメリカの変容』(青土社、2004年)、『不可能性の時代』(岩波新書 、2008年)、『社会は絶えず夢を見ている』(朝日出版社、2011年)、『近代日本のナショナリズム』(講談社選書メチエ、2011年)などがある。ということで大澤真幸氏は社会学者であった。
(つづく)