ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 宇沢弘文著 「ケインズ一般理論を読む」 岩波現代文庫

2013年03月25日 | 書評
市民に分かるようにケインズ「雇用・利子及び貨幣の一般理論」を解読する 第13回

第5講 第3篇「消費性向」
 「一般理論」でケインズが分析しようとしたのは、1国経済の労働雇用量がどのようにして決まるかという問題である。古典派は雇用量は、論理上は総供給曲線と総需要曲線(どうして求めるのかは不明だが)の交点で決まるとした。ケインズは第3篇・第4篇で総需要を決める消費と投資について論じる。ここで政府関係は無視視して民間部門だけを考えている。雇用量Nと消費額Cの関係を表すのが消費関数である。ケインズは賃金単位で計った所得Ywと賃金単位で計った消費額Cwの関係を、Cw=χ(Yw)と考えた。ケインズは消費支出額を決定するのは、そのときの所得水準が最も重要であるとした。消費の動機を与える主観的要因と客観的要因のうち客観的要因のみが決めてである。その客観的要因とは次の6つである。①消費は実質所得に依存する。 ②消費は純所得の大きさに依存し、適応的に変化しない。 ③資産価値の偶然的変化の消費性向への影響は大きい。 ④現在の消費と将来の消費の主観的な交換比率は変化する。利子率の変化は人々の保有する資産価値を変え、そして消費性向を帰る。 ⑤財政政策の変化 政府の財政政策は利子率と同じく重要は要因となる。 ⑥現在の所得と将来の所得への期待の変化 しかし個人的な期待は相殺しあまり影響は少ないと見る。(これは1937年に発表した論文「雇用の一般理論」と矛盾しする。) ケインズの消費関数はどのよう形をしているのだろうか。関数形もないのだから本来想像できないが、消費の増加は所得の増加よりは小さいという特徴を持つ。消費の増加は所得の増加に対して逓減的であるという。その特徴を表すと、0〈dCw/dYw=β〈1である。βを限界消費性向とよぶ。βが局所的に一定だとすれば線型1次の関係である(実際はβはYwに依存するだろうが)。もし消費性向が増えない場合、雇用の増加は投資の増加によって始めて可能となるという結論にケインズは至る。すると雇用は期待消費と期待投資の関数となる。資本蓄積が進むにつれ所得と消費の乖離はますます困難なものとなり、次期の投資をさらに困難とするので、公共投資によって雇用を増やす政策は困難を先延ばしにするだけで、問題の解決にはならない。

 ケインズは所得をすべて消費しつくさないで貯蓄する動機を8つにまとめた。①予備的動機 ②深慮・不確実性 ③打算・投機 ④向上 ⑤独立 ⑥企業 ⑦名誉心 ⑧貪欲 消費性向や貯蓄性向に関する主観的・社会的動機は僅かしか変わらない。利子率の変動(所得が所与のとき、利子の上昇→貯蓄の向上→消費の減退→投資の減退→貯蓄の減少)も副次的な影響しか与えない。消費の短期的変動はもっぱら所得水準によって左右されるというのがケインズの結論である。消費性向が一定であるとき、雇用量の増加は投資の増加に伴ってしか起きない。カーンは投資と所得の間に乗数と呼ぶ関係を見出した。ケインズは所得Ywと賃金単位で計った消費額Cwの関係を、Cw=χ(Yw)と考え、限界消費性向をβ(dCw/dYw)と定義した。消費プラス投資が所得に等しいから、投資による所得の増加は比例乗数k=1/(1-β)を掛ければいいことになる。kを投資乗数と呼ぶ。同様に投資産業の雇用を増加させた場合の国全体の雇用量増加の比例乗数k'を雇用乗数と呼ぶ。投資乗数kと雇用乗数k'は普通異なった値をとるが、k=k'の場合をケインズは検討する。所得が増加しても消費性向が変わらない(限界消費性向β=0)場合、投資乗数kは1となり公共投資事業による雇用量の増加にしか効果は現れない。低い雇用水準で低迷せざるを得ない。公共事業による雇用が総需要に及ぼす影響は失業が大きい時には効果は目立つ。借入金(国債)によって賄われる公共事業はいかに「浪費的」であってもそれなりの効果は出るのである。大災害(復興事業)、戦争、壮大な土木建設(新幹線・高速道路、オリンピック)などである。ここでケインズはいやな皮肉をいう。「穴掘りは何もしないよりましなのだ」
(つづく)


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