ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 濱口桂一郎著 「新しい労働社会ー雇用システムの再構築へ」  岩波新書

2010年03月10日 | 書評
多様化した労働社会に対応する新しい日本の雇用システムとは 第3回

 先進国欧州の労働事情が正しい路を歩んでいるわけでもなく、日本の労働事情だけが混迷を続けているわけではない。むしろ1990年代の新自由主義による規制緩和政策(小さな政府路線、サッチャー・レーガン主義)が日本の労働事情を破壊し、混乱に貶めるまで、日本の経済や生産力は日本独自の労働事情が支えていたのだという世界的な評価もあった。「多様化する労働事情」という言葉は働いたことがない学者たちが好んで使う言葉である。少なくとも当事者(利益関係者)の使う言葉ではない。当事者は事情は単純なほうを好むものである。多様性を喜んでいるの部外者である。複雑で混乱している方が部外者が口を挟みやすいのであろうし、それが自分の立場を誇示することにもなるのだろう。日本では労働情勢は「三者構成原則」というもので運営されてきた。政府の審議会などの政策審議は、政府・使用者・労働者の三者の合意で諮られてきたのが、小泉元首相の「経済財政審議会」がこの伝統を破壊した。「失われた15年」で失われたのは日本の労働社会システムではないだろうか。そして到来したのが西欧流新自由主義の格差社会であり金融資本の詐欺商法であった。その金融資本も倒れた今日、日本を再建するために知恵を出し合って考えてゆく一つのきっかけになればいい。著者が得意とするEUの労働事情が本書のあちこちで比較のために紹介されているが、ダーウインの進化論が説くように隔離された独自の進化を遂げた日本の労働状況にEUの事例を持ち出しても(EUに見習えといっているのか、日本は後れているといっているのか)、文化社会背景を抜きにしては語り難いので、かえってどうしろといっているのか混乱を招きやすい。著者は欧州並の多様な労働社会を提案したいのか、多様な労働状況は文化的に好ましいのか、経営側の利益にかなっているのか、労働者側は辛抱しろといっているのだろうか、どうも著者の本音が不明である。このことが本書の理解を困難にしている。そこで本書の紹介に当っては、EU労働事情はオミットして考えてゆきたい。
(つづく)

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