ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 青山弘之 著 「シリア情勢ー終わらない人道危機」 (岩波新書 2017年3月)

2019年01月12日 | 書評
独裁政権」、「反体制派」、イスラム国が入り乱れ、米国やロシアなど外国の介入によって泥沼化 第10回 最終回

6) 真の「ゲーム・チェンジャー」 (その2)

新たな軍事バランスと「当事者間の関係に大きな変化が生じた結果、2014年のジュネーブⅡ会議をやり直そうとする機運が高まり、2015年11月国際シリア支援グループISSGは3回目の紛争解決案に合意した。①紛争解決に向けた移行プロセスを停戦プロセスと同時並行で進める。②両プロセスからテロ組織(国連指定リストによる)を除外し「テロとの戦い」を通じてその殲滅を目指すという二点を基本原則とした。アサド政権と「反体制派」による和平会議を行い、半年後をめどに停戦し、移行統治機関を設ける。協議開始から18か月以内に新憲法を制定し、選挙を実施、紛争を終結させると定められた。この合意は12月18日国連安保理議決を経て国際承認された。共同議長国である米国とロシアは、2016年2月シリア国内で停戦合意を交わし発効した。しかし相変わらず「反体制派」のスペクトラが合意の大きな障害となった。とりわけイスラーム過激派とロジャヴァを主導するPYDの処遇を巡ってISSG各国の意見はかみ合わなかった。トルコとサウジアラビアはイスラム過激派を「反体制派」に参画させようとし、またPYDをテロ組織だと断じて譲らなかった。米国はPYDの協議参加を拒否せずロシアに同調した。かくしてシリア国内では停戦合意は有名無実化し戦闘は再開された。シリア国内ではシリア政府軍と「反体制派」との戦闘が激化し、2016年4月半ば和平協議から「反体制派」が離脱したことは、ロシア軍とシリア軍の攻撃強化の攻撃強化の口実となった。時局は確実にシリア軍とアサド政権に有利に進んだ。シャーム自由人イスラーム運動や、イスラーム軍がヌスラ戦線や「穏健な反体制派」と共に戦闘を再開すると、アサド政権とロシアはこれを停戦違反として非難し、軍事的圧力を強めた。2016年9月、アサド政権はシリア最大の経済都市アレッポ市の完全制圧を目指し、同市東部を完全包囲した。この結果、窮地に追い込まれたヌスラ戦線と「穏健な反体制派」は公然と共闘するようになった。ヌスラ戦線はアル・カイーダとの関係を解消し、組織名を「シャーム・ファトウ戦線」と改称して、一段と暴力性を強化した。この組織変更は「反体制派」のスペクトラを一段と混濁させ、「反体制派」はその後も離合集散を繰り返している。イスラーム過激派と「穏健な反体制派」は混然一体化し、その峻別は完全に意味をなさなくなった。米国オバマ大統領は2016年9月12日ロシアと「テロとの戦い」と停戦に関する合意を行った。①イスラーム国、ファトフ戦線などアル・カイーダとつながりのあるテロ組織と停戦の適用対象となる「穏健な反体制派」を米国が峻別する。②シリア軍と「穏健な反体制派」との戦闘を7日間停止し、③米国とロシアの合同で対テロ軍事作戦をおこなう。というものである。これにより米国はテロ組織と「穏健な反体制派」の峻別というできない相談を引き受けてしまったことがオバマ大統領の致命的な失敗であった。米国とロシアの協調関係は最終的に9月18日、有志連合がイスラム国と戦闘を続けているシリア軍を誤爆したことで破たんした。アサド政権は2月の停戦合意が失効したと発表し、再び攻撃の手を強めた。その内に、トルコと米国の間に不協和音が聞こえるようになり、トルコは米国にシリア民主軍を主導するYPGえをユーフラテス川東に移動させるよう要請したが、米国は西進を支援した。また7月のトルコ軍事クーデターの容疑者が米国に逃亡したので引き渡しを要求したが。オバマ大統領はこれを拒否したことが重なり、トルコは次第に米国から離れロシアに接近した。トルコとロシアの緊張関係は爆撃機撃墜事件で最高潮に達していたが、トルコのエルドアン大統領は2016年6月下旬爆撃機撃墜事件でロシアプーチン大統領に謝罪し関係改善に踏み出した。8月下旬トルコ領内で訓練を受けた反体制派はトルコ軍と共にジャラーブルス市に進攻し安全地帯を占領した。ロシアとアサド政権はトルコによる安全地帯の占領を黙認し、その見返りにトルコは11月から始まったロシア・シリア軍の制圧攻撃において「反体制派」の支援を控え、「反体制派」を見捨てた。1か月の戦闘の末シリア軍はアレッポ市東部の全域を制圧した。こうした交渉において米国は蚊帳の外におかれた。オバマ政権の任期終了のタイミングを狙った奇策であった。ロシアとトルコはその後、アサド政権と「反体制派」を停戦させ和平協議を行うことに合意した。2016年12月この合意に沿てシリアで停戦が発効し、国連は安保理決議で両国のイニシャティブを支持した。2016年1月にはロシアとトルコは合同空爆を開始しイスラーム国の拠点バーブ市への正面作戦を行い、シリア軍は東南部を制圧した。こうしてイスラーム国は、ロシア、トルコ、シリア軍、シリア民主軍、米国主導の有志連合の攻勢の前に後退を余儀なくされた。イスラーム国の支配地域はシリアだけでなくイラクでも縮小した。米国トランプ大統領は「関与すべきでない外国政権の打倒に奔走するのはやめる」という宣言はアサド政権にとって追い風になった。内戦であったはずのシリア内戦の混乱を再生産しているのは、シリアにとって異質な外国勢である。

(完)
『本(レビュー感想)』 ジャンルのランキング
コメント   この記事についてブログを書く
« 読書ノート 青山弘之 著 ... | トップ | 読書ノート サイモン・シン... »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿

書評」カテゴリの最新記事