ブログ 「ごまめの歯軋り」

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文藝散歩 モンテーニュ-著 荒木昭太郎訳 「エセー」 中公クラシック Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ

2018年07月10日 | 書評
16 世紀フランスのモラリスト文学の祖モンテーニュ-の人間学 第25回

Ⅲの巻 「社会と世界」
第1グループ 「社会の組み立て」 (その4)


⑦ スブリナについての物語  (第2巻 第33章)
紀元前1世紀のエトルリアの青年スプリナの神話を介して、カエサルの性質、行動についての評価が行われる。理性と野望が主題である。哲学が理性にたいして我々人間の魂を制する最高の力を与え、我々の様々な欲望を押させる権威を持たせる。欲望の中では恋愛ほど強烈なものはない。体と理性の両方に働きかける。体を痛めつけることで欲望を抑える習慣があった。釈迦さえ煩悩を断つことに苦労している。カエサルは欲望に入念な配慮をしたという。カエサルは4回妻を取り換えた。エジプトの女王クレオパトラ、マウレタニアの女王エウノエ、ローマでは人妻ポストゥミア、ロリア、テルトゥオ、ムティアと恋愛関係を持った。ブルートゥスはカエサルを父として生まれたようだ。漁色家で軍人であったことは明白であろう。英雄色を好むという喩もある。カエサルの快楽を求める行為は、野心という機会ができた時は一瞬の遅滞なく最高の力をふるって、すべての情念を抑えた。彼は食事については子の身をうるさく言わなかった。カエサルに抵抗した者たちに対する彼の温厚さと寛容さは例を挙げればきりがない。しかしこの見事な性質はあの野心の前には押伏せられた。トスカナの美貌の青年スプリナは人に混乱を与える自分の身体を苛み傷をつけたという。

⑧ もっと優れた男性たちについて  (第2巻 第36章)
詩人、君主、武人といった3つジャンルにおいてモンテーニュが敬愛する人間を選んで論考した。詩人にはホメロス、国王にはアレクサンドロス大王、武人にはエパメイノンダスを選んだ。詩人のホメロスはウエルギリウスの案内役であり、先生だった。ウエルギリウスの「アイネイス」はホメロスの「イリアス」から材料と形を継承している。盲目であり貧乏であった彼が学問知識が規則正しく構成される前の社会にあって、学識を豊に身につけ、のちの人に完全な師範となっている。ホメロスは詩人として最初の人であり最後の人と呼んでもいい。アレクサンドロ大王はホメロスから軍事行動の規範を受け継いだという。トロイア、ヘレネの戦いを知らない人はいない。ホメロスの生誕地として7つのギリシャの都市がが名乗りを上げている。次に大王としてはアレクサンドリア大王を選んだ。大王は33歳という若さでペルシャからインドまで広大な帝国を築いた。何か人間を超えた武勇と幸運が想像される。死後は世界を4分して将軍に分けて長く帝国が持続した。彼の品行には非難を加えることはできない。なるほどあれだけに偉業を正義の規則だけでは説明できない。そういう意味であのカエサルよりアレクサンドロス大王を上げた理由が分かるだろう。カエサルには自分自身要素がおおきく、アレクサンドロスには運命の要素が大きい。あるいくつかの点ではカエサルの方が偉大だったと思われる。カエサルの野心は彼の帝国が破滅したため割り引かなければならない。第3の武人ではギリシャのテーバイの将軍エパメイノンダスを挙げる。彼の武勇の徳はアレクサンドロス、カエサルに匹敵する。ギリシャの第一人者として、彼の学識、知力が優っていた。彼はピタゴラス学派び属する人間である。彼の品行と良心は政治に携わった人の中では群を抜いている。スキピオも取り上げたい武人である。

(つづく)


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