ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 青山弘之 著 「シリア情勢ー終わらない人道危機」 (岩波新書 2017年3月)

2019年01月10日 | 書評
「独裁政権」、「反体制派」、イスラム国が入り乱れ、米国やロシアなど外国の介入によって泥沼化 第8回

5) 「シリアの友」グループの干渉 「テロとの戦い」(その2)

この会議には40カ国が参加し、アサド政権と反体制派が戦闘停止と政治プログラム開始に向けて直接討議を行う場であったが、最初から難航していた。その理由の第1は「反体制派」内での指導権争いにあった。もっとも鋭く対立したのはシリア国民連合と民主的変革諸勢力国民調整委員会であった。シリア国民連合は政権打倒を譲らなかった。アサド政政権との協議自体を拒否した。米国とロシアは「反体制派」に一本化を提案したが、ほとんどの反体制派が脱退して抵抗した。ヌスラ戦線、イスラーム国といったイスラーム過激派に対する「テロとの戦い」を和平協議に優先すべきだとするアサド政権と「反体制派」は鋭く対立した。結局ジュネーブⅡ会議は、アサド政権の背氏的な優位を再確認しただけで、「反体制派」の渾沌ぶりに収拾がつきそうにないことを再確認した会議であった。ひとりPYDは会議期間中に移行期自治政府を樹立し「国家内国家」としての位置を強めた。ジュネーブⅡ会議により、シリアの友グループの干渉政策はイスラーム国の台頭によって、政策変更を余儀なくされた。イスラーム国ISはヌスラ戦線と決別後、シリア内戦の主要な当事者として活発に活動した。2014年5月米国はISをイラク・アル・カイーダの別名として外国テロ組織に登録し制裁リストに追加した。しかしシリアの友グループは、アル・カイーダの系譜にある「反体制派」と同様に、ISの壊滅に向けて積極的に取り組むことはなく、アサド政権に牙をむく範囲において彼らの活動を黙認した。欧米諸国がISに対して警戒し始めたのは、2014年6月彼らがシリアからイラクに勢力を拡大し、モスル市を制圧してカリフ制樹立を宣言した後の事であった。イラクの石油が脅かされる恐れから米国はイスラーム国を「国際秩序最大の脅威」と見なし60ヶ国からなる有志連合を結成し、2014年9月にIS支配地域に対する空爆を開始した。ここに米国を中心とした「テロとの戦い」というパラダイムシフトを行った。この政策変更は米国およびシリアの友グループの混乱を招いた。これまで行ってきた「穏健な反体制派」支援政策に分裂がおき、ISと闘う武装集団に対する支援を積極化することになった。分かちがたいイスラム過激派の組織を含む「穏健な反体制派」という存在が明確に存在するのかどうかも怪しい混沌とした状況で、一体どういう基準で誰を支援し、かつ誰を攻撃するのか極めて怪しい多重基準(つまりご都合主義・恣意的選択)にならざるを得なかった。これはいわゆるマッチポンプ(火つけと火消しが同一人物によって交互に行われる)になる。2015年1月有志連合はトルコにおいて、ISと戦う地上部隊の訓練を行った。しかし訓練兵士が逃亡したり、師団ごとISに寝返ったりするため、10月にはこの育成プログラムは廃止された。これらの「穏健な反体制派」も組織的にはイスラーム過激派と共闘を持っていたのである。米国が支援した組織が実はイスラーム過激派部隊であったのだ。シリアの友グループ員であるトルコとサウジアラビアにとって「テロとの戦い」は欧米諸国のイメージする通りにはならなかった。トルコはクルド人対策においてクルディスタン労働者党PKKをテロ組織と見なし、ISをPKK対策の防波堤にしていた。イスラーム国を利用してクルド人組織を弾圧してきたのである。トルコが排除しようとするテロ組織はイスラーム国ではなかった。トルコの地政学では、ユーフラテス川東岸とアレッポ県のアフリーン市一帯に分かれるロジャヴァの支配地域を隔てるための安全地帯を確保することであった。サウジアラビアも2015年以降にわかにトルコに接近し、それまで躊躇していたヌスラ戦線、シャーム自由人イスラーム戦線などのイスラム過激派全般への支援で連携することに合意した。この「反体制派」の再編成で3月にアル・カイーダの系譜にあるファトフ軍が結成され、シリア内においてイドリブ県に支配地を確保し、イスラーム過激派と連携して勢力を拡大した。このためシリア軍はイスラーム国ISによってヒムス東岸から撤退した。イスラーム過激派と「穏健な反体制派」が共生する「反体制派」スペクトラのなかで、イスラーム国と対立する「反体制派」などは存在しない。米国はISと闘うといいながら、ISを拡大再生産しているようにも見える。

(つづく)
『本(レビュー感想)』 ジャンルのランキング
コメント   この記事についてブログを書く
« 読書ノート 青山弘之 著 ... | トップ | 読書ノート 青山弘之 著 ... »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿

書評」カテゴリの最新記事