ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 柿崎明二著 「検証 安倍イズム」 胎動する新国家主義 (岩波新書 2015年10月)

2016年12月03日 | 書評
安倍流国家介入型政治(国家先導主義)は、戦前型政治体制へのノスタルジア その情緒的イメージ戦術に惑わされるな 第5回

序(その5)

豊下楢彦・古関彰一著 「集団的自衛権と安全保障」
安倍首相が提唱する「積極的平和主義」とは具体的には「積極的軍事主義」をめざすものであり、知れを象徴的に示すのが、武器輸出禁止3原則の撤廃である。1967年佐藤栄作首相が、共産圏、国連決議で禁止された国、国際紛争の当事国またはその恐れがある国の3つのカテゴリーの国への武器輸出を禁止した。1976年三木首相は実質的にすべての国への武器輸出を認めないことになった。それ以来自民党内閣の国是として守られてきたが、野田内閣が我国と安全保障面で協力関係にある国と共同開発した場合については輸出を認めるという原則緩和に踏み切った。ところが2014年4月安倍内閣は過去半世紀間守られてきた武器輸出3原則を撤廃し「防衛装備移転3原則」なるものを策定した。「武器を輸出して平和を促進しよう」というもので、「積極的平和主義」とおなじ武力で平和を勝ち取るという言葉の綾というより、転倒した論理を平気で使う支離滅裂さである。美しい日本がイコール戦前レジームである論理もそうである。言葉の魔術師というより、言葉の矛盾を無視して収まる脳の構造を見てみたい。武器移転が禁じられる新たな3原則とは、①条約や国際約束の義務に違反する国、②国連安保理決議に基づく義務に違反する国、③紛争当事国である。禁止対象国の定義が曖昧になって、解釈次第で裁量できる。それは国内企業が部品を供給するステルス戦闘機F35の米国政府の一元管理での輸出を可能とするための措置であった。つまりイスラエルにF35を輸出できるようにしたがための屁理屈に過ぎなかった。欧米の兵器産業の最大のお得意先は紛争国や独裁者の国であった。湾岸戦争ヲ引き起こしたイランのフセインは実はイラン戦争でアメリカに養われた独裁者である。これを「イラク・ゲート」と呼ぶ。米国がフセインに多額の債務保証を付け軍事独裁政権に育て上げたのである。イラクは格好の兵器市場となりフセインはモンスターに変身した。中国の強大化を背景として、インド、韓国、ベトナム、マレーシア、シンガポールなどのアジア諸国で文尾増強が進んでいる。そこに日本の兵器産業(三菱Gを中心とする重工業企業)が目を付けたのであろうが、日本の兵器輸出国家への道は、安全保障のジレンマを一層深刻なものとし、アジアの軍備拡張に火をつけかねない。安倍政権が狙うものは米国の「統合エアー・シー・バトル構想」に一体化したいのである。衛星攻撃ミサイル、無人機攻撃機、ロボット兵器、サイバー戦争などの全次元戦争への参加である。 憲法は人権擁護であり、安保条約は軍事同盟である。「万機公論に決すべし」の明治維新以来憲法は世界に開かれた窓であった。今憲法を考えるとすれば、どのような国の開き方をするのかということであるが、国際社会と地方自治の問題に集約されるだろう。自民党の憲法改正草案の、軍事力の強化、人権の制限、天皇制復権の3点セットはあまりに閉ざされた国家像である。明治憲法に戻そうとする時代感覚ゼロの国家像である。安倍首相の「積極的平和主義」と言った無内容なご選択を止め、平和のうちに生存する権利や外国人の人権を取り入れた開かれた国にするべきであろう。東京1極主義という首都圏収奪体制(財源を首都圏に集中する)の下では、2040年には半数の地方自治体は消滅すると増田元総務大臣は述べている。自民党の憲法改正草案は地方自治に何ら改正点はない。そのまま放置すれば地方は壊滅するというのに。明治憲法の下で「富国強兵策」が押し進められ、太平洋戦争に突入した。現在日本のGDP は世界第3位、軍事費は世界第6位となり文字通り「富国強兵」は実現されている。しかし人権は世界での底辺を歩んでいる。国連は1993年国内人権機関の設置を決める決議を出したが、日本は未だに設置を決めていない。女性の就業率は先進国中第20位、裁判の法律扶助費は最低レベル、GNPに占める教育費はOECDの最下位、外国人の参政権は否認したままで、世界に冠たろうとする姿は傲慢である。 戦後レジームからの脱却から戦前レジームへの回帰に執念を燃やす阿部首相は歴代自民党政府の国是を捨て去ろうとしている。しかも国際情勢は大きく変貌しつつあり、阿部首相が言う脅威は実は冷戦時代以前の古ぼけた脅威である。中国と米国のパートーナーシップは強まり、イランは欧米諸国との対話路線に舵を切っている。米国と北朝鮮に直接対話も裏では進行している。時々北朝鮮があげるミサイル型線香花火は交渉の行き詰まり打開の合図である。イラクでは親アメリカ政府はISIS過激組織による攻撃を受け、イランとアメリカの提携交渉が始まったといわれる。イランは核開発も交渉のテーブルに乗せたという。日本がイランを敵視すると、宗教宗派争いに巻き込まれるおそれがある。日本人には宗教は全く分からないため、不可解なりといって内閣崩壊になる事も有り得る。百年一日のごときイランによるアメリカ攻撃という荒唐無稽のシナリオしか描けない安倍首相とその周辺の頑迷さは驚くばかりの時代錯誤に満ちている。世界情勢の変化と日本の位置という政治の現実から目を離して、集団的自衛権行使だけが自己目的化していることが問題なのである。国を誤るとはこのことをいう。戦前レジームへの回帰とは、青年が誇りをもってお国のために血を流すという超国家主義の国家体制を作り上げることになる。国防軍の創設、天皇復権、国民の権利制限の3点セットが自民党保守派の願望なのである。集団的自衛権と憲法改正の問題は日本の国家の在り方と日本の針路の根幹にかかわる問題である。ここはしっかり議論しなければならない。

(つづく)