ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 広井良典著 「ポスト資本主義ー科学・人間・社会の未来」 (岩波新書 2015年6月)

2016年09月12日 | 書評
拡大・成長を追い求める超資本主義の限界と、定常化・持続可能な福祉社会の構想 第7回

第Ⅱ部 科学・情報・生命 (その2)

自然および生命がその内発性原理によって自分自身をどう組織化してゆくかという、誕生から「自己組織化と進化」の問題について考えてみましょう。それがポスト資本主義の社会の構想につながるからです。近代科学における自然観や生命観といった根本的な次元にさかのぼる考察が必要です。物理的現象から生命現象そして人間の全体像に対して考え方をあえて線引きすると、
①ニュートン力学の機械的決定論
②デカルト的二元論(自己と他者)
③シュレージンガー的生命/非生命的二元論
④アニミズム的一元論形成原理(物理から生命まで自己組織性)
と分けて考えよう。①のニュートン力学の機械論では接触しない力つまり重力は理解できません。力の伝達がないからです。アインシュタインは神さえ想定しました。西欧近代科学はもちろん②のデカルト的二元論で自然支配を目指す事でした。精神は不滅であるというプラトンのイデア論に基礎を置きました。③の生命論では因果論的決定か非決定かという相違が生命と非生命を分けました。シュレージンガーが生命はマイナスのエントロピー(秩序化)であるといった。無秩序となってゆく物理現象から秩序が生まれることが生命である。熱力学のアナロジーで考えるものです。④の自己組織化論は化学者プリゴジンの非平衡熱力学に基礎を置きます。一定の条件である秩序が生まれるという「散逸構造」は「自己組織化」と呼ばれた。自然そのもののの中に秩序形成に向けたポテンシャルが内在しており、それが展開してゆく中で生命、人間がが生成したという一元論である。素粒子から水素が生まれ、ヘリウムに融合し多くの元素が作られていった過程と同じ原理で、次には元素の化学反応で分子がうまれ、たんぱく質が合成され、遺伝子物質である核酸を獲得したという説である。世界を動かす駆動力と呼ぶものをニュートン力学的世界像では自然の外部(神でもいい)に求め、アニミズム的世界像では自然の内部に見出すわけだが、生命と非生命を一元的に把握する点では両者は似ている。近代科学の基礎をなす「自然の法則」と言う考えは古代ギリシャにもまたペルシャや東洋においても見られなかった発想である。それは中世ヨーロッパの宗教的、哲学的そして法学から生まれた。自然の法則とは、人が生まれつき持つ権利としての自然法に相重なるものである。神が世界を創造された時に設定された法則のことである。だから自然は人間が支配する対象となった。それに対して、近代科学のもう一つの特徴である「帰納的な合理性(要素還元主義)」は古代ギリシャの思考から来たものであろう。個の確立という点で近代民主主義に通じるものがある。近代科学はその二つの要素の結合として、①、②の「機械論的自然観・生命観」に達した。その先にどのような科学観が待っているのか、③、④の生命観であろうか。

(つづく)