ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート ジョン・ロック著 加藤節訳 「完訳 統治二論」 岩波文庫

2014年08月04日 | 書評
政治権力の起源を社会契約に求める近代政治学の古典的名著 第16回
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後篇 政治的統治について
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8) 政治的共同体の立法権力、執行権力および連合権力について
 人々が社会に入る大きな目的は先に述べたように、彼らの固有権を平和かつ安全に享受することであり、従って政治的共同体の第1のそして根本的な実定法は、立法権力を樹立することである。立法権力の第1の基本的自然法は、社会を保全することそして社会に属する各人を保全することである。そうした立法権力は政治的共同体の最高権力である。公衆が選出し任命した立法部の是認がない限り、法としての効力も義務も持たない。しかし立法権力は次のようなことをなしてはならない。①国民の生命と財産に対して、絶対的で恣意的なものであってはならない、②立法権力は恣意的な法令によっては支配する権力を手にすることはできない。すなわち公布された恒常的な法と、権威を授与された公知の裁判官によって正義を執行し、国民の諸権利を決定しなければならない。③最高権力である立法権力と言えども、いかなる人間からもその人の同意なしには所有物の一部さえ奪うことはできない。また戦争時のように絶対権力が必要とされるときでも、絶対的であっても恣意的であってはならない。統治にかかる費用を税金で徴収する権力を持つが、同意なしに所有法の基本法を侵害し、権威だけで徴収することはできない。④立法部は法を作る権力を移譲することはできない。個人もしくは立法部以外の機関に法を作る権利を移すことはできない。立法権力とは共同体とその成員を保全するために政治的共同体の力をどのように用いるかを方向づける権利を持つものである。よく秩序付けられた政治的共同体においては立法権力は適宜集合し、法を作れば解散し立法部の構成員も法の下に拘束される。法が速やかに執行され絶え間なく執行されるための権力が常に存在することが必要となる。こうして多くの場合、立法権力(議会)と執行権力(行政府)とが分離されることになる。国と国の関係は国際法によるものでなければ自然状態にある。特に国家主権、安全保障など、一つの政治的共同体の外部にある人々や共同体に対して、戦争と和平、盟約と同盟、交渉する権利が存在する。これを仮に「連合権利」(外交権)と呼ぶ。執行権力は内政を執行し、連合権力は外事を扱う。(現在ではこの連合権力は行政府が執行し、条約は議会の同意が必要)

9) 政治的共同体の諸権力の従属関係について
 共同体の保全のために行動する政治的共同体においては、ただ一つの至高の権力とは立法権力であって、他の権力はすべてそれに従属する。立法権力は執行権力を変更したり交替させることができるので、執行権力は従属的で最高権力ではない。立法部が恒常的の存在する必要はないが、執行部は常時存在しなければ職務は遂行されない。また立法部を招集したり解散させる権限が執行部にあるとしても、執行部が立法部より優位に立つことはない。しかし立法権力は信託権力に過ぎないから、国民はその立法権力が信託に反したり、恣意的に法を定めたりすれば、それを移転させたり変更する最高権力が存在する。信託によって与えらえたいかなる権力も、その目的が無視されたり反対されたりすればいつでも、その信託は失効せざるを得ない。その権力は与えた者に帰り、主権者はもっとふさわしい立法権力に委託しなおすことができる。つまり最高権力とは共同体のことである。ロックはここにおいて人民主権のことを言っている。社会契約による政治社会の形成を、立法権力を信託権力とみなしたロックの考えから導かれる当然の論理的帰結であろう。

(つづく)