ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 海部俊樹著 「政治とカネー海部俊樹回顧録」 新潮新書

2011年12月14日 | 書評
自民党良識派の政治人生 第3回

1) 三木内閣の官房副長官、文部大臣の時代 (1)

 海部氏の政治生活は1954年、早稲田大学政治学科に進学して以来、大学の先輩でもあった衆議院議員河野金昇氏の秘書を勤めたことから始まる。これが海部氏のその後の政治人生の方向をすべて決めたことになり、人の交際のきっかけとは実の恐ろしい影響を持つものである。「雀百までおどり忘れず」ともいう。その河野氏の急逝によって、1960年その地盤を引き継いで29歳の若さで衆議院議員となった。1960年自民党青年局学生部長を皮切りに、1966年労働省政務次官、1973年自民党人事局長、1974年自民党副幹事長と順調な政治活動に入った。その間海部氏は「青年会海外協力隊」の創設に尽力した事を誇りにしている。海部氏の終生の恩師は三木武夫氏である自民党の中で、三木派は30人ほどの小派閥であるが、正論を言い国民の人気もあるので主流派にとっては一目置かれる存在であった。1972年の「三角大福」総裁選で、海部氏は三木派の金配り役を担当し、金を貰った人の裏切りに泣いたという。派閥から二重、三重に金を受領する議員はざらにいたらしい。1974年田中首相の「ロッキード汚職」を受けて、イメージ一新を狙った「椎名裁定」によって、三木内閣が生まれた。椎名氏にとって三木内閣はほとぼりが冷めるまでの暫定内閣に過ぎなかったが、三木内閣は政治資金規正法改正、独占禁止法改正、公職選挙法改正に動いた。これが主流派の反発を招いて「三木おろし」が吹いて1976年12月に選挙敗北により退陣した。海部氏はここで派閥政治の「百害と一利」をいう。一利は政治家の人材教育で、百害は金権、談合、横暴、大臣の派閥振り分け、族議員と政財官の癒着など数知れない。
(つづく)

読書ノート 桑原武夫訳編 ディドロ・ダランベール編 「百科全書-序論および代表題目-」 岩波文庫

2011年12月14日 | 書評
フランス革命を準備した、フランス啓蒙思想家の集大成 第18回 最終回

インタレスチング (ズルツェル)
ズルツェル(1720-1779)は18世紀において最も先駆的な反古典主義芸術論者であった。彼の著書「諸芸術の一般理論」で、美学を構成する中心概念として、活動、エネルギー、インタレストの3つを挙げた。インタレスチングは好奇心といってもよいが、私たちの精神を釘付けにしてなにかの期待を持たせることである。「人間の優秀さとは、このような魂が常に引き絞られた弓のような状態にあることである」

天才 (サン・ランベール)
天才とは精神が広く、想像力が豊で、魂に活力がある事である。この天才讃美論は近代美学の祖といわれているカントの先駆をなす。ただ天才は祖国を救うことがあるが、彼が権力を持ち続けたら国は滅びるという指摘は面白い。政治家の想像力は、他人を不幸にする。

美 (ディドロ)
ディドロ以前の美学の批判的概論、ディドロの美学の一般理論、美的判断の条件からなるが、岩波文庫本はディドロの美学のみについて訳された。美を客体に存在する性質と、主体の側の知覚の統一のうちにあるという一般理論はまず頷ける。ところが美的判断が人によってかくも多様なのは、人々の側の美的判断の条件が様々であることによる。個人の恣意に左右されているわけではないという。
(完)

文芸散歩  池田亀鑑校訂 「枕草子」 岩波文庫

2011年12月14日 | 書評
藤原道隆と中宮定子の全盛時代を回想する清少納言 第72回

[197] 「風は・・・」 第3類
風は嵐。3月ごろの夕暮れにゆっくり吹き付ける雨風。以下四章は風に関する省察。

[198] 「八九月ばかりに雨にまじりて・・・」 第3類
八、九月ごろ雨に混じって吹く風は胸にくるのね。雨脚が横様に騒がしく吹くのに、ひと夏使った綿衣を生絹の単衣にかけて着るのって、この前までは単衣だけでも暑かったのに、いつの間に涼しくなったのだろうと思われて季節の変り目がおもしろい。暁に格子・妻戸を押し開けると、嵐がさっと顔にかかるのはたいへんおもしろい。

[199] 「九月つごもり十月のころ・・・」 第3類
九月末から十月のころ、空が曇って風が騒がしく吹きつけ、黄色の葉がはらはらと落ちてくるのは胸にジーンとくる。桜の葉や椋の葉は早く落ちるものよ。十月の木立の多い庭はたいへんにぎやかだ。

[200] 「野分のまたの日こそ・・・」 第3類
野分(台風)の次の日は胸に来ることばかり。立蔀や透垣などが乱れて前栽の植え込みもかわいそう。大木は倒れて枝も折れて、荻や女郎花のうえに横倒しになって臥せているのはあんまりだ。格子の壺に木の葉がわざとしたように吹き入れられているのは強い風の仕業だったのでしょうね。昨夜は寝られなかったので、遅く起きてきたらしい美しく清らかな女が小袿をかけて母屋からすこし顔をだしている、髪は吹き乱れてぼさぼさになっているのが本当に雰囲気がある。この景色を見て「むべ山風を」(古今集)と歌うのは歌心のある人だなと思われる。年頃にして17,8歳の若い女房らが生絹の単にブルーの宿直衣を着て、髪を長く丈までのばして袴のひだからちらちら髪が見え隠れして、根こそぎになっている草木を拾い集め植え直しをしているの。
(つづく)

筑波子 月次絶句集 「初冬暮景」

2011年12月14日 | 漢詩・自由詩
病怯厳冬寒透衣     病は厳冬に怯え 寒は衣を透し

風聲凛凛錦楓飛     風聲凛凛 錦楓飛ぶ

晩来霜気生空霧     晩来霜気 空霧を生じ

樹上飢鴉背落輝     樹上の飢鴉 落輝に背く


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(韻:五微 七言絶句仄起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)

CD 今日の一枚 シュニトケ 「室内楽曲集」

2011年12月14日 | 音楽
シュニトケ 「室内楽曲集」
①ピアノ五重奏曲 ②弦楽三重奏曲 ③ヴァイオリン独奏のためのフーガ ④チェロ独奏 ほか
1999 AFCN アンサンブル
DDD 1999 NAXOS

シュニトケ(1934-1998)はロシアの現代音楽作曲家、ショスターコヴィッチの継承者といわれる。ピアノ五重奏曲は1972年ショスターコヴィッチの没後3年に作られた。