ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 白波瀬佐和子著 「生き方の不平等」 岩波新書

2011年05月08日 | 書評
生き方は個人の選択だが、そもそも最初から立つ位置が異なる 第9回 

3)女の働き方・男の働き方 (2)

 少子化問題から労働力不足を憂うため女性就労を促進するというせこい見方がある。2006年の合計特殊出産率は1.32で少子化は深刻な現実であり、2005年より日本は人口減少社会に突入したとされる。出生率の低下は世代の成熟だけでなく進行した晩婚化・未婚化とおなじ不況と密接に連動している。政府は欧州の状況を見て、女性の労働参加が高い国は出生率も高い傾向にあるので、出生率を高めるには女性の労働参加を促進する必要があると解釈したようだ。これはあまりに短絡的な現象の見方にすぎず、保育所、賃金、働き方支援など女性の労働参加のための労働福祉施策が実を結んだ結果出生率が上がったのであって、政府の施策もなしに女性労働参加を求めても本末転倒であろう。遅ればせながら2001年より「雇用保険法改正」により産休所得保障、職場復帰給付金など、2004年には「少子化対策大綱」が決められたとはいえ、少子化に歯止めはかかっていない。2006年政府は「新たな少子化対策について」を発表したが、問題を「子供」と「家族」に限定し背景が無視されたことは問題である。そして女性と家族に向かって「大切な家族」、「子育ての喜び」とか価値観の押し付け説教をしていることである。人々の意識を政策目標とするのは危険である。倫理は政策ではない。「美しい日本」とか「友愛」とかいう美学や価値観の強要と同じ論理である。首相個人が内心でそう信じておればいいことで、法の前文で述べることではない。環境省のエコ意識の強要もおなじことである。
(つづく)

読書ノート 小田部雄次著 「皇 族」 中公新書

2011年05月08日 | 書評
明治以降の皇族の歴史を知ろう 第17回

第3部 昭和後期時代 新憲法と新皇室典範 開かれた皇室と戦後和解問題 (1)

 1945年11月GHQは皇族の資産調査を命じた。当時の金で総額5000万円で、各宮家の資産は100万円から800万円くらいで、一番多いのは伏見宮家であった。そしてGHQは天皇の直系(天皇と3兄弟の皇族)を除く、日本皇族男女より免税を含むあらゆる特権を剥奪すると命じた。これで税金でもって皇族を扶養することは廃止された。11月月には東久邇宮念彦は自ら臣籍降下を願い出た。1946年11月日本国憲法が公布され、天皇は自ら11宮家を召集し、皇籍離脱を申し渡した。こうして1947年10月11宮家51名が皇族としての地位や身分を失った。離脱した皇族には一時金が公布されたが、軍人皇族は受け取ることは出来なかった。宮家によっては百万円から800万円ほどであった。皇族の邸宅は売却されたが、西部の堤康次郎がプリンスホテルの用地としたところが多い。その他聖心女子大、議員会館、千鳥が淵戦没者墓地、庭園美術館などに変身した。宮様のその後は切り売り生活から商売失敗まで色々あるが、それは週刊誌的興味になるので割愛する。天皇はGHQより戦争責任を追及されることもなく、むしろ天皇は戦争終結に力があったとみなし、戦争責任は挙げて軍部にあり天皇は利用されたに過ぎないという、日本伝来の権力不在の虚構がまかり通った。
(つづく)

筑波子 月次絶句集 「新緑禅院」

2011年05月08日 | 漢詩・自由詩
淡紅桃李満山稠     淡紅の桃李 満山に稠し

新緑渓間禅院幽     新緑の渓間に 禅院幽なり

五重塔台林外聳     五重の塔台 林外に聳え 

伽藍金殿鏡中浮     伽藍金殿 鏡中に浮かぶ


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(韻:十一尤 七言絶句平起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)

CD 今日の一枚 「オルフェウスサウンド」

2011年05月08日 | 音楽
「オルフェウスサウンドのすべて」 ハイドン交響曲第48番ほか11曲
オルフェウス室内管弦楽団
DDD 1982 ドイチェ・グラモフォン

ジュリアード音楽院とイーストマン音楽院の若い演奏家達のアンサンブルで、16名の弦楽器奏者と10名の管楽器奏者からなるアメリカの音楽集団である。欧州伝統の合奏団といえばイ・ムジチであるが、これは若々しいアメリカの息吹きを髣髴とさせる。