今や茂木さんは哲学者 脳から人間存在の本質に迫る 第1回
序(1)
この本は「青春と読書」という雑誌に2005年5月から2007年4月まで2年間連載された。合計24回、1回分は四百字原稿用紙10枚相当であろう。新書版で2007年11月に集英社から刊行された。若い人を相手にした読書の進めのような内容なので、「人間存在の本質は・・・」という文脈が何度となく出てくる。その度ごとに私のような人間は「ドキッ」とする。最後の審判で「you are guilty]と宣告され、判決文を聞き逃すまいと必死に聞き耳を立てている私は何物だろうか。そんなことが分ればとっくに「死んでも可なり」である。分らないから生きているようなものだ。若い人はさぞ新鮮な面持ちで聞いているのだろう。
著者茂木健一郎氏は云うまでもなくいまNHKでモテモテの脳科学者である。何回も茂木氏の著書を紹介してきたので、いまさら茂木氏の略歴は紹介する必要はないだろう。しかし本書の末尾に書かれている人物紹介では、この人の本職はわからない。ソニーという企業の研究所の研究員らしいが、他に大学の客員教授を兼ねており、テレビで売れっ子解説者でもあり、まともにソニーという会社に通っているとは思えない。さすがソニーという企業は懐が広い。こんな人間を遊ばせて給料を払っているのだから。昔あった三菱化成「生命科学研究所」も同じような開かれた研究所で、企業の利益のみを追求するところではなかった。殆どの企業は世知辛い「企業秘密」(世界に誇るような秘密があればいいのだが、ないことがばれると恥をかくので秘密にしているだけ)で研究の囲い込みをやっている。そしていまや茂木健一郎氏は文化人になった。本書では哲学者になった。ウイキペディアで茂木健一郎氏を「クオリアまでをも含んだすべての現象を扱いうる拡張された物理学を志向している。著書『クオリア入門』は心も自然法則の一部であるという表題から始められており、意識のほんとうの科学を目指すという自身の方向性をはっきりと明示している。また茂木は脳内でのニューロンの時空間的な発火パターンに対応してクオリアが生起しているという独自の作業仮説をとり、そこからクオリアが持つ(であろう)何らかの数学的構造を見つけることが出来るのではないか、として研究を行っている。」と紹介されている。
(続く)