つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

純愛? どこが?

2005-12-27 11:06:02 | ミステリ
さて、表紙見てオペラ座の怪人を思い浮かべてしまった第392回は、

タイトル:容疑者Xの献身
著者:東野圭吾
出版社:文藝春秋

であります。

お初の作家さんです。
名前はよく聞く方だったのですが、まだ手を出してませんでした。

出勤時、わざわざ遠回りして『べんてん亭』を訪れるのが石神の習慣だった。
アパートの隣人であり、ここの店員でもある花岡靖子の笑顔を見るために。
店内に他の客がいない時などつい浮き浮きしてしまうが、気の利いた台詞など何一つ出てこない……それがもどかしかった。

靖子は以前、綿糸町のクラブで働いていた。
『べんてん亭』に来たのは、自分の年齢と一人娘の美理のことを考えたからだ。
だが、平和な生活はいとも簡単に崩れ去った……五年前に別れた男・富樫が会いに来たのだ。

富樫は靖子のアパートに押しかけ、執拗に復縁を迫った。
共に住んでいた頃の悪夢が蘇り、靖子と美里は富樫を殺害してしまう。
その時、物音を聞きつけてやってきた石神が言った――何か自分にできることはないか?

花岡親子のために偽装工作を行う石神の視点、彼の友人であり探偵役でもある湯川――のさらに友人である草薙刑事の視点、石神に助けられつつも彼の行動に不安を覚える靖子の視点を上手く使い分けたミステリです。

三人の動かし方が非常に巧みで、すらすらと読めました。
スポット的に登場し、全員に絡んでいく湯川のポジションも見事。
美里の扱いがちょっと……とは思いますが、物語を破綻させる程ではありません。

トリックですが、情報少ないけど、カンのいい人はすぐに気付くかな、と。
全然関係なさそうな所にヒントが転がってたので、偶然解っちゃいました。
あそこで気付かなかったら、そのまま引っかかっていたに違いない。(爆)

問題は、石神に全く魅力が感じられないこと。
彼が靖子に何を感じたかは置いといて、その想いは凄まじいまでの一方通行。
タイトルでオビ文について触れたけど、さらに、献身? どこが? と言いたい。

石神に対して、靖子が恐怖を抱くのは当然だと思います。
そもそもこの二人、心を通わせることはおろか、会話すら殆どしたことがない。
自分の知らない靖子の顔を見た時の心理、トリック、ラストシーン……どれも彼の
妄執を表しているとしか思えません、本当に気持ち悪い。

うーん……上手い作品だと思うんだけど、石神のキャラで全部帳消しかな。
湯川と草薙の微妙な関係とか、結構好きなんですけどねぇ。

二階堂黎人氏が自身のHPで非常に面白い推理をされてました。
ネタバレになるので、反転して、それについての感想を述べます。

半分賛成、半分反対といったところでしょうか。
美里と石神が事件以前から親しい関係にあった可能性は大です。
本文中に否定する要素がありませんし、こう考えると美里の不可解な行動に説明が付けられるからです。

ただ、石神が靖子ではなく美里を愛していたとするのは違うかなぁ、と。
そもそも石神の心理描写のところ(本文197頁とか209頁とか)で、しっかり靖子に気があることを書いてると思うのですが……。


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