とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

親子の不思議

2012-11-09 00:00:36 | 日記
親子の不思議



「アルジャントゥイユのひなげし」(モネ 1873年 オルセー美術館収蔵)

 母親と娘がひなげしの咲いている土手を散歩している。のどかなあたたかい風景である。土手の上にも同じ親子・・・。モネは時間の経過を表したかったのでは・・・と言われている。

 小室さんの窯場に今日も行きたくなりました。それはどうしても笙子さんの新しい作品を見たかったからです。窯場の隣の工房に近づくと、二人が話している声が聞こえてきました。小室さんと笙子さんが話しているようでした。しかし、しきりにお父さんという言葉が聞こえてきます。私は、おやっと思いました。そして、その部屋に立ち入ることを止めました。外でしばらく漏れてくる会話を盗み聞きしていました。作品についての話のようでした。・・・帰ろう、今日は。私は中に入ってはいけないと思いました。そして、帰りに冴子さんの店に立ち寄りました。


 珍しいですね、と冴子さん。

 いえね、京子さんがモデルの作品がここにあると聞きましたので・・・。

 ああ、あそこに出しています。いずれ美術館に出そうと思っています。

 おりがとうございます。・・・私は京子さんの絵を眺めながら懐かしい気持ちになりました。久しぶりに娘に会ったような気持ちでした。

 やっぱりいい絵ですね。

 私も好きな絵です。手元に置きたいです。

 親子の情愛ですか。

 それは皮肉に聞こえますよ。

 とんでもない。そんな気持ちではありません。

 いい絵はやはりいい絵です。

 同感です。

 ところで・・・。

 なんですか。

 あの、笙子さんですけれど、あのー、もしかして小室さんの娘さんでは・・・。

 えっ、ご存知ではなかったんですか。下の娘さんですよ。画家志望だったので知り合いの画家夫婦のところへ・・・。

 道理で・・・。いや、これでいろいろな疑問が解けました。

 いえね、先ほど窯場に行きましたが、笙子さん、しきりにお父さん、お父さんと仰っていたんです。それから、小室さんとよく似ているなと以前から思っていました。

 そうですか。

 古賀さんはご存知ないのでは・・・。

 さあ、それは・・・。

 いや、きっとそうだと思います。

 どうしてですか。

 両親が画家だということをしきりに強調しておられたからです。

 それは、逆に言うと、よくご存知だったからでは・・・。

 いや、ご存知ないという気が・・・。

 畝本さん、それはどうでもいいじゃないですか。何かわけでも・・・。

 いえ、別に深い理由などありません。・・・私はそう言いながら古賀さんが言う三美神という言葉の意味を考えていました。

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展示からのヒント

2012-11-07 11:12:38 | 日記
展示からのヒント



子ども教室の展示

 今年も子ども教室のささやかな展示をすることができた。最後まで頑張ってくれた子どもたちの純粋な努力を心から褒めてやりたい気持ちである。


出雲地方の神事花
 
 出雲地方だけではなく、このような傘鉾は全国各地で伝統的に祭りで作られている。私はこの造形美に日本らしさを感じている。


 子ども教室の展示が終わってから、笙子さんから電話がかかってきました。

 畝本さんの教室の展示を拝見しました。かわいい小物や絵本があって、畝本さんの別の内面を見せていただいたような気持ちになりました。

 やあ、そうですか。ありがとうございます。

 毎年なさっていますか。

 あの展示は七年目です。べつに京子さんのお父さんのようなベテランをお招きして、ものづくり教室を最近開きました。ご縁市場に会場を移して二つの教室を統合したいと思っています。

 そりゃ、いいですね。私も講師としてお願いします。

 ありがとうございます。ぜひお願いします。

 あのー、電話しましたのは、展示されていた作品の真ん中に丸い帽子のようなものがありましたが、そのことについて・・・。

 あっ、あの飾りですか。子どもたちと一緒に作りました。お祭りの花鉾のつもりです。それをイメージして作りました。や、私もいろんな人からそのことを聞かれました。

 やっぱりそうでしたか。私、あの形と色をじっと見ていて、大きなヒントをいただきました。

 えっ、ヒント。

 そうです。私が試作している焼き物の色です。

 どういうことですか。

 私は宍道湖をイメージした丸い器を作りましたが、それにあのような色を付けたらどうかと考えています。

 すると、様々な色が夜間に発色するという・・・。

 そうです。昼は宍道湖の夕焼け色、夜になるといろんな花が開くという・・・。

 あっ、そりゃ面白いですね。

 近く、試作品を作りますので・・・。

 何だかどきどきしてきました。早く見たいですね。

 出来次第、師匠にも相談します。それからすぐまたお持ちします。

  
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諏訪湖

2012-11-03 23:52:06 | 日記
諏訪湖





 諏訪湖の御神渡
 正確には諏訪大社上社から下社の方向へ向かうものを御神渡という。一説によれば、上社の男神の「建御名方命」(たけみなかたのみこと)が、下社の女神である「八坂刀売命」(やさかとめのみこと)に会いに行った足跡ともミシャグチ神が通った跡ともされており、神が諏訪湖へ降り立ったといわれる諏訪市側を下座(くだりまし)、下諏訪町側の、神が岸へ上がったとされる部分を「上座」(あがりまし)という。(Wiki)


 笙子さんに会ってから数日間、私は原因不明の腹痛と微熱が続きました。医者に診てもらいませんでした。何だか私にも来るべきものが来たような気持ちがしていました。やや気分がよくなってから笙子さんから電話がありました。


 弟さんの写真集どうもありがとうございました。個展が実現しなかったことが残念です。素晴らしい作品ばかりで感動しました。・・・それで私も宍道湖西岸に出かけて朝日を何日か見ました。日によって全く湖の色合いが違いますね。写真集の通りでした。

 そりゃどうも・・・、参考になりましたでしょうか。

 いや、参考というより私は絵に描きたくなりました。焼き物の色にするには微妙で繊細すぎます。いつかきっと描きます。

 そりゃ楽しみです。期待しています。

 実際に湖岸に佇んでいると、何か沖の方から囁きかけてくるような気がしました。

 えっ、どういうことですか。

 弟さんの気持ちが分かるような気分になりました。・・・どう言ったらいいですか、懐かしい声が・・・、母親が私を呼ぶような・・・、思わず湖に入りたくなるような・・・、そんな気分に襲われました。

 母親の声ですか。

 そんな声のような・・・。

 いや、私もそんな気持ちになりました。

 何かが繋がっているんでしょうね、きっと。

 えっ、どういうことですか。

 湖はどこかで繋がっているんでは・・・。

 えっ。

 私は日本画家ですから全国のたくさんの湖を見て回りました。景色は朝と昼と夜では随分違います。一番微妙な色合いを発するのはやはり夜から昼に移る朝方だと思います。

 私もそう思います。

 諏訪湖の御神渡を見たことがあります。これは水面の色の変化の美というより自然の神秘とか恐ろしさを感じさせました。

 えっ、諏訪湖。

 そうです、・・・本当に神様が渡っていかれるような・・・、ものすごい力を感じました。

 で、諏訪湖からはなにか聞こえてきませんでしたか。

 いえ、声というより全身を包み込むような力を感じました。冷たいけれど暖かい・・・、そんな力・・・。

 母の声は・・・。

 いえ、私には・・・。

 そうですか。

 諏訪湖に行かれたことがあるのですか。

 何度も行きました。

 何度も・・・、特別な思いがあるのですね。

 ええ・・・。

 よかったら話していただけませんか。

 私の母の故郷です。

 えっ、お母さんの・・・。

 そうです。私の母は諏訪の生まれです。・・・私を生んですぐに死にました。だから、湖を見ると諏訪を思いだします。
 
 そうですか。そうだったんですか。

 今までそのことはあまり人には話したことはありません。・・・すべてご縁だと思っています。

 ご縁・・・。

 そうです。ご縁には断ち切られてなおかつ蘇るものもあると思います。

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