とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

カブトムシ

2010-08-22 06:19:33 | 日記
カブトムシ



 最近子どもたちの間でカブトムシやクワガタがはやっているとか。しかも輸入までされているという。爬虫類、両生類などとは違ってペットとしてはえらく古典的だなあと私は思っていた。ところがこの現象はあるゲーム・ソフトの影響のようである。それを知って私はやっぱりと思った。
 カブトムシと言えば、即座に私はイノシシと結びつける。この連想は昨年の夏の貴重な体験に起因する。
 昨年の今ごろは仏教山の麓の枝葉リサイクルセンターで仕事をしていた。そこには幾つかの枝葉チップの山があって、カブトムシの幼虫の住みかになっていた。実は私も初めて知ったのだが、イノシシはその幼虫が好物だったのである。だから、夜になるとイノシシが群れをなして山から出てきて、チップの山の周辺をほじくり回して幼虫を食い荒らす。
朝仕事場に行って見ると、チップの山が変形するほど食い散らしていることもあった。私たちは泥田のようになったチップ置き場を呆然として見ていた。何とものすごいことよ。この調子で毎晩出てくると、チップの山は無くなってしまうのではないのか、と思われたのである。
 自然界の異変はイノシシの世界にも及んで、山から里へ食べ物を求めて出没したのである。だから、私たちは幼虫を見つけ次第チップを詰めたコンクリートの囲いの中に入れて、網戸で蓋をすることにしていた。その囲いの中のチップから、毎日たくさんの成虫が這い出てきた。見ていると、虫たちが愛しくなった。
 カブトムシを幼虫から育てて成虫になる瞬間の喜びをたくさんの子どもたちに体験させたい、と私は思っている。ゲームよりずっと面白いと考えるのは私だけだろうか。
                    (2006年投稿)

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