とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

匠は身近にいた

2012-06-12 22:59:04 | 日記
匠は身近にいた




「径(こみち)」小倉遊亀(おぐら ゆき、1895年-2000年)の1966年の作品。・東京藝術大学美術館所蔵

 
 彼女の71歳の時の作品である。見方によってはユーモラスな母と子と犬の買い物帰りの行列が描かれている。日の光と幸福感に満ちた瑞々しい躍動感と緊張感溢れる作品である。
 何をテーマとしているか。それは、母親の人間の表情を超えた崇高な雰囲気に象徴されている。求道の心である。「径」は仏道の道である。そしてこの絵を絵として成り立たせているのは竹籠である。

 
 長柄さん、「径」という小倉さんの作品知っていますか。私は久しぶりに電話しました。

 今度は日本画ですか。ええ、知ってます。

 そうですか、そうと知ったら話がしやすいです。

 どんな話ですか。

 いやね、あの絵の竹籠のような作品を作るような職人さんを誰か知っていますか。

 竹細工の職人さんですか。

 いや、木工でも陶工でもなんでもいいです。

 何を思いついたんですか。

 ちょっとした工房を始めたいんです。

 ほほう、工房をね。

 そうです。いい場所見つけたんです。

 作ってどうするんですか。

 大人だけではなく子どもたちも集めて物づくり教室を始めたいんです。

 教室ですか。

 いやそういう難しい感じではなく・・・。

 じゃ何ですか。

 ま、要するに芸術村を作りたいんです。

 芸術村?

 そうです。京子さんや冴子さんの画廊のに続く広い物づくりの場を作りたいんです。

 ええ、ええ、何だか分かりかけてきました。二人の活動を盛り上げたいんですね。

 相乗効果です。

 おお、おお、そうですね。そりゃいいことだ。

 長柄さん、「径」の竹籠、手提げ型のやつ、出雲市斐川町の錦織という職人さんが始められたことを知ってますか。

 もちろん知ってます。

 島根だけではなく全国展開で大規模に生産しておられた・・・。

 そうです、そうです、ごく庶民的で安価なんで、一時随分ヒットしてました。

 ああいう感じのものを作り上げたいんです。

 ああいう感じのもの?

 そうです。竹細工だけではなく、全国に広まっていくような細工物の生産です。・・・いや、ごめんなさい。そんな大袈裟なことを考えている訳ではありません。なんと言いますか、いつも手元に置いて置きたくなるような小物でもいいですね。

 そういうものを作る職人さんですか。

 そうです。

 素晴らしいお方がいます。

 えっ、どこにおられますか。

 すぐ近くに。

 近く?

 そうです。冴子さんの画廊です。

 冴子さんの・・・。

 そうです。

 まさかお父さんでは・・・。

 そのまさかですよ。

 えっ!

 お父さんは若いころ錦織さんの仕事を手伝っていました。

 そうですか!

 そうです。

 でも、眼が・・・。

 みくびっちゃいけませんよ。一たび小刀を持つと・・・。

 手先の感覚が鈍ってないんですね。

 何でも作りますよ。

 そりゃ驚きです。・・・絵だけだと思ってました。

 障がい者になっても確かですよ。

 そうですか。頼もしい。じゃ、一度お願いしてみましょう。

 私は、そう言ったもののその時実は半信半疑でいました。


東北関東大震災 緊急支援クリック募金←クリック募金にご協力ください。


 
 





最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。