労働者のこだま(国内政治)

政治・経済問題を扱っています。筆者は主に横井邦彦です。

CDSは禁止が望ましい

2009-05-15 00:44:41 | Weblog

 アメリカ政府がCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の規制を強化する方針であるという。

 しかし、サブプライム問題が表面化した07年以降、CDSの発行残高がせっかく減少しているのだから、CDSを“安楽死”させる、つまり発行を限定する方向が望ましいであろう。

 もともと「債務不履行リスクを売買する」この種の金融商品は、生命保険のようなものと考えられてきた。

 しかし、生命保険とCDSのような経済保険の違いは、生命保険が「死亡率」という生物学的な現象に基礎を置いているために「定数」として取り扱うことが可能である(毎年、死亡する人の数がだいたい定まっているので、生命保険会社は毎年どれだけの支払をしなければならないかを推計でき、それをもとに保険料を算定できる)のに対して、CDSのような経済保険(経済活動に対する保険)にはそのような「定数」は存在しない。

 確かに、ある年の不履行になった債務総額は算定可能であるが、その額はその年の経済活動の状況によって決定されるものであり、経済状態が悪化すれば、その総額は、数倍、数十倍にも膨れあがる可能性があるし、経済条件が好転すれば、数分の1、数十分の1にも減少するであろう。

 過去において、LTCMという会社が破綻して大きな問題になったが、それはこの会社に2名のノーベル経済学賞の受賞者が含まれていたからであった。(この二人は、デリバティブの価格づけ理論である「ブラック・ショールズの公式」(生命保険の保険料算定法を理論化したもの)の研究者で世界的な権威であった。)

 この過去において意味のある数字が、未来においては何の意味もない数字であることはLTCMとこの二人のノーベル賞学者が実証した通りである。

 LTCMが企業として成り立っていた(利益を上げることができた)のは、アメリカ経済が好調であったからであり、アメリカ経済が不況に突入してデフォルト(債務不履行)が激増すると、LTCMはたちまち経営に行き詰まって破綻してしまった。

 そして彼らの「数学の公式」はこのような事態をまったく予見できなかったのである。

 CDSの発行残高は40兆ドル(4000兆円)を下回ったものの、まだ天文学的な水準にあるので、一度に、ということは無理だが、漸減させて“安楽死”させる方が望ましいし、いっそタバコのように額面の3分の1のスペースを使って、「この金融商品は、経済状態によって紙クズになる危険性があります」という警告文を掲載するようにした方が適切であろう。

 今回の経済危機で、われわれが何としても株価の下落を食い止めろと絶叫したのは、株価の下落→金融機関の経営危機→デフォルトの激増→CDSの紙クズ化→信用貨幣恐慌の爆発を心配したからであったが、世界は今のところ、この最悪のシナリオをかろうじて回避することができている。

 しかし、このような幸運がいつまで続くかは分からない。

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