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京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

大分県立高校剣道部での死亡事件に関する「求償権」訴訟に思うこと。

2017-01-05 18:44:59 | 受験・学校

「公務員賠償訴訟で県側が控訴」(NHKニュースWEB 2017年1月5日)

http://www3.nhk.or.jp/lnews/oita/5075786541.html

「剣道部員死亡訴訟で県教委が控訴」(OBS大分放送ニュース、2017年1月5日)

http://www.e-obs.com/news/detail.php?id=01050036146&day=20170105

この事件、まずおさえておかないといけないのは、事実経過かと。

それでいうならば、まず、夏休み中の剣道部の活動中に深刻な熱中症を発した高校生に、それ以前から暴力・暴言の問題があった部活顧問の教員が、症状を発してから後もくりかえし暴力・暴言を発し、適切な救護措置もとらず、死に追いやったという事件です。

なおかつ、この事件には、事後対応の問題もあります。

私の記憶にもとづいて事後対応の問題を書きますと・・・。

まず、この件、大分地検は業務上過失致死罪での起訴を見送りました。

検察審査会での「不起訴不当」の判断もあったはずですが。

また、このような重大事態を引き起こしたにもかかわらず、大分県教委が当該顧問に下した処分は、停職数ヶ月程度です。

そして、ご遺族が民事訴訟を提起されて、すでに賠償金を支払うことが判決では確定しています。

そのことはネット配信されている記事からもわかります。

でも、その賠償金は、国家賠償法で、公のお金で出すことになっている。

「あの顧問には停職以外に、公にはなんのおとがめもなしですか?」

「あんなふうに、子どもを死に追いやるような対応を、大分県は「業務」というのですか?」

この疑問というのか、強い憤りが、ご遺族にはあると思うのです。

少なくとも、私はそのように認識しています。

また、そこを問うためには、大分県が払うことになる賠償金の一部を当時の顧問にも負わせるべく、今回の訴訟をせざるをえなかった(これが「求償権訴訟」というものです)。

そして、その判決が先月、大分地裁ででて、やっぱり顧問にも一部、賠償金を払わせようという判断が示されたわけです。

これに対する大分県側の控訴の方針が、今日、表明されたわけですね。

それで、大分県側の控訴理由を見る限り・・・。

ホンネは「自分たちがここで控訴断念して、敗訴確定で、こういう重大事件に際して顧問に一部であれ賠償を担わせる先例をつくるのは嫌。だから、とにかく上級審の判断に委ねる形をとりたい。高裁も最高裁も同じ判断されるなら、しょうがないから顧問に賠償を担わせる判決を受け入れる」というところかと。

このネット配信の記事からすると、私はそう読み取りました。

そういう読み取りを前提にしていいますと・・・次の2つのことが言えるかと。

ひとつは、去年の大川小訴訟の地裁判決のときもそうでしたが、とにかく「行政側敗訴」という先例だけは残したくない、チャンスがあるなら上級審でひっくり返して、判決が確定しないようにしたいという、そういう思惑が見えること。

これはおそらく、大分県だけに限らず、他の都道府県に対しても「先例」になりたくない・・・という思惑ですね。

まずはそういう行政関係者と、その用心棒みたいに動いている弁護士さんに対しても「あのなあ・・・」と、いろいろと言いたくなる思いがありますね(被告側には被告側の法的利益があるから、それを擁護したい・・・という理屈は一応、尊重するとしても)。

もうひとつは、教育学・教育法学の関係者も、この判決・控訴の流れをどのように認識して、どのように意見を発するのか、そこが問われているぞ、ということ。

さすがに私もこの件については、「事実経過及び事後対応の過程って、ちょっとひどすぎやしませんか?」という思いがあります。

「これはさすがにこのまま、学校現場にこの人、おいておけないよなあ・・・」という思いすらあります。

だから、ご遺族が訴訟にうったえて出られた思いは、できる限り尊重したい・・・と思っています。

その上で「本来、こうしたケースでの事後対応はどうあるべきか?」「同様の重大事態の防止にどのように努めるのか?」を考えたり、個々の教員のおかれている状況とともに、その背景要因への考察・検討を行いたいと思ったりもします。

しかしながら、私のよく知る子どもの権利論の「大御所」的なある研究者は、こうした公立学校教員個人に対する賠償責任を認めるよう求めた訴訟や、「指導死」という概念そのものにも否定的だったりします。

そういう話を見聞きしたり、読んだりするにつれて、私と同じ領域の研究者といいますか、同業者に対しても「あのなあ、いつまでもそんな認識でほんとうにいいのか・・・?」と言いたくなる思いがありますね。

このような次第で、この訴訟に対しては、私たち教育学などの関連領域の研究者の認識も大きく問われているのではないか、と思っています。

以上、長々と書きましたが、まずはこの記事に対するコメントでした。


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