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京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

子どもたちへのひどいクリスマスプレゼントー「教育維新条例案」への一日一言(21)ー

2011-12-25 05:14:14 | ニュース

http://www.ocec.ne.jp/yochien/kyotsu/list.html (大阪市教委HPより、市立幼稚園一覧)

この一覧にあるとおり、大阪市内の公立幼稚園(市立幼稚園)は、もともと、数がそれほど多いわけではありません。この一覧によると、区によっては1か所というところもありますし、そもそも24区すべてにあるというわけでもなさそうです。

ですが、橋下大阪市長は、この市立幼稚園を「民営化」する方針を昨日、出したようです。

http://www.asahi.com/kansai/sumai/news/OSK201112240040.html (橋下市長、市立幼稚園「民営化」待機児童「ゼロ目標」:朝日新聞関西2011年12月24日付け)

この市立幼稚園を「民営化」すると、どういうことが予想されるでしょうか? 確実に所得の少ない層で、なおかつ家庭で就学前の子どもを育てている層に、さまざまなしわよせがやってきます。おそらく、「家計の負担増を覚悟して私立幼稚園に子どもを預けるか、もしくは、なんらかの形で就労の機会等を得て、保育所に子どもを預けるか」という選択に悩む家庭が増えるのではないでしょうか。

ちなみに、大阪市にも一応、私立幼稚園に子どもを通わせている家庭への補助が出る制度があります。それは以下のとおりです。

http://www.city.osaka.lg.jp/kodomo/page/0000002532.html (大阪市教委HPより:私立幼稚園に就園しているお子さんの保育料に対する補助)

しかし、これってあくまでも「保育料」への補助。私立幼稚園には制服その他さまざまな諸費用が掛かるケースが多いのですが、そこには補助はでませんよね。となると、私立幼稚園について、それぞれの家庭の所得の状況に応じて、「行かせたいけど、行かせられない」というケースが出てくることも十分考えられます。

公立幼稚園が近くにないけど、私立幼稚園に行かせるだけの経済的なゆとりもない。また、保育所に預けるにも、今は就労していない。また、就労ができたとしても、保育所には子どもを受け入れる余裕がない。そのような状況に置かれている家庭と子どもについて、大阪市としては今後、どういう対応をするつもりなのでしょうか? 

れでは「待機児童ゼロ」とかいいながら、「待機児童をどんどん増やしている」施策なのではないでしょうか? 自分たちの始めようとしている施策が、自分たちの別の施策を裏切っている。そういうことをわかってやっているのでしょうか?

ちなみに、先ほどの新聞記事によりますと、「待機児童」への対応も、橋下市長の方針では、今後の大阪市は各区に「丸投げ」のようですしね。彼はいままで平松市政期に、こども青少年局のスタッフあたりが努力してきたことを、どのように考えているですかね? 平松さんの施策は全部、否定から入るんですかね?

だから、市立幼稚園の「民営化」なんて施策、とてもではないですが、「改革、改革」とマスメディアでほめちぎるような施策ではないですよ。あきらかな「改悪」ではないですか。

また、長年にわたって、公立幼稚園を増設するよりも、私立幼稚園及び公立・私立の保育所を増設する方向で大阪市の就学前教育・保育に関する施策をとってきたのであれば、当然、公立幼稚園の数や就園児数は低い割合におさえられていきます。その結果として生じたのが、今の私立幼稚園の数やそこに就園する子どもの数でしょう。だから、私立幼稚園のほうが数も就園児数も多いからといって、公立幼稚園にニーズがないのかというと、そうではありません。「すでに、長年にわたって、そういう方向に誘導されてきたのだ」といえるわけです。

子どもたちが待ち望んでいたクリスマスに、このような施策の方針を指示できるような、そんな橋下市政を、はたして先月の市長選挙に際して、大阪市の有権者は選んだのでしょうか? きっとこんな改革が行われるなんてこと、想像もしていなかったのではないでしょうか? このような橋下市長の施策が、選挙のときに自分たちの思っていた「民意」と異なるのであれば、はっきりとそういうべきでしょうね。「いらんものは、いらんのだ!」と。

ちなみに、公立幼稚園には経費がかかりすぎる、教職員の給与が高すぎるみたいなことを言う人がいるのですが、実際にはおそらくその逆。私立幼稚園教職員の勤務条件、特に給与が、経営上の理由などから公立よりも低いレベルに抑えられているのが実情なのではないでしょうか。本来であれば、もっと高い給与であってもいいはずです。また、これはおそらく、公立保育所と民間保育所の関係にもいえることかと思います。そして、これもまた、私立幼稚園や民間保育所の運営に関して、長い間、財政的な面からの公的支援が低い水準に抑えられてきたことの結果ではないのか、と思ってしまいます。


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