できることを、できる人が、できるかたちで

京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

父の死後、あらためて思うこと(その1)

2009-09-03 07:13:14 | 受験・学校

いよいよ9月に入りました。できるだけ、こまめな更新を心がけていきたいと思います。

さて、このところ今後の子ども施策や青少年(若者)施策についてあれこれ考えるのですが、そのときにどうしても思い浮かべてしまうのは、「親(保護者)からの経済的・心理的自立」の問題。それには先月、私の父が息を引き取ったということとも絡むのですが。

もうひとつの日記帳ブログにも書きましたが、父の直接の死因は、去年からの胃ガンの再発。去年の手術にもかかわらず、その再発したガンの転移が腹膜その他内臓のあちこちに広がって、今年の夏休み前には手の施しようのない状態になったのでした。

しかしながら、今「再発」と書きましたが、最初に胃ガンが発生したのは、実は私が高校生の頃。その頃から数年間、私は父の「再発」におびえ、「どうにかして、自分で自分の生活を成り立たせることができるように、経済的に自立しなくちゃ」と思っていたのでした。

私が高校卒業後、夜間部のある大学への進学を決めて、昼間は公務員として働いたのも、この「経済的な自立」の問題が背景にあったことは否めません。また、大学院進学と同時に家を出て、ひとり暮らしをしたり、奨学金と定時制高校の非常勤講師としての稼ぎをもとに大学院の修士・博士課程に通ったのも、こうした家庭の事情があったことはまちがいありません。とにかく、実家の経済力をアテにした生活は、少なくとも当時の私の場合「無理」でしたから。おまけに、私の実家は神戸にありますが、ちょうど修士課程修了・博士課程入学の年に、阪神淡路大震災もありましたし・・・・。

ただ、今にして思えばたしかに経済的にも心理的にも、この頃、ものすごくしんどかったわけですが、別の見方をすることもできます。それはどういうことかというと、「家庭環境に恵まれないひとりの若者が、親からの経済的自立をはたそうと努力すれば、少なくともこの80年代終わり~90年代半ばまでの頃であれば、それを達成するいろんな環境的条件があった」ということ。また、「そういう若者を支えようとする『身近なおとな』も、けっこういた」ということ。

たとえば、今、国公立・私立で、「働きながら学ぶ」という道を夜間部等の形で準備している大学が、どの程度あるのでしょうか。また、「働きながら学ぶ」という道を支えるためには、若者に定時出勤・定時退社を認めるような、そんな安定した雇用環境も必要です。そんな就労先がどの程度あるのでしょうか。あるいは、貸与・給付の奨学金制度はどうなっているのでしょうか。そして、大学そのものの学費は、この頃と今とではどの程度変わっているのでしょうか・・・・。

あるいは、私が夜間部在学中に働いていた職場の人たちは、当時、夕方、大学に通う頃になると「仕事は適当に切り上げて、早く行け」と送り出してくれました。大学院進学後かかわった不登校の子どもの集う民間団体のみなさんは、経済的に苦しい下宿生活を送ってる私に、いろんな支援をしてくれました。それは、買い込んだ缶詰やレトルト食品が余ったといって分けてくれたり、病気で寝込んだときにごはんをつくりに来てくれたり・・・・。そして、定時制高校で非常勤講師をしたことだって、当時、不登校関係の活動でかかわっていた方に知恵を借りてすすんだ話です。

たとえ当時、実家の親は経済的にも心理的にもアテにはならなかったとしても、実家の外に、いろんな「おとな」たちが私のことを気づかって、いろんな形で支えてくださったからこそ、今日までどうにか、私もやってこれたんですよね。また、その当時の私が極力親に頼らないで暮らしていこうと思えば、それが可能な制度的条件もあったわけですよね。

それを思うと、家庭環境に恵まれていない若者が自分なりに経済的・心理的自立の道をさぐるための制度的条件や、これを支えるための地域社会などの人的ネットワークの整備。このことに、やっぱり私はこだわってしまうんですよね。

「あの親のために、私の人生はめちゃくちゃになった」と親をうらむのではなく、「あんな親のもとに生まれたけど、でも、私は私で、幸せに暮らせている」と思う日々に、家庭環境に恵まれていない若者が出会うためには、本人の努力とともに、これを支える制度的な条件と地域社会などの人的ネットワーク、これが必要なのではないかと、あらためて思います。また、少なくとも、これからの青少年(若者)施策が「若者の経済的・心理的自立」ということを目指すのであれば、「親にかわって若者の暮らしを支える制度や実践の必要性」という視点を持って、今後の方向性を検討すべきであろうと思います。

今後も引き続き、父の死後、子ども施策や青少年(若者)施策にかかわってあらためて考えたこと、思うことを、このブログで書き綴って生きたいと思います。

<script type="text/javascript"></script> <script src="http://j1.ax.xrea.com/l.j?id=100541685" type="text/javascript"></script> <noscript> AX </noscript>


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする