できることを、できる人が、できるかたちで

京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

NPO専従スタッフの雇用形態は?

2008-03-02 13:39:04 | 国際・政治

ある施設で同じ仕事をするのに、正規雇用者だと年間ひとり1000万円の費用がかかり、非正規雇用者だと年間ひとり300万円で済むとする。このため、コスト削減が必要だと考えた雇用者側は、年間1000万円かかる正規雇用者ひとりのクビをきり、300万円で済む非正規雇用者ひとりに置き換えようとするか、あるいは、その300万円程度の費用でその仕事を請け負ってくれるNPOなど民間団体に業務を委託する・・・・。

これが今、大阪府の橋下新知事が府下のいくつかの公的施設において行おうとしているリストラ策を、端的に示す図式である。いや、大阪府政に限らず、大阪市もそうだし、府下の各自治体だけでなく、たぶん全国の地方自治体で同様のケースは生じてきていると思う。

でも、ここで立ち止まって考えてみたいのは、「人件費が年間300万円程度で済むなら、安くついてええやないか」と思い勝ちな、この構図である。

そもそも「年間300万円」と簡単に言うが、この金額でひとりの非正規雇用者を雇うとしたら、はたして、「ひとりのおとながこの社会で生活していくうえで、本当に十分な金額なのか?」ということである。ましてや、その金額を5等分して、非正規雇用者を5人雇ったとしたら、ますます、その思いは強くなる。

「年収300万円」というのを、単純に12ヶ月分の給与と年間3か月分のボーナスと考えたら、月あたりにするとだいたい、20万円くらいになる。これに一応、雇用保険や健康保険、年金等をかけていくとなると、実質手取り額は「17万円前後かな?」という気がする。しかも、非正規雇用者であるから、この契約ですら、1年単位で切り替えられることにもなるし、より財政状況が悪くなれば、その金額が減額されることもあるだろう。

とすれば、「カネのかかる公的施設の仕事を、安上がりに済む民間へ」とか、「公務員にはカネがかかるから、安くてよく働く非正規労働者へ」とか、「NPOなどへの民間委託を推進」ということを安易に容認していると、気づけば「低賃金で不安定な雇用形態」のまま働き続けるという人たちを、次々に増やしていくことになるのではないだろうか。

そして、私はいつも、身近にいるNPO専従職員の人たちの働きぶりと、そのもらってる給料の額や雇用形態の不安定さとを比べてみると、「これはあまりにも安すぎるのでは、あまりにも不安定では・・・・?」といつも思う。そのNPO専従職員の状態を改善する必要性は感じても、そのよくない民間の状態に依拠して、「この際、安上がりに行政サービスを調達しよう」という発想には、やはり、私はなじめないものを抱いてしまう。「官から民へ」もいいのだが、「民の安上がりさの内実」という、こっちのほうを議論する必要がもっとあるのではないだろうか、と思うのである。

「公務員の世界に比べて、民間は安上がりだ」という観点から、安定した地位を持ち、高い給料をもらっている人たちの労働のあり方に一石を投じる必要は、たしかにある。だが、そのときに、私たちはその「民間は安上がり」の裏に何があるのかまで含めて考えていかないと、後々、自分たちで自分たちのクビをしめることにもなりかねない。そう思うのだが。

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