返済できないほどの多額の借金を抱えた人に、再出発のチャンスを与えるために法律で認められた救済手段が自己破産です。自己破産(破産・免責)をすると、借金を支払う義務はなくなります。
- 利用できる条件
- 手続きの流れ
- 免責不許可事由
- 他の債務整理との比較
- 間違った知識
- 破産により制限を受ける資格
1、利用できる条件
* 自身の収入や財産で、借金を返済することが不可能な状態。
* 過去7年以内に免責決定の確定を受けたことがない。
* 過去7年以内に給与所得者等再生における再生計画認可決定の確定を受けたことがない
(再生計画が遂行)。
* 過去7年以内にハードシップ免責決定の確定を受けたことがない。
自己破産では、次にあげることはできません。
○ 一部の債権者を除いて破産手続きをとりたい。(例えば、オートローン、住宅ローン、連帯
保証人付き債務など)
○ 連帯保証人に知られずに破産したい。
○ 財産は残したい。 次にあげるような場合、自己破産は難しいでしょう。
○ 借金の理由の殆どが浪費である。
○ 借入後、一度も支払っていない債権者が多い。
2、手続きの流れ
-同時廃止事件-めぼしい財産がない個人の場合
① 申立書類を作成する。
自己破産の申立をする際、自己破産申立書、陳述書、家計全体の状況、資産目録、債権者
一覧表、疎明書類を裁判所に提出します。
② 自己破産の申立てをする。
(1) 破産・免責申立
* 申立人(債務者)の居住地を管轄する地方裁判所に自己破産の申立てをします。
(2) 破産審問
* 裁判所が指定した期日に裁判所に出頭し、裁判官から破産するに至った状況、免責不許
可事由等の質問を受けます。
(3) 破産開始決定、同時廃止
* 「申立人に、借金を支払う能力がない」と裁判官が判断すれば、破産が開始されます。
* 破産が開始されると、申立人は破産者となり官報に公告されます。また、役所発行の
身分証明書に「破産者である」ことが記載されます。
・官報とは、国が発行する新聞のようなもので、普段目にすることはありません。
・身分証明書とは、申立人の本籍がある役所で発行している書類であり、本人が取得する
しか方法がなく、例え家族であっても取得することはできません。
(4) 免責異議申立て
* 債権者には、免責異議の申立て期間が与えられます。これは、債権者が「申立人に免責
を与えるのは不相当である」と裁判所に申立てるものです。
* 最終的に免責決定、不許可とるのは裁判官の判断になります。
(5) 免責審尋
* 裁判所が指定した期日に裁判所に出頭し、裁判官から質問を受けます。
(6) 免責決定
* 裁判官は、申立人に免責不許可事由が見当たらなければ、免責を決定します。
* 免責不許可事由がある場合でも、裁判官の裁量で免責が決定されることもあります。
* 免責が不許可となった場合は、以降7年間は破産者であり続けます。また、支払義務は
ありますので、債権者から請求を受けることになります。
* 免責が決定されれば、官報に公告されます。
(7) 免責決定の確定
* 免責決定が確定されれば、官報に公告されます。
* 確定した時点で、申立人は借金を支払う義務がなくなり、同時に破産者でなくなります
(復権します)。
少額の資産がある場合や借り入れの経緯に問題(免責不許可自由に当たる行為があるなど)がある場合は、破産審問時に、裁判官が定めた額を債権者に配当するよう裁判官に指導されることがあります。
その場合は、資産を換価したり、積み立てをし、裁判官が指定した期間内に配当を実施します。
-管財事件-一定の財産がある場合、法人の場合
めぼしい財産がある場合や法人の破産の場合は、異時廃止事件(管財事件と言われています)の扱いとなります。
管財事件の場合は、破産宣告時に、裁判所が破産管財人を選任し、破産管財人が破産者(申立人)の財産の調査、管理を行い、それらの財産を換価し、債権者に配当する手続きをとります。それ以外は、同時廃止事件と殆ど同じ手続きです。なお、法人の場合は、免責手続きはありません。
手続き中に、債権者集会が行われる場合は、裁判所に出頭しなければなりません。破産管財人の費用は、債務総額や事件の内容によって異なります。なお、管財費用は申立人が用意しなければなりません。
破産管財人が破産手続きに関与している間は、破産者宛の郵送物は管財人経由で届くことになり、転居は裁判所の許可必要になります。また、長期の旅行や国外へ行くことができないなどの不自由があります。
-少額管財事件-財産が少額である場合
(少額管財事件や小規模管財事件と呼ばれており、一部の裁判所が行っている手続きです。
これは、管財事件になるほど多額の財産がない場合に利用されており、管財費用も少額ですみます。
また、「債権者集会」と「免責審尋」を同日時に行うなど手続きにおいても簡略化されています。
一般に言われている「自己破産」とは、破産と免責の手続きのことを指しており、破産開始決定により支払不能とみなされ、免責決定が確定することにより借金の支払い義務がなくなります。破産開始決定を受けることで借金の返済義務がなくなるものではありません。重要なのは免責を受けられるかどうかです。
A 申立費用
収入印紙、予納金、郵券(各裁判所で異なります)、管財事件の場合は
管財費用が必要となります(内容によって費用は異なります)。
B デメリット
信用情報機関に登録されます(しかし、自己破産に限らず、その他の債務
整理や長期延滞の場合でも登録されます。)。また、官報に載ります。
C 保証人について
申立人が破産すると、保証人が返済しなければなりません。
D 滞納税金
公租公課は免除されません。
E ローン中の自動車、バイク、高価商品等(パソコン等)
所有権留保になっているものは、基本的に返却しなければなりません。
3、免責不許可事由
破産者の誰もが、借金の返済を免除されるのではなく、
免責不許可事由があれば、免責されない(借金の返済を免除されない)ことがあります。 例えば、ギャンブルやショッピングにより借金を増やした場合、財産の処分が不誠実であった場合、債権者に負債や財産、収入状況について虚偽の申告をして借り入れた場合、財産を隠して破産手続きをした場合、裁判所に虚偽の申告をした場合などが不許可事由に挙げられます。 免責不許可事由に該当している場合であっても、不許可事由の程度によっては裁判官の裁量で免責されることがあります。
4、他の債務整理との比較
-メリット-
* 自己破産の場合、財産を処分する以外は、基本的には借金を返済しないため、他の債務整理
方法に比べ早く生活を立て直すことができます。
-デメリット-
* 財産を手放すことになるため、所有不動産、車両、有価証券の売却、財形、定期預金、生命保
険等の解約を(価値が低価格でなければ)しなければなりません。
* 税金、罰金、科料、悪意をもって加えた不法行為、破産者が故意または重大な過失により加え
た人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権、扶養義務に基づく請求権
による損害賠償請求権などは免責されません。
* 借金を負った原因によっては、必ずしも免責(支払い義務がなくなること)がおりるものではあり
ません。
* 破産者である期間は資格の制限があり、保険の外交員、警備会社の警備員、株式会社や有限
会社の取締役や監査役、弁護士、司法書士、公認会計士、税理士、後見人などになることはで
きなくなります。しかし、免責決定が確定することで、復権(破産者でなくなる)し、これらの資格
の制限は受けません。
* 管財事件になった場合は、申立人宛の郵便物が管財人に送達、開封された後に申立人に届く
ことになり、また裁判所の許可がなければ転居や長期の旅行をすることができないなどの制限
があります。
* 他の債務整理でも同様ですが、世間で言われているブラックリストに載るため、今後7年間は
借り入れできないと言われています。
5、間違った知識
自己破産の不利益に多くの誤解がありますが、事実は下記の通りです。
* 戸籍謄本や住民票には載りません。
* 選挙権はあります。被選挙権もあります。
* 破産したことが家族、親戚、会社の人に知らされることはありません。
* 退職する必要はありません。また、会社は破産を理由に解雇することはできません。しかし、
保険の外交員や警備会社の警備員等は資格制限に該当するため、辞めなければなりません。
* 子供の進学には全く影響はありません。
* 生活に必要な家財道具は守られます。
6、破産により制限を受ける資格
-公法上の資格制限-
弁護士、公認会計士、税理士、司法書士、弁理士、公証人、人事院の人事官、国家公安委員会委員、都道府県公安委員会委員、金融先物取引所会員(法人)、国民金融公庫役員、教育委員会委員、検察審査委員、公正取引委員会委員、不動産鑑定士、陪審員、通関士、社会保険労務士、土地家屋調査士、宅地建物取引業者、商品取引所官員、証券会社外交員、有価証券投資顧問業者、質屋、生命保険募集委員及び損害保険代理店、警備業者及び警備員、建設業者および建設工事紛争審査会委員、風俗営業者及び風俗営業の管理者、卸売業者、アルコール普通売捌人、塩販売人、製造たばこの特定販売業者、旅行業者、一般労働者派遣事業者、地質調査業者、著作権の仲介人、鉄道事業、索道事業、一般廃棄物処理業者、産業廃棄物処理業者等。
-私法上の資格制限-
代理人、後見人、後見監督人、保佐人、遺言執行者など。