夜長姫と耳男

忌野清志郎を愛し、路上生活者支援NPO・TENOHASIの事務局長Sの日記

雪どけ

2009年03月08日 | Weblog
私の大好きなドキュメンタリー映画「タイマグラばあちゃん」。岩手県は早池峰山の麓にあるタイマグラの冬は零下10~20度に達し、雪に閉ざされる厳しい季節だ。しかし主人公・マサヨばあちゃんはニコニコしながら「いよいよ寒さが来て、ばあちゃんに仕事させっかな」と真冬の到来を心待ちにしていた。真冬が来ると、ばあちゃんは普通なら捨てるような小さなジャガイモたちを針金で結んで外の寒さにさらす。そうするとジャガイモは芯まで凍り、それが昼の暖かさで解け、それを繰り返していくと水分が完全に抜けて、何年も保存できるフリーズドライのジャガイモ=凍みホドができる。凍みホドはタイマグラの大切な保存食で、それで作った団子汁は本当にうまそうだった。
 ということで、映画を見たときから、ジャガイモを芯まで凍らす強烈な寒さを体験したいとおもっていた。ばあちゃんたちどんな冬を過ごしていたのか、体で感じてみたい。その夢が叶ったのが今年の2月21日。タイマグラの山岳民宿「フィールドノート」を再訪した。
 
 前夜に岩手入りして盛岡に一泊。思ったほど寒くはなかったが、しんしんと雪が降っていた。午前中は盛岡城跡を見学。最高で5階建てビルくらいある雄大な石垣に圧倒される。駅前にいた路上生活のおじさんに盛岡の路上生活事情を聞いた。炊き出しも行政の支援もないが、食べ物をくれる人などもいてどうにか生活している。真冬の盛岡でもビルの排気口の下は暖かいのでそこで生活している。前は10人くらい仲間がいたが、みんな生活保護をとったりしていなくなって、今は自分一人だ。福祉事務所に行っても、生活保護はもらえないと思う。そのかわり他の地域に移動する切符代をくれる。上野や八戸までの片道切符。やっかい払いしようと言うことだろう・・・支援者がいれば生活保護もとれそうに思えるが、本人はその気はないらしい。

 山田線の快適な列車でタイマグラへ。雪景色にワクワク。駅では民宿「フィールドノート」の奥さん・山代さんと三男君が出迎えてくれた。5ヶ月ぶりのタイマグラ。今年は岩手も暖冬だそうで、思ったほど寒くはない。ちと残念・・・。
 宿に荷物を下ろして、雪原を散歩した。積もった雪に足を取られながら、ばあちゃんが耕していた畑まで上がらせてもらい、黄昏時の畑にたたずむ。はるか上から、ゴーゴーというジェット機のような風の音。つむじ風が雪を巻き上げて雪煙が立つ。薄く空を染める夕日。向こうから、ばあちゃんが、えっほえっほと歩いてきそうだった。しばらく風に吹かれていた。

 僕も芯まで凍ったので、宿のお風呂が気持ちがいい。木の風呂桶ってどうしてこんなに暖まるんだろうか?うちもリフォームして木の風呂桶にしよう!・・・と決心しかけるが、年をとると縁が高い風呂桶は危ないかな。
 フィールドノートも「オーナーの弟が作った木の風呂に入れます」と宣伝すればもっと客が増えるんではないだろうか。あ、でも、宣伝の前にもう少し風呂場を片付けた方がいいかも。

 そして夕食。わかめやイカ・ワケギの前菜・鱈の刺身が絶品。鱈汁の肝もすばらしい。困ったことに酒が進んでしまう。特製のスペシャルドリンクも最高だ。

 フィールドノートの中で暖房があるのは薪ストーブのある狭い居間だけで、家族とお客みんながそこに集まっている。理系が得意な中学生の長男君は150種類の電気実験ができるキットで組み立てた光センサーの回路を見せてくれた。小学校高学年の次男君は野鳥の観察に夢中で、驚くほど詳細な観察記録を書き、BIRDERという鳥専門誌(かなり昔のバックナンバー)をむさぼり読んでいる。小学校低学年の三男君は、6冊しかないドラえもんの単行本を繰り返し読んでいて、ネームのほとんど暗記している。家にはテレビがなくてラジオだけ、ネットはあるがむやみに子どもには使わせない。そんな親子の間で果てることなく続く学校の先生や友達や近所の話。不便さから生まれる濃密なコミュニケーション。かつて子どもたちはこうやってコミュニケーション能力豊かに育っていったのだろう。

 自然保護の会議から戻ってきたダンナの奥畑さんと飲みながら話す。山代さんは朝食用のパン作り。3000円のキャプテンスタッグのダッチオーブンでちゃんとパンが焼ける。

 飲み疲れて24時。今夜、客は私一人だけ。こんな寒いときにわざわざ来る酔狂はあまりいないらしい。6畳間に一つだけ敷いてくれた布団に潜り込んだが、これが信じられないくらい寒い。しっかりした布団を何枚もかけてもらったのだが・・・室内の気温は零下だろう。「このまま寝たら凍死するかも・・・生きて明日の朝を迎えられるだろうか・・・」とバカなことを考えつつ湯たんぽを抱きしめているうちに寝てしまった。暖まればなかなか快適で、凍死はしなかった。

 翌朝、9時に起きて朝食。昨日焼いたパンに蜂蜜。コリアンダー入りサラダ。ハム。サンマのカレーとコーヒー。

 次男君は、桐の木を奥畑さんに切ってもらって、フクロウのデコイを作り始めた。雑誌にある型紙を写すのに、プリンタのコピー機能を使えばいいだろうと提案したら、「そんなもの使わんでいい」と奥畑さん。次男君、苦労して白い紙にトレースしていた。たしかに、自分でトレースすると形が理解できていい。不便さが産むものというのは確かにある。

 奥畑さんと次男君・三男君といっしょに雪原を散歩。手製のかんじきはなかなか楽しい。梢にはウソやコゲラ・アカゲラなどがいた。リスやネズミ・狐の足跡も。途中で子どもたちのかんじきが脱げても、奥畑さんは手伝わず自分で履かせようとする。なんでも自分でやらせようというのが徹底している。

 戻って昼食。ネギと干しエビの入った平焼きをいただく。二日酔い気味だから食べないつもりだったが結構入ってしまった。
 13時にフィールドノートを出て、川井のバス停で別れる。そのあと、次男君と三男君は奥畑さんと一緒に念願の図書館だ。いい本やビデオが見つかったろうか? 今度いくときは子どもたちにみやげを買おう。

清志郎の冬の歌と言えば思い出すのがタイトルの曲。

”雪どけの道では 何度も 何度も 足を取られ・・
 僕の毎日を ユーモアに ユーモアに しておくれ・・”
僕には 言えない とても 言い表せは しない・・・

名盤”Memphis”の2曲目。ちょっと溶けかけた雪原を歩いているとき、頭の中でリフレインしていた。
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善良な市民

2009年03月08日 | Weblog
 最近、TENOHASIに外国のテレビ局からの取材申し込みが続いている。オランダ・ドイツ・フランス・他にもう一つあった・・・・そしてイギリス。EU主要国が勢揃い。日本の貧困と格差の問題はヨーロッパからも注目されているらしい。
 だいたいは、炊き出しの現場を撮って、当事者にインタビューしたいという申し込みなので「当事者のプライバシー保護のため、テレビカメラは一切お断りしています」と伝えるとたいていは引き下がってくれる。だが、中には頭に来るのもある。

 恋愛映画と花の都で知られる某国のテレビ局が、日本の食品廃棄の問題で日本に取材クルーをだすので、取材に応じて欲しいという。それなら炊き出しの現場を撮るわけでないからいいかなと思って話を聞く。
「クルーは明日ついて、その日の午後は取材が詰まっているので、明後日の午前中に撮らせて欲しい」
はあ、スタッフの都合が合えばそれもいいでしょう。
「ホームレスがたくさんいるところで撮りたい。上野とか」
うちらは池袋が活動場所なんです。そんなことも知らないで電話したんですか?それに当事者を撮るのはお断りです。
「池袋ですか・・・それでもいいです。ところで、○○人は気性が激しいので、怒ってくれないと困るんです。その人は、○○人のスタッフに囲まれても、きちんと怒ってくれますか?」
ああ、ようするに「日本はおかしい国だ。食べ物がなくて困っているホームレスがたくさんいるのに、こんなにたくさんの食品が捨てられている!!」と、脚本通りのコメントを言わせて、そのバックにはたくさんの貧しいホームレス・・・という映像を撮りたいだけなんだね。私たちに取材して、日本の現状を深く探ろうなんて全く思っていないんだね。
魂胆がよくわかった。「やっぱりお断りします。こちらにはなんもメリットもない」と伝えて電話を切った。
 すべてとは言わないが、かなりのテレビ番組は、こんな風に予め作られたシナリオ通りの映像を撮って、「街で発見した驚愕の事実」とか大げさなタイトルを付けて垂れ流しているだけ。テレビ局なんてそんなものだ。なかには、NHKの「ワーキングプア」みたいに、本当に真摯な取材を経て作られた番組もあるけど、それはかなりの少数派。
みなさん、だまされてはいけません。

 タイトルは、アルバム”Music From POWER HOUSE [ 忌野清志郎&THE 2・3’S ”に入っている。

 ”泥棒が憲法改正の論議をしている
  コソ泥が選挙制度改革で揉めてる
  でも善良な市民は 参加させてもらえず
  また間違った人を選ぶ・・・・”

そうそう、この絶望感はとってもよくわかる。
マスコミと政治家が適当なことをやって、
それにのせられた善良な市民が、また、間違った人を選んでしまう。

93年の発売だから、小沢一郎が自民党の幹事長だった頃の歌だと思う。
自衛隊の海外派遣と衆議院の小選挙区比例代表並立制を最も強力に推進していたのが小沢一郎で、そのころは魔王のように思っていた。今回の秘書逮捕は「やっぱりそうか」と思う。

マスコミが「数字のとれる」小泉首相の追っかけをして、郵政選挙で自民党に300議席を与えてしまったことが今日の混乱を産んでいる。善良な市民は、次の選挙で、どう判断するのか?


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