始まりは22年1月、女性の携帯電話にかかってきた電話だった。
「聞きたいことがあるので警察署に来て欲しい」
地元の警察署からだった。
女性は東京都内で夫と2人で暮らし、日中はアルバイトをしている。犯罪や裁判とは縁遠い人生を送ってきた。警察が自分に聞きたいことなど、思い当たる節がなかった。
「どういう話なんですか」と問うと、「この電話では言えないです」と警察官は返してきた。腑(ふ)に落ちず、「簡単でいいので」と求めると、こう説明された。
「あなたが住んでいるマンションの駐輪場にあった自転車のカバーが、カッターのようなもので切られていた。あなたが防犯カメラに映っているので、話を聞きたい」
心当たりはなかった。確かに駐輪場があり、普段、カバーがかかった自転車が1台とまっているが、切ったことなどない。
説明すればわかってくれると思い、その週の土曜日午前10時ごろに警察署へ赴いた。
防犯カメラ3台分の映像
女性が弁護士と一緒に見ると、普段出入りに使っているマンション裏の出入り口から、ゴミを持って出て行く自分の姿が映っていた。ゴミ置き場にゴミを捨て、駐輪場の自転車を整理していた。その後、マンションの正面玄関へ行って掲示物をはがし、ポストの中身を確認し、裏の出入り口へと戻っていった。
「あの日のことだ」と、思い当たった。