一枚の葉

私の好きな画伯・小倉遊亀さんの言葉です。

「一枚の葉が手に入れば宇宙全体が手に入る」

調律

2015-12-05 16:22:00 | 雑記



      ほとんど使わず、眠っているようなピアノ
      だが、年一回、調律師がやってくる。
      それが毎年12月のはじめで、Mさんが
      やってくると、
      ああ、師走か、今年も終わりだな、
      と思う。


      今年もMさんがやってきた。
      まるでちょっと早いサンタのように。


      Mさんは大変ほがらかな、話好きなおじさ
      んで、その間、ちょっとでも仕事をしたい
      私をなかなか離してくれない。

      仕方なく、台所仕事をしながら私はホオ、
      とかハアとか相槌を打つ。
      たまには、どうでもいいことを聞いたり
      もする。

      「年間、どのくらいピアノを扱われる
      のですか?」

      「今じゃ、齢とったから五百台くらい 
      だけど、会社に勤めておった頃は千台か
      それ以上、みていた」

      (Mさんは現役時代はK楽器に勤めていて
       やはり調律を担当していた。
       Mさんが調律の公認免許を取ったのは
       29歳のとき)

      「昭和40年代の初め頃まではピアノの
      ある家は少なくて、これで食べていけ
      るだろうかと心配した。
      40年代半ばから急に普及して、
      急がしくてたまらなくなった」

      (そういえば、わが家にピアノが入った
      のもその頃であるーー親が弾けもしない
      くせに。いわゆるピアノブームに乗った
      のだ)

      「現在はピアノだけでなく、サッカー
      とか少年野球とは、女の子はバレエを
      習いにいったり、子供のおけいこ事も
      多様化しているものね」


      「そう、最近は娘が嫁にいって残された
      ピアノをお母さん(老母)が習いはじめ
      たり、結構、みなさん楽しんでおられま
      すよ」

      (それは私も聞いたことがある。
       現に82歳になる私の友人は月に一回
      先生に来てもらってピアノを習い、
      発表会にも出ると張り切っている)

      
      「それでもピアノって、一台一台違う
      ものですか」

      「違うね~。素直なやつもあれば、全然
      いうことを聞いてくれないのもある。
      この前は良かったのに、3~4年に一回、
      大きく狂うこともあるしね」

      「ホオ」
 
      「1300台くらい診て、5台くらい、
      やってもやっても駄目なのがある」

      「はあ」

      「毎回、ピアノと相撲とっているような
      もんよ。一台一台違うんだもの」

      「そんなもんですか」

      「ピアノは奥が深いからね。
      だから、調律している時が一番楽しい」

 
      Mさんは小一時間の間にれだけの話を
      して、大忙しのサンタのように、次の
      家に行ってしまった。

      それにしても1300台に5台くらい、
      どうしても駄目なのがあるって……
      これって、人間にも当てはまる?
      まさか!?