花粉症がつらい、つらいといっているうちに、
桜が咲いて、もう満開だという。
こちら鎌倉は少し遅れると思っていたら、今日
外出の際にみると、昨日今日で一気に咲いて、
もう見ごろではないか。
毎年、開花予報にやきもきして早いの、遅いの
というのだが、こんなにスムーズにあっけなく
満開になってしまうと、かえって物足りない気
がしないでもない。各地では予想以上に満開が
早かったため、花見対策に大わらわだという。
梶井基次郎はこういった。
「桜の樹の下には屍体(したい)が埋まっている。
これは信じていいことなんだよ。
何故(なぜ)って、桜の花があんなにも見事に
咲くなんて信じられないことじゃないか」
これは氏の『桜の樹の下には』という短編小説の
一節で、主人公の気持ちを表しているのだ。
「俺は(桜の美しさに)不安になり、憂鬱になり、
空虚な気持になった。しかし俺はやっと分かった」
たしかに、あんまり美しいものには、なぜか人間を
不安にさせたり、憂鬱な気分にさせるものがある
ような気がする。
それが文学や、絵画や、音楽といった芸術を生み出
すのではないか、そう思った。
梶井基次郎の『桜の樹の下には』は昭和3年の作品
(あおぞら文庫)