一枚の葉

私の好きな画伯・小倉遊亀さんの言葉です。

「一枚の葉が手に入れば宇宙全体が手に入る」

今年の案山子

2012-10-02 16:42:19 | 雑記



     ときどき通る道路沿いの小さな田圃に今年も案山子が
     立った。
      だが、この手作りの案山子も虚心では見れない心境である。
     

     先日、故郷(福島県南相馬市)の知人Sさんから便りが
     あった。
     Sさん夫婦は娘さんの嫁ぎ先の埼玉県にしばらく避難し  
     ていたのだが、昨年秋に故郷の奥さんの実家に一時戻ら
     れた。

     その間、月に2回ほど、埼玉の病院に入院したままの
     義母(奥さんのお母さん)を見舞うため600㌔を車で
     往復。何度も道を間違え、限度だったとか。

     そのため今年の2月に思いきってつくば市に転居、幸い、
     お義母さんも同じ市内の病院に転院できたのだという。     
     Sさんご夫婦にとって、これで8回目の転居となる。


     故郷の自宅は現在、警戒区域から避難解除準備区域と
      なり、掃除などで入ることはできるが、寝泊まりはでき
     ない状態にある。
     (これまではいちいち申請を出して許可をもらって
      1~2時間の滞在のみ可能だった)

     現在は60坪の畑を借りて秋野菜から冬支度の準備に
     汗を流している。
     妹さんのところに預けていた、しば犬のゴンを引きとり
     ようやく落ち着いたといわれるが、これまで一日たりと
     安穏な日はなかったであろう。

     
     晴れた日には掃除を兼ねて家屋に風を入れるために自宅
     に向かう。
     唯一の鉄路であった常磐線は茶色に錆び、場所によっては
     丈高い草におおわれ、小鳥やカラスのいない住宅付近は
     野生のサルやイノシシが出没、見たことのない不気味な
     沈黙の光景に化しているとか。

     それでも故郷の空は今日も澄みきって、イワシ雲がたな
     びいている。
     だが、田畑にはかつてのような秋の実りのいろはないと
     結んでいる。

     
     Sさんは書を愛し、なかなかの読書家でもある。
     
     故郷の田畑が秋の色に染まる日は、いつになるであろう。
     近くの小さな田圃が色づくのを見るたびにSさん夫婦を
     思い、故郷の空に思いを馳せるしかできないでいる。