こんな話を読んだことがあります。
むかし小笠原長生さんという人がいて(知りませんが(^^;))宮中にお使いに行ったところ、食事を出されました。
この人は礼法の師匠なので、どんな食事のしかたをするのか宮中の公卿たちは気になります。一人で食事をさせておいて、彼らは別室からそっとのぞき見をしていました。
それに気づいた長生さんは、わざとご飯の上に吸い物をかけ、漬け物を乗せ、音をたててかき込みました。公卿たちは「なんだ、師匠といってもひどいものだ」と笑いました。ところが下げられたお膳を見てびっくり。箸の先が5ミリほどしか汚れていない。あらためて長生さんを尊敬したそうです。
失礼なのぞき見に対して怒らず、こんなことをしてみせた長生さんはとてもクールですね。それともうひとつ、箸の先がきれいなのにすぐ気づいた公卿さんたちもすごい。日本文化の繊細さを表わしたお話だと思います。
■日本と中国の箸のルール
一方、中国ではどうでしょう。箸の使い方の「やってはいけないこと15箇条」を書きます。《 》の中は、それと同じような日本の禁止事項(嫌い箸)です。
疑筷 《迷い箸》 どの料理を取ろうかと箸の先をあちこちに向ける
脏筷 《探り箸》 欲しいものをさがし出そうと器の中をかきまぜる
连筷:《重ね箸》 同じ料理を連続して何度も取る
抢筷 《二人箸》 二人で同じ料理に箸をつけ、奪い合いのような形になる
刺筷 《刺し箸》 料理をつき刺して食べる
◇
别筷 《ちぎり箸》 箸をナイフのようにして食品を切る
泪筷 《涙箸》 箸の先から汁がたれる
粘筷 《…》 料理で箸が汚れたままにする
吸筷 《吸い箸》 箸の先を口で吸う
指筷 《指し箸》 箸の先で人を指す
◇
供筷 《たて箸》 仏様に供えるようにご飯に箸をつき刺す
拉筷 《せせり箸》 箸をつまようじの代わりに使う
斜筷:《…》 箸を斜めの方向に置く
分筷:《…》 二本の箸をばらばらの方向に置く
横筷 《…》 終了のサインとして箸を横向きに置く。お客さんより先にしてはだめ
このほかにも禁止事項を挙げていくときりがないし、日本にもまだ数多くあるようです。
中国では、箸の使い方で人格が見えるという言い方もあります。
■日本と中国の似ているところ
日本と中国で同じようなマナー。その名前に使う漢字まで似ています。
中国から日本に箸が入ってきたのは5世紀か6世紀ごろのようですから、そのときにマナーも一緒にやってきた? いえ、そんな昔にはマナーなんてあまりなかったでしょう。
平安、室町、江戸時代を通じて、中国の文化が日本に入ってきたので、箸のマナーもだんたん中国から輸入された? それだけではないと思います。
もし、私たちが箸のマナーなんてまったく知らないとします。そこで箸をぺろぺろなめている人や、食べ物を突き刺して食べている人を見たとしたら。「なんか、違うなあ…」「あまりきれいではないなあ」と思う。そんなところから、マナーが自然に出てきたのではないでしょうか。
それぞれの国で箸のマナーが同じように発達してきた、と見るのがよさそうです。それぐらい、箸は日本でも中国でも、生活の一部であり、大切な美しい文化ということですね。
日本と中国で違うところもありますが、似ているところもたくさんあります。私はこのことに興味があり、いままでも挙げてきました。(「
日本人と中国人の似ているところ」「
夕涼み」「
苺苺、駐車場でケンカする?」など。)
一衣帯水ということばもあります。東洋の一画で隣りあった国が、似ている美しい文化を一緒に持っていると思うと、なにか誇らしい気がします。

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