Dr.keiの研究室2-Contemplation of the B.L.U.E-

「ジレンマが一つ残る」◆アンケ・クラウス 内密出産法についてのSkF代表の新聞記事より

カトリック女性福祉協会(SkF)の全国会(全カ協?)会長のアンケ・クラウスさんが2013年5月16日にドイツ有力新聞「Die Zeit」の週末版「Christ und Welt」に掲載した「内密出産法」に関する記事の全訳です。

http://www.christundwelt.de/ 

この記事の後に、ドイツの連邦参議院で「内密出産法」が可決しました。クラウスさんの指摘は、これまで僕が気付かなかった点をいくつも述べていました。こういうブログで発表するものじゃないかもしれないけど、「試訳」なのでいいでしょう(苦笑)。

こういう資料もまた、とても大切な「文献」になるんですよね(しかし、よく見つかったなぁー…)
 


ジレンマが一つ残る

Ein Dilemma bleibt 

「自分の子を匿名で出産する女性たちには支援が必要である。だが、子どもには母親を知る権利がある」

毎年ドイツでは、およそ100人の子どもたちが匿名で生まれているか、匿名の引き渡しが行われている(anonym übergeben)。この数字は、ドイツ青少年研究所(DJI)の研究「ドイツにおける匿名出産と赤ちゃんポスト„AnonymeGeburt und Babyklappen in Deutschland“」(2012)で発表されたものである。女性たちは、依然として自分たちが葛藤状況に陥ると考えている。つまり、妊娠や出産を秘密にしなければならないと(強要されているように)感じているのである。そして、子を一人で出産し、匿名で子どもが生き延びられるような仕方で遺棄しなければならない、と感じている。社会的な周囲の人間関係や家族の報復圧力(Repressalien)への不安、職業的な不利、生存上の脅威への不安等を抱くがゆえに、女性たちにとっては匿名での預け入れこそが打開策(逃げ道Ausweg)に見えるのである。内気さ、恥ずかしさ、無知、あるいは、行政機関の手続きに巻き込まれてしまう不安から、当事者の女性たちは誰にも自分のことを打ち明けようとしない。90年代の終わりから、赤ちゃんポストと匿名出産の実施があり、妊婦や母親の支援を行い、子どもの命を守っている。ドイツにおけるその手続きは統一されていない。法的状況はあらゆる関係者に対して不明瞭である。それゆえ、社会福祉連盟、助産師会、医師会は、かなり以前より、匿名性願望(Anonymitätswunsch)をもつ女性たちの法的免責を認めるよう(Entscheidungsmöglichkeit)、強く求めてきた。

「妊婦支援の拡充と内密出産の法制化」についての法草案が今日議論されている。この法草案は、よき妥協案の一つ(ein guter Kompromiss)である。しかし、この法案では、ジレンマは解消されない。この草案は、たしかに匿名性を守りたい当該の女性たちの願望と、自身の出自を知る子どもの権利の間をつなげようとしている。母親が相談所や医療機関等に身を委ねると、適切な長期にわたる時間、基本的に16年間、母親自身のデータの匿名性が保障される。この間に彼女らは支援を受けることができる。その後、子どもは、自分の実の母親が誰かを知ることも可能となる。

完全なる持続的な匿名性を母親に認めることを支持する、というジレンマがある。5月3日の連邦参議院の推奨文は、残念ながら、このジレンマを含んでいる。不明(unbekannt)であり続けたいという女性の願望は、さしあたって了解できる。すなわち、彼女たちは、自身の緊急下の状況においては、自身の子どもと共に生きる能力はないと考えており、自らそばにいる人に妊娠のことが打ち明けられない、と。しかし、またこうした女性たちも、きっと自分の子のことを知りたいと思っているだろう。通常、SkFの相談所の経験から言えば、匿名性への願望(der Wunsch nach Anonymität)は、子どもに対してではなく、彼女の周囲(Umfeld)に対してのものである。これまで彼女らは、子どもに自身の出自を知る権利を禁ずる以外の解決策を自ら見つけていない。この点は、新たな法と共に今後変わってくるだろう。

法草案は、困難な状況下の妊婦や母親たちを支援しようとしている。支援提供者や相談所はより周知されねばならない。これは、DJIの研究において「早期の専門的支援」が必須であるということを明らかにしているので、なおさらである。また、出産の後も、彼女たちには、良き心理社会的相談が必要であろう。そして、そうすることで、彼女たちは場合によっては、子どもと共に生きる未来を考えらえるようになるのである。

法の枠組みが整いつつも、しかしながら、ここで述べたジレンマはさらに多くのことを必要としている。実存的に緊急を要する女性は、相談員、医師らに頼ることができるということ、彼らのいる場所に所属できるということ、彼らとぶつかり合い相互了解することができるということなどを知らなければならない。もし女性が妊娠ゆえに家庭内での苦境に立たされたなら、相談所が無条件で彼女と彼女の子どもの味方となる(母子側に立つ)という要望がその女性にはあるのである。最良の法制度化はそうでなければならない。すなわち、妊娠した女性が、「立法機関や社会が自分を支えてくれ、また決定を一人でしなくてもよい」ということを信頼できるときにのみ、内密出産という最も確かな申し出が受け入れられるのである。女性が子どもと共に生きる人生を選ぶのか、それとも子どもを手放すのかどうかはかかわりなく、法は必要不可欠である。あらゆる匿名の引き渡し(譲渡)が不要になったとしたら、それがよりよいことであろう。

アンケ・クラウス(Anke Klaus):カトリック女性福祉協会の全国会会長。その支援内容は、とりわけ120の妊婦相談所、22の養子縁組支援機関、37の子どものケア支援機関に及んでいる。個々のSkF地域組織(フェアアイン)は、対立的議論の後に、赤ちゃんポストやいわゆるモーゼ・プロジェクトを開始した。


子どもの親を知る権利と同じく、緊急下の母親もまた、自分の子を知りたい、という彼女のメッセージは強烈だった。また、強く同感する。

ただ、SkFは、カリタス会同様、「完全なる永続的な匿名性」は認めない、ということははっきりと分かった。

1999年、SkFによって始まった匿名支援は、同じSkFによって、否定された、という形になる。

「お腹の子の命を守る」、「母子を救済する」、「孤立無援の出産をなくす」というキリスト教的な新たな実践は、今、ドイツでは新たな局面を迎えつつある。「匿名出産」はやはり認められない。フランスやオーストリアとは別の道を行くことになる。数々の議論から浮上してきた「内密出産」。これが、今のドイツの一つの「妥協案」、あるいは「妥当案」となっている。

そして、それが法制度化されようとしている。

では、日本ではどう考えたらよいのか。そもそも何の議論もないところで、何をどうしろというのか。

同性愛者の結婚問題も同じだけど、そもそも「議論」自体がないところで、何をどうしたらいいのだろうか。

少し、途方に暮れている。。。

フランクフルトにて。

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