世川行介放浪日記

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父と息子

2016年10月01日 15時34分43秒 | 自選 父と子


           父と息子




 僕と死んだ父親は、誕生日が一日しか違わない。
 父親は9月30日。僕は翌日の10月1日。
 僕のすぐ上に、姉がいて、その誕生日は9月30日で、
 僕が産れる前に小児結核で死んだらしい。


 昔の田舎には、「位負け」という迷信があった。
 親子が誕生日を同じくすると、父親の重さに敗けて、子が夭折するというものだ。
 そんなものを信じることを嫌う父親でも、
 娘を一人亡くすと、それが気になったらしく、
「お前が産れて来る時は、
 頼むから、一日ズレてくれ、と祈ったよ。」
 後年、よくそんな思い出話を聞かせてくれた。


 父親の跡を継いで特定郵便局長になった時、
 僕は29歳。父親は63歳だった。
 だから、
 放浪生活をやってきて、50代半ばになった時、
「死んだ父親が僕に跡目を譲った63歳になったら、
 放浪をやめよう。」
 そう決めた。


 しかし、
 63歳になっても、岐阜から名古屋、名古屋から彦根と、
 僕は、老いの狂い咲きみたいに、頻繁な土地移動をした。
 そして、目安としてきた63歳も昨日で終わって、
 今日、64歳になった。


 64歳という老人予備軍にいながら、
 僕は、
 これからの自分が、どうさすらい、どこで果てるのか、
 さっぱり予測もできない。
 これが、世川行介という<単独の放浪者>の現在の立ち位置だ。


 昨日今日この「放浪日記」を訪れた人たちが読むたびにイラつくくらいに、
 この20余年、一般社会とは隔絶した「放浪者の好き勝手」を生きてきた。
 息をしていた場所は、いつも、「社会のくぼみ」のような場所ばかりだった。
 そんな「くぼみ」のあれこれが、そこいらの小市民なんぞに理解できるはずもなく、
 僕には僕の思いがあって生きていたので、
 自分の生き様を、そこいらの常識人にわかってもらおうなどと思ったことは、ただの一度もなかった。


    君は君。彼女は彼女。僕は僕。
    群れない。媚びない。イジケない。


 それだけを自分に言い聞かせて生きてきた。



 最近思うのだが、
 どうも、僕は、この20余年間、
「死んだ父親との約束を果たそう。」
 ただそれだけのために生きてきたような気がする。

 僕と死んだ父親の約束の中身について、
 こんな日記に書く気はさらさらないが、
 どうも、自分の軌跡を振り返ると、
 そうであったような気がしてならない。


 こんなことを書くと、世の家庭人たちからはひんしゅくを買うだろうが、
 僕の中では、
 今はこの世にいない父親との約束に比較したら、
 他の血族、それは自分の別れた子供たちも含めてだが、
 血族も何も、他の者たちは、羽毛のごとき存在だったみたいだ。
 この20余年間、僕が、何かの際に、本心を隠すことなく語ってきたのは、
 死んだ父親の幻、
 それだけだったような気がする。


 僕にとって、
 父親の苦悩は僕の苦悩、
 僕の苦悩は父親の苦悩、
 その思いが強くあって、
 子を強く思う父親がいるように、
 わが子よりもわが父親を強く思う息子がいたって、
 それはそれでいいわけだから、
 格別どうこうといった話ではない。


 この20余年間、
 万年強気を生きてきた僕だが、
 こんな僕にも、身も心も衰弱しきった時期があった。
 旧郵政省の小役人たちとの熾烈な戦いに、
 もう、生きているのが億劫で億劫でたまらなくなっていた。

「お父さん。
 もう、放っておいてくれないかなあ。
 少しだけでいいから、僕を休ませてくれよ。
 疲れた。
 本当に疲れたんだ。
 僕を休ませてくれよ。」
 だらしない声でそう言う僕を、

「なあ。
 人は、生きてさえいればいいんだ。
 息をしているだけでいいんだ。
 生きてくれ。
 頼むから、もう一度、生きる気力を取り戻してくれ。
 死んだりなんかしないでくれ。」
 そう叫んで、
 僕の弛緩したような躰を、揺さぶり、抱きしめた、
 あの時の父親の指と腕のぬくもりが、
 今でも忘れられない。


 今日、
 彦根の薄曇りの空を仰ぎながら、
 あれがあったから、こうして、64歳もの誕生日を迎えられているんだな、
 と、
 しみじみと思った。


 あれから22年。
 この歳まで生きさせてもらって、
 死んだ父親には、
 心底から感謝しているが、
 報恩の道のりは、まだまだ長い。




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2 コメント

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奇遇 (坪川)
2016-11-01 13:45:27
まさかのまさか。

「なあ。
人は生きてさえいればいいんだ。
・・・・・・・もう一度、生きる気力を取り戻してくれ。・・・・・・

退院2日目の深夜2時、突然、87歳の古体に全身痙攣が始まり、死の予感が走りました。

今朝、ブログ拝見思わず、世川さんが遥か異郷の地から不肖に声をかけて頂いたと嬉しい思いで拝見しました。

不思議なことがあるのですね。

                 乞許不備








グローバリゼーションについて (金木犀)
2016-11-03 08:35:47
世川行介が井上和弘であっても何も問題ではないと思う。戦後大衆意識をかなり意識している姿勢は相当に日本の政治状況を皮膚感覚で理解している結果だと思う。株の動向をかなり的確に予想しているのも、マージャン風だと思う。これまで無料で視聴してきたので、大きなことを言うつもりは全く無いが、政治は世界権力が地球支配のためにやっていることだという視点が全く見えない。例えばイエズス会だが何故今の総長(アドルホニコラスだが)」が上智大学で神学教授であったのかだが何故イエズス会なのか、CSISはイエズス会がマッカーサー時代に創ったというそうした観点が全くないと思う。世界は独立国がなくなるべく操作されているのだという陰謀論的にはグローバリゼーションと言われる時代。イエズス会NO2のフランシスコザビエルが来日したのは織田信長が濃姫と結婚した年だと思う。つまり、ビジネスとして未開地域をたぶらかすために来たと言うほか無い。以上、酔狂失礼

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