イタリアンでも食べルッカ

おいしい物と個性豊かな料理人達に囲まれた料理学校での日常記

疾走するシェフシリーズ第二弾・ブルーノ先生

2006-09-18 01:45:01 | 料理学院
9月15日(金曜)
講師:ブルーノ先生(トスカーナ州ルッカ)

朝7時30分の勉強会に珍しく6人も来たので何事かと思ったが、リディア先生の担当する初心者クラスでは、まだ2週間目(しかも初日はクラス分けのテストをやったし、警察に行った日はあまり授業にならなかった)だというのに早くも再帰動詞を習っているらしい。日本語にはない発想の動詞なので(まあ、「(人を)制する」と「自制する」の違いetc.に例えられないでもないが)悩む人が何人か出たわけである。しかしわずか8回ほどの授業でここまで進むとは、この先どこまで行くのだろう。そのうち「保護者授業参観」に行かなくては。
調理講習のほうも、今日はリディア先生なみに?「疾走するシェフ」第2弾ブルーノ先生。遺伝性の糖尿病が出て昨年店を売り引退したが、孫の相手をするだけでは長年培った「エネルギー多量摂取(たくさん食べる)・高速排出(マッハのスピードで働き消費する)体質」を満足させられないらしく、朝はマリエッラよりも早く8時30分に来てキッチンを下見に行くし、講習中はレシピに書いてあること以外にほとんど何の説明もなくバリバリと調理にまい進するし、アルバロ先生もいずれ引退したらこうなるのかなァと思わず余計な想像をする。メニューは例によってジビエ特集。おりしも今イタリアでは狩猟シーズンなのだが、ちょうどいいのは手に入らなかったらしく冷凍ものを使用した。

14日目の昼食:
Pappardelle con ragu’ di germano selvatico 野ガモのラグーソースを、幅広の手打ちロングパスタ「パッパルデッレ」と合わせる。本来レシピではルッカ独特の長方形のパスタ「タッコーニ」と合わせるとあるが、タッコーニは月曜にも作るのでパッパルデッレに変更。
Budino di funghi ポルチーニのプディング ポルチーニもいいのがなく今回は冷凍もので。火を通した後ピューレにして生クリームなどと合わせ湯煎で焼いたが、塩味が強かった!先生、血圧の方は大丈夫なのだろうか……。
Insalata di lepre con pinoli e aceto balsamico 野ウサギ肉と松の実、バルサミコ酢風味のサラダ サラダ菜の上に盛りつけて。飼いウサギ(coniglio)にくらべてクセがあるため、ちょっと苦手という人多し。月曜にはconiglioでラグーを作るから違いを見比べてもらおう。

話がそれるがこの間見たイタリア映画で、無人島生活を余儀なくされた男性がウサギを捕まえて焼いて食べる場面があったが、「lepreを捕まえた」とはっきり言っているのに写っているのはどこからどう見てもconiglioだったので興ざめであった。おまけに最初のクレジットを見ていたら、最初の方でひとりだけで名前が登場する(かなり重要そうな役を与えられていそうな)女優さんの名に見覚えがあった。この映画より約10年後に『マカロニ』でマルチェッロ・マストロヤンニの奥さんの、いかにもナポリの下町のママという感じの役で、さらにその5年後に『ニュー・シネマ・パラダイス』でアルフレード(フィリップ・ノワレ)の奥さん役で出ていた女優さんだ。どう考えても庶民的な南イタリアの女!という役しかできそうにないと思われるが(経歴を全然知らずに書いているので違ってたらスミマセン)、映画の方に登場する女性軍はミラノのセレブな女性たちばかり。ということは……で、開巻20分にして後半のオチがわかってしまったのだった。仮に劇場公開時に見ていれば素直に楽しめたと思うのだが、食材に限らず何事にも旬と賞味期限が大事だと思ったことである。
Charlotte di lamponi con crema alla robiola 昨日のデザートの残り。今日が誕生日という人、3日前が誕生日という人がいるので合同のバースデーケーキがわり。
Spumante スプマンテ 同じく、誕生日の乾杯用。
Caffe’ エスプレッソコーヒー

午後、月曜日の講師であるマリエッラのレシピの確認。同じルッカの伝統的レシピでも人によって少しずつ作り方が違ったり、はたまた呼び方が変わるため別の名前でPCに保存されていたりするから、どのバージョンをコピーするかの確認が欠かせない。Passatina di piselli なんてレシピ見たことない!と思っていたらシエナのアントネッラ先生やジャンルーカがよく作る Crema di piselli だったし、ウサギのラグーのタッコーニはジュゼッペ先生、パオロ先生、ジャンルーカいずれのレシピもマリエッラのとは違い、結局PCではなく昨年「タダメシの会」のエッダおばさまが編集した本からコピーすることになった。ジャンルーカとマリエッラが作るのをメモしたものからおこしたレシピなので、一番彼女のやり方に忠実に書いてあるのだそうだ。もっともドルチェを除き、たいていのレシピはその場その場のインスピレーションでどんどん手が加わる運命にあるのだが。

14日目の夕食:
Farinata garfagnina ガルファニャーナ地方のファリナータ トウモロコシの粉(farina gialla)を振り入れて作る、ポレンタを湯のかわりに野菜スープで煮込んだみたいなプリモ。先生は冷やしておいて夜にオーブンまたはフライパンで焼く食べ方が好きみたいだが、今日はとろみのあるスープのようにして普通に深皿に盛って出した。たまたま近くのテーブルにいたオランダの男性が興味を示し、たくさんあったのでジャンルーカがよそってあげたら気に入って、レシピが欲しいと言い出したそうだ。
Fagiano in umido con olive キジのトマト煮込み 黒オリーブ入り こちらもみなお腹がすかないせいか、はたまたジビエのくせがあるせいか結構残った。
Tortino di ricotta con cioccolato caldo リコッタをベースにしたカップケーキ。温かいチョコレートのソースで。味といい焼き加減といい別に失敗でもなんでもないのだが、裏ごししていないので食感が良くなく、見かけがきれいでもないのでていねいに作った日本のデザートに慣れた生徒さんにはちょっと不満な一品だったようだ。
Caffe’ エスプレッソコーヒー

こんど独立して岡山で店を出す「マッシー」さんは一足先に日本に帰るため、今日が最後の講習。食後ホテルのバーに場所を移し、日曜日の遠足の打ち合わせに来たガイドのカヨコさんにも残ってもらってMoscato d’Astiで乾杯。ちょうどいい機会なのでエノテカの Carta dei vini…を全員に1冊ずつ贈呈する。


ジャンルーカの3か国授業

2006-09-18 01:35:10 | 料理学院
9月14日(木曜)講師:ジャンルーカ先生その2

トスカーナ州では今日からほとんどの学校でやっと夏休みが終わり、新学年がスタート。それとは関係なくまったくの偶然ながら、当校も今日は米国勢が姉妹2組(ラレインとオードリー、クリケットとパトリシア)に増殖し、さらに先日顔出ししたオーストラリアのマーゴさんも参加して3か国体勢。まずジャンルーカがイタリア語で説明し、私が日本語に訳す間にジャンルーカが英語でもう一度説明。
迎え撃つ(?)日本勢はゆうべ帰還が午前様だったのでちょっとお疲れ。朝7時30分の勉強会も3人しかこなかったし、うち1人は遅れてきたし。
イタリアでは(少なくともこのあたりでは)8~9月は生の完熟トマトでトマトソースを作るが、その他の時期は水煮のホールトマトを使う。今日はトマトを使うレシピが2つあるのでちょうどいい機会だから、知り合いのアグリツーリズモから畑のトマトをもってきてもらい、これで手打ちパスタ用にpomarolaというトマトソースを、Pappa con pomodoro用にトマト缶を使った Salsa di pomodoroを作る。

13日目の昼食:
Fettuccine al pomodoro con pesto alla rucola 手打ちのフェットゥッチーネを、「ポマローラ」(トマトと香味野菜・バジリコなどを全部鍋に入れて一緒に煮ていくソース)と、ルコラや松の実で作るペーストの2つのソースで。
Crocchette di patate con salsa di funghi pioppini じゃがいものミニコロッケ、キノコのソース ポプラ(ピオッポ)の根元に生える、ピオッピーニという細長いシメジみたいなキノコで作ったソースを、コロッケの中央のくぼみに盛りつけてサービス。
Pomodori ripieni 詰め物をしたトマトのオーブン焼き
Dolce di recupero 今までの残り物のクリーム類、オレンジなどが入った、作り方を説明することも再び作ることもおそらく不可能と思われるケーキ。
Caffe’ エスプレッソコーヒー

イタリアに来てから初めての雨。「湿度が高い」と言われるルッカですら日本よりはカラッとしているのでしのぎやすいとはいえ、まだ昼間は暑いのでいつも食事は中庭でとるが、頭上のテントに2・3か所穴があいていて雨漏りするので、その真下にいる人にとっては落ち着かない昼食だった。
午後、またもや明日のレシピの翻訳。このところどうもPCがヘン。といっても動作上の問題ではない。これまではファイル名やフォルダ名はずっと黒で表示されていたのに、先週のある日に立ち上げたらトツゼンそれまでに作ったファイル・フォルダ名が青で表示されていた。別に支障はないし涼しげでよいので放置しているが、その後に作ったファイルの名はもとどおり黒で表示されるので、ファイル名の表示法に「一覧」を選択するとだんたんインテルのユニフォームに見えてくる。別にインテルをひいきも敵視もしないが、気になるので直し方を知っている人教えてください。

13日目の夕食:
Pappa al pomodoro classica 日本人にとって米が神聖な存在であるように、パンは「キリストの体を象徴する」神聖な食べ物だから、日がたって固くなってもいろいろに利用法を工夫して食べきる。これも、サルサ・ディ・ポモドーロ(炒めた香味野菜=ソフリット=にあとからホールトマトを加えて煮込むタイプのトマトソース)をブロードでのばし、固くなったパンを加えてふやかして作る、pappa(赤ちゃんの離乳食、おかゆ)のような柔らかさのパンのスープ。
Agnello arrosto con erbe aromatiche 子羊は骨ごと食べやすく適当に「たたき切り」、オリーブオイルをかけてオーブン焼きしてからハーブをかけて食べる。トスカーナでは子羊はふつ~にみんなが食べるお肉の1つで、特にクリスマスから復活祭にかけては宗教上の意味合いもあってよく登場するが、先日講習会を行ったヴェローナ(ヴェネト州)では肉屋に売っていない!らしく、こっちで買って車で運んだそうだ。まあ、ヴェローナを支配していたヴェネツィア共和国そのものが、そもそも海の上にできた町で放牧地なんかさかさに振ってもない土地柄だったからねェ。
Charlotte di lamponi con crema alla robiola ロビオーラ(クリームチーズの1種)とラズベリーのシャルロット 
Caffe’ エスプレッソコーヒー

2週目も終わりかけというのに今更の感もあるが、これまで正式に全員が自己紹介したことがなかったので、レストランが定休日で他にお客さんがいないこの機会を利用して、ひとりずつ簡単にお願いする。ちなみに大学でフランス語を専攻していたダイさんは、私が習っていた先生に1、2回生の時会話を習っていたことが判明した。「卒業したらどうするの」と聞かれ「料理の勉強にイタリアに行きたいです」と答えたら「私の友達がイタリア語の通訳で、シエナにある料理学校の仕事をしている」と言っていたそうだ。別にそれがきっかけでこのコースに申し込んだわけじゃないけど、世間は狭い。

疾走するシェフシリーズ第一弾・アルヴァーロ先生

2006-09-18 01:33:24 | 料理学院
9月13日(水曜)アルヴァーロ先生その1(トスカーナ州モンテカティーニ・テルメ)

今日のお客様はスコットランド人のお2人……と聞いていたら実はモンテカティーニの、先生のホテルに泊まっているアメリカ人の姉妹だった。だったら先生と一緒に来ればいいのになんと別個にタクシーを飛ばして来る(さすが5つ星デラックスホテルの泊り客)。レシピはイレーネが昨日パオロさんと携帯とPCの接続ですったもんだしながら訳してくれたが、材料名しかないので作り方を簡単に説明しているうちに先生はサッサと厨房に入り、黙々とシタビラメをおろしにかかる。この人は放置すると何の説明もなしにどんどんやってしまうので「早く厨房に行ったほうがいい」とマリエッラにせっつかれてあわてて介入。やはり先生の授業には歯止め役のフランス人が必要だと思う(前期の項参照)。

12日目の昼食:
Riso Carnaroli alle sogliole con grattugiata di limone biologico 「カルナローリ」とは粒が大きいのでリゾットに向いたお米の品種のひとつ。シタビラメとレモンのソースで。なちなみにリゾットの調理には熱がなるべく均一に回ることが必要なので、熱伝導率の悪いステンレスの鍋は一番向いていない。「ステンレス鍋でリゾットを作る人は司厨士協会から除名したいくらいだ」とのスゴイ発言も出る(どんな反響があるのか興味あるので是非やっていただきたい)。反対に銅鍋は電線にも使うくらいだから最高の選択、あとは百歩ゆずってアルミ鍋だそうだ。と言われても大きさからいって適した鍋がステンレス製のものしかないので、先生は泣く泣く?ステンレス鍋で作ったが、味は十分上品でおいしかった。なお最後の mantecatura(仕上げのおろしチーズとバター)だが、シタビラメの上品な味を生かすためチーズは入れず。そのかわりバターは普段の倍くらい多かった……。
Variazione di panzanella con crostacei all’olio extravergine トスカーナパン、バジリコ風味のトマト、下味をつけた夏野菜をセルクルで成形しながら層に重ねた変わりパンツァネッラ。
残った野菜をスライスし、適当なドレッシングであえた野菜サラダ(名称不明)
Budino al cioccolato con amaretti con salsa al caramello チョコレートとアマレッティのプディング、カラメルソース 滞在許可書の件で警察に再度出向いた人がいたので2つ余り、語学の先生に出したら目の色を輝かせて食べていた。
Caffe’ エスプレッソコーヒー

前菜の仕上げに生のオリーブオイルをかける際たいていの人はビンのままやるが、先生はビベロンという哺乳瓶型の容器を要求した。ところが1個しかないのにすでに中身が入っていたので使えない。先生は「学校なんだからもっとたくさん用意しろ。うちのホテルには1ケースあるぞ」と豪語するのでマリエッラが「じゃあ持ってきて使えばいいでしょ」と応酬、「よーしじゃ次週は箱ごと持って来てやる!」と先生も答える(売り言葉に買い言葉とはこのことだ)。すてきアルヴァーロ先生、太っ腹!

サラダも終わり、次はドルチェという頃に電話が入り「食べ物は何か残っているか?今から張さんという人が2人来る。きっと韓国系日本人だ。中の一人はトモコさんというらしい」とジャンルーカが唐突に訳の分からないことを言いだす。たぶん初めて当校を訪れる人と思われるが、いきなり食事時を狙ってくる奴とはいったい何者かと思ったら、先ほどのはまったくの聞き違いで、現れたのは3期前の卒業生の「ママ」ことチエさんと娘さんだった。なんと月曜にイタリアに着いて明日もう帰国、研修先のレストランがある町チェチナに行って娘さんに店と町を見せ、メルカートに行って海を見ながらぼんやりするのが今回の目的。レストランでもそう言ったら店中が大笑いし、会う人ごとに「こいつはヘンな日本人なんだ!イタリアに来てローマもヴェネツィアもフィレンツェも見ずにチェチナに来たんだぞ!」と(自慢するため)吹聴していたらしい。
午後は明日用にジャンルーカのレシピの翻訳。あれだけたくさん用意してあるのに、どうしてわざわざ未訳のレシピを取り上げるのか理解に苦しむ。ひとつは日本語訳どころかイタリア語版すらない英語版だし、もうひとつはここ8年定番で取り上げているバージョンに実は「バリエーション」版があったことを先日までジャンルーカも忘れていた、そのバリエーションなのである。イレーネがイタリア語に訳したものを英語版と見比べながら訳していたら最後が「詰め物をしたトマトを350度のオーブンで焼く」とありギョッとするが、考えてみればアメリカ人向きに華氏で書いてあるだけだった。辞書で華氏の定義を調べ、セ氏と華氏の計算式を作る。ほとんど算数の時間である。ついでにオードリーとラレインのためにオンスとグラム、パイントとリットルの対応表も作る。アメリカは世界の風俗を席捲しつつある国と思われているが、度量衡の世界ではみごとに孤立しているね。

12日目の夕食:
Filetto di orata in crosta di patate su passatina di broccoletti 千切りのポテトをクロダイの上に乗せてカリッとフライパンで焼き、さらにオーブンで仕上げ。ポテトが余ったので残りはポテトチップス状に揚げておまけで上から乗せた。ブロッコリーのピューレのソースで。
Zuppa di crostacei 甲殻類のスープ 講習で使用した甲殻類の殻を使って野菜とトマトで作った、ちょっとビスクみたいな感じのあっさりしたスープ。
Caffe’ エスプレッソコーヒー

今日はルッカで Processione di Santa Croce(聖なる十字架の行列)という宗教上のお祭があり、屋台が出たり花火の打ち上げがあったりして楽しいだろうというので(移動遊園地 Luna Parkも来ているし)、生徒さんは21時にタクシーで市内へ。23時15分ごろ、市内から5キロ離れたここまで花火の音が聞こえ出した。