ということで、中部在住の友人の厚意により、田中恒成の転級初戦を見ることが出来ました。
契約ウェイトは50キロ、相手はIBF10位のレネ・パティラノ。
体型はスラリとしたボクサー風。ダウン経験がなく、あのランディ・ペタルコリンと引き分けの経験あり。
実際、なかなか地力のありそうな選手でした。
しかし、試合は一方的な内容、ワンサイドマッチになりました。
初回、パティラノはゆったり構え、リーチを生かし、左を伸ばす。
田中は足を止め、正面に位置。単発ながらジャブをもらうが、距離を外さず「詰めた」位置取り。
右クロスを決め、リターンが来たら目で外す。右ボディ当てる。
2回、田中、少し身体を振り始める。肩を入れた左で突き放し、首振り防御も見せる。
見るからに好調。打つパンチは切れ、威力充分。打ったあとのステップも速く、バランスも安定。
これまでの試合で時々あった、困ったら止まってガード一辺倒、という苦しい姿は影もない。
3回、パティラノが手数を増す。しかし田中落ち着き払っている。
パティラノの攻勢をジャブで「切り」ワンツー、左右ボディ。
好調故か、ぎりぎりの見切りに走るところがあり、スリーパンチのあと右一発だけもらう。
4回、連打で攻め、締めに左アッパー。見事に決まる。
少しショートで打ち合う。パティラノ右アッパーを見せるが、田中左トリプル、また左アッパー。
5回、田中ますます好調、ボディ、左フック、左ジャブのダブル、トリプルがびしびし決まる。
6回、パティラノも果敢に打ってくるが、田中は少し「やらせて」おいてから反撃。
右クロスから左ボディの対角線コンビが決まり、パティラノさすがに手が止まり、後退。
ロープからロープへと追い回し、最後は左ボディから右でダウン。KOとなりました。
過去の苦しい減量が、ことに無理なミニマム級での試合が、いかに彼の才能を削り、
全体的なスピードやバランス、集中力を低下させていたのか、ということがよくわかる試合でした。
そして同時に、ベストコンディションの田中恒成が、どれほど優れた才能の持ち主か、
ということも、まざまざと見せつけられた試合でもありました。
いやー、今回はホントに驚かされました。
良い選手だ、逸材だ、とは初めて見たときから思っていましたが、いざそれが好調な状態で
これほど十全に見られると、改めてその才能の膨大さに圧倒されました。
スピードがあり、目が良く、攻防の繋ぎが滑らか。
左がよく出て、それ故か、いつ何を打つべきかの選択に、無理や間違いが少ない。
相手はけっして弱い選手ではないはずですが、単発のヒットを許した以外、ほぼ圧倒していました。
本人の自信満々なコメントの数々も、むべなるかなと。参りました、お見事です、という感じでした。
軽量級に多くのタイトルホルダーがいる日本ですが、今は無冠の、この田中恒成こそが、
日本のフライ級以下で、最高のボクサーではないか。そんな風にさえ思います。
その実力は全階級通じても、いずれは井上尚弥に次ぐレベルに到達するのではないか、とさえ。
今回、多少、自らの好調ぶりに勢い余った?ところがあって、防御面で多少、無理をしたかな、
もう少しセーフティな選択があって良いかな、という部分がありましたが、
それを除けば、ほぼパーフェクトな転級初戦だったと思います。
八重樫、田口、拳四朗といった面々にとっても、その存在は正しく脅威でしょう。
田口良一への挑戦をアピールするコメントがありましたが、相当自信がある風でした。
私の感想を率直に言えば、こんな試合してしまうと逃げられるよ、というところですが。
そして、今回の契約体重は、ライトフライよりもフライ級のそれに近い設定でした。
今年、成人式に出たばかりの若さを考えれば、当然、将来はフライ級での活動が、視野に入ってきます。
そして、田中恒成にとり、真の勝負はそこから、なのかもしれません。
伝統階級であるフライ級において、肩書きとは釣り合わない「タイトルホルダー」ではなく
真の意味を持ちうる「チャンピオン」を攻略すること。
田中恒成は、そういう真っ当な夢を託すに相応しい逸材であると、改めて思い知りました。
陣営の皆さんには、単に東海、名古屋ではなく、日本全体にとっても正しく「星」である
田中恒成の今後を、より広がりのある世界へと展開してもらいたい、とお願いしたいものです。
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そういうことで、こっそり動画紹介します。
数日で消えますので、お早めに。
1~3回。
4回~試合終了まで。
はっきり言って、別人でした。
まず、試合前から大きく、充実し、どっしりと安定して見えました。今までの試合の、背は高いんだが、影が薄く重心が落ち着かない感じがなく、いかにも強い選手の雰囲気。
相手も安定して静かな自信が漂う、強い選手の雰囲気が感じ取れましたが、試合前からサイズとオーラが違う印象。
試合が始まると、初合に抜群の速さ、威力の左ジャブでオープニング。井上尚弥以外ではあまり見た事がない、先々を使って相手を動かしていく展開で、今日は安心だと感じました。左ジャブ、右ボディは全部当たる感じで威力も十分。先々を使うので、バックステップも速く、ガードワークもしっかり機能しており、距離を制した立ち上がり。2ラウンドになると見切りを使ったカウンターを使い出す。4ラウンド以降、相手も出て来て展開の打開を図るが、基本的には押し返す展開を選択、距離が詰まり単発のヒットを許す場面も。近い距離では左ボディが死角から飛ぶ感じで目を引きました。しかし6ラウンドにこの充実した相手をフィニッシュ出来たのは、単発の被弾を許す替わりにより多彩に深く攻撃を当てたからの様にも感じました。
さうぽんさんがおっしゃる通り、自身の好調に引っ張られてヒットを許す部分や、見切りへの自信のためか間合いでガードが下がる部分もありましたが、フライ以下では現時点で間違いなく日本人No. 1、スピードスター新生といっても過言ではない出来でした。実力だけで評価すると、八重樫、田口を凌ぎ、拳四朗も及ばないと思いましたし、井上尚弥とも双方の調子、ウェイト次第では分からない勝負になるのでは、と思いました。
課題としては、距離が近い時があり、その際にガードが下がり気味なのと、相変わらず目を掻くクセがあるのが少し気になりました。
動画、ありがとうございました、新生・田中恒成を見れて良かったです。
当たり前ですが、コンディションが良くて、あらゆる面で不安が見えない選手が、その才能を十全に発揮するのを見るのは、とても良いものですね。先手を取って攻め、相手の手を読んで迎え撃ち、最後は自ら出て仕留めるという流れは、今後へのさらなる期待を呼び起こすものでした。速いから速いだけ、巧いから巧いだけではなく、色んな面に良さがあり、やはり逸材だなと思わされました。出来れば名古屋、東海の枠内を飛び越えたスターの座を目指してほしい、という気にもなろうというものですね。
率直に言いまして、自分は田中選手のコアとなる、足捌きが以前はまるで見えておりませんでした。さうぽんさんに御指摘頂きまして初めて、その時点までの試合を見直し、確かにちょっと変わったステップをするなあ、程度の認識だったのです。
ところが今回の試合で、現実はさうぽんさんが指摘されました通り、田中選手は次世代のスピードスターになりつつあります。自分の不明を恥じるとともに今後も勉強させて頂きたく、再度書き込ませて頂きました。
PS. 蛇足ながら、天賦の才としましては、部分的には井上尚弥を凌ぐ部分があるというか、いわゆる"シュガー"な部分を田中恒成により濃厚に感じる気がします。速度といわゆる目の良さというか、うまく言えませんが。ただ、そういった部分が完成度に寄与しない様な気もするのですが…素人の戯言でした。
井上尚弥との比較でいくと、今の井上がハグラーやハーンズ寄りのクラッシャー、デストロイヤー風であると見るなら、明らかに田中恒成は「シュガー」風味の選手ですね(^^)
そして、そうした特性が選手としての完成、ないしは安定を阻む例も過去にはあったと思います。しかし田中恒成への期待は、その陥穽に陥ることなく、スピードのみに依らず、総合的に見ても完成度が高い選手としての大成です。そして彼なら、そういう期待をかけても良いのではないかと思える、今回の試合はそういう試合でした。