さうぽんの拳闘見物日記

ボクシング生観戦、テレビ観戦、ビデオ鑑賞
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拳闘見聞の日々。

衝撃の圧勝!だがそれ故に、これはまだ通過点だ 井上尚弥、6戦目でWBC王座に

2014-04-07 02:19:52 | 井上尚弥


井上尚弥なら充分勝てる、と思っていました。
こわごわではありましたが、そう書きもしました。
しかし、こんな試合内容は想像してみたこともありませんでした。


右のボディストレートを突き刺した初回早々から、井上尚弥は全て先手を抑えてしまう。
判断が速い、手が速い、足も身のこなしも速い。
鋭い軌道を描き、長く伸び、次々に放たれる、殺意を込めた井上の拳に脅かされて、
アドリアン・エルナンデスは後手を踏むことすら許してもらえないままでした。

ことに、序盤3ラウンドまでは、ろくに手も出させてもらえないエルナンデスの姿に
何度、眼前の光景を疑ったか知れません。
東南アジア系の格下相手に調整試合をやっているんじゃあるまいし、
これはいったいどうなっているんだ、信じられない、あり得ない。
簡単に言うとそういうことです。

4回以降、井上がやや足を止め加減になり、それに乗じて攻めることを許されたエルナンデスですが
パンチの大半は井上の腕にバウンドし、むなしくグローブの皮の音が聞こえるばかり。
王国メキシコの強打者は、その拳をキャリア僅か6戦の日本人ボクサーに打ち込むことが出来ませんでした。

6回、エルナンデス懸命の反撃。しかしこの何度目かに見せた「意地」は、
いよいよ最後の断末魔、と見えるものであり、次に自ら後退したり、何らかの形で「決壊」があれば
勝負はそこで決するだろうと明らかにわかるものでした。
井上が放った4連打、その最後を締め括った右で倒され、
立ったものの、闘志を表せなかったエルナンデスを、誰も責めることなど出来ないでしょう。
彼は大歓声の中、地獄同然のリングから解放されました。


実際のところ、アドリアン・エルナンデスが若干不調であったとて、減量に苦しんでいたとして、
それにしたってこんなワンサイドの敗北など、起こり得ないことでした。

しかしそれは現実に起こりました。井上尚弥の圧倒的な力によって。

そういう理解が正しい試合でした。



こうして書いていて、エルナンデスほどではないにせよ、私もまた、井上尚弥に苦しめられています。
とにかく、今夜彼が見せてくれた、余りにも見事な、見事過ぎる勝利から得た衝撃を、感動を、
どのような言葉を連ねたら、十全に表現出来るというのだろう。
答えが見つからないうちに、こうしてだらだらと、上滑りの言葉を並べて、恥をさらしています。


ただ、井上尚弥の闘いぶりが余りに見事で、その勝利が素晴らしいが故に、
自分が過去に書いたことの中から、改めて思い出したこともあります。

彼が目指すべきゴールは、この試合、この勝利ではない。
井上尚弥だからこそ、世界タイトルのひとつを保持する「タイトル・ホルダー」に
なったことは、あくまで彼にとっては通過点に過ぎぬはずだ。

彼が目指すべきは、軽量級において、現役最強の比類無き存在となることであり、
現状で言えばファン・エストラーダ攻略こそが、一定の到達点と目されるべきであり、
彼や陣営が出した具志堅用高の名よりも、フライ級史上もっとも価値の高い
ミゲル・カントの14度防衛記録更新が、その壮大な夢として語られるべきではないのか、と。


プロ6戦、アマチュア81戦、キッズボクシングの試合を入れても百数十戦の二十歳に、
よく考えれば何を大層な話を押し付けているのだ、という話です。
しかし、必ずしもこう書いて、人に笑われるような話でもないと、そう思ってもいます。

井上尚弥なればこそ。
彼の余りにも大きな才能と、それを支える心身の揺るぎなさを見たからこそ。


久し振りに、これほど壮大な夢を見せてくれるボクサーに出会いました。
そのことに心から感動し、感謝を送りたいです。
井上尚弥、おめでとう、そしてありがとう。



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6 コメント

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Unknown (R35ファン)
2014-04-07 06:20:57
いくら井上君でも少しは緊張して上手く行かない事があるだろう、と思った凡人私の予想を見事に打ち砕いてくれました。大振りなど一度もなくどのパンチも鋭角に決まる、利き腕が同じ相手に何故ああも見事にボディストレートを決められるのと感心しきりでした。井上君は井岡君路線などに走らず、リング上でロマゴンと言葉を交わした先輩の男ぶりを見習って王道を進んでもらいたいです。
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Unknown (さんちょう)
2014-04-07 12:56:59
もうちょっとは苦戦するだろうと思いましたが、とんでもないワンサイドでしたね… 王者もちょっと不調かななんて思いましたが、それを差し引いてもすごかったです。 あの相手を殴るというか、肉や骨をえぐるようなパンチ、相手はたまらんでしょうね。田口選手はよく判定までもったなと思います。

今後はベスト階級で長期政権してほしいです。4団体統一も夢じゃないでしょう。
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末恐ろしい20歳です。 (蝉丸)
2014-04-07 13:23:03
お久しぶりです。いつも楽しく拝見させて頂いています。
戦前から勝つことは予想してましたが、ここまで圧倒しますか。特に1.2ラウンドの打ち分けは見事なもんです。

さてこれで晴れて世界チャンピオンになった訳ですけど、さうぽんさんは井上選手にはどんなチャンピオンロードの歩みを望んでいますか?
試合後の会見では防衛回数の記録更新…と言ってたような気がしますが、どうでしょう?
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Unknown (ハンク)
2014-04-07 19:13:53
とんでもない圧勝でしたね。予想を遥かに超える結果でした。
5R以降に急に失速し、パンチの精度もやや落ちたように見えたのが不安でしたが、脚をつっていたらしいという話でその影響が大きかったのでしょうか。

これで一応日本最速という宣伝用の役割は果たしてくれたので、今後はベストの階級を模索しつつ、焦らず着実に経験を積んでいってくれることを願います。
期待の逸材だからこそ、ハードマッチメイクだけで使い潰すような真似はしないでほしいです。
返信する
Unknown (neo)
2014-04-07 23:45:47
凄かったですね。右も左も一発で倒すパンチが打てて、試合運びU+2022技術はつけいる隙なし、オマケにスピードは抜群。言い過ぎなのは覚悟の上ですが、怪我なく潜在能力限界まで鍛えられれば、メイウェザーやリゴンドーに伍するレベルまで行くのではないでしょうか?井上を倒すスタイルが浮かびません。インサイドワークやカウンターに長けた者にはスピードで対抗し得るし、スピードが自慢の選手には強い攻撃で痛めつけそうですし、パンチ自慢とて打ち負けないパンチある上にスピードU+2022技もあると。すでにボクシングのレベル的にはマルケス兄に近いモノがあるのではないか?と思ってしまいました、贔屓の引き倒しでしょうか笑
いろいろと妄想がふくらみますが、是非現実にして頂きたいです。
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コメントありがとうございます。 (さうぽん)
2014-04-08 05:37:30
>R35ファンさん

まったく同感で、信じられないものを見たというに尽きます。初回1分過ぎ、右のボディストレートがエルナンデスの予測を超える深さで入って以降、井上は完全に試合を「支配」してしまいました。打つ前の動作がなく、フェイントと言えるかどうかの予備動作が効いていて、なおかつ身体を運ぶバランスが良く、速くて深い踏み込みで打てるからああいうことになるんでしょうが、これは天性に加えて、相当な反復練習、厳しい鍛錬の賜物なのでしょうね。
井岡路線というか、TBS路線というか、まあ今後、フジテレビと陣営の行く末には多少不安も感じますが、少なくとも無い物をこしらえ上げて記録を喧伝する、ということだけはやらないでほしいですね。まあ、さすがにしないと思いますが。

>さんちょうさん

王者が多少不調であったとしても、こんなことにはならんだろう、と驚いてばかりの試合でした。あれだけ速く、巧ければ、二十歳かそこらの若者がそれにかまけて、他のことをおざなりにしてしまうことは普通にあることでしょうが、彼はその上に揺るぎない強さを持っていて、そのことを大事に考えているのでしょうね。
フライ級に転じるというのは、基本的には良い話だと思っています。即タイトル戦となるかはともかく。でも、その先には壮大な夢が見られそうですね。

>蝉丸さん

基本的には三階級とか四階級とかの数字を追いかけるばかりで、実は中身がない、というような方向ではなく、伝統あるフライ級に腰を据えて、その時々で最強の相手と闘って見せてほしい、その結果の積み重ねが新たな記録になるのならそれは幸い、という感じで行って欲しいと思っています。いかにもつまらない答えしか出てきません、すみません(笑)

でもそういう真っ当な道を歩むことこそが、あらゆる面において難しいことなのかも知れませんね。エストラーダ、ロマゴン、ジムメイトですが八重樫、ルエンロン、井岡、セグラ、コンセプション、ビロリア、ゾウ・シミン...まあ中には「リーグ」が違う人もいてそうですが、こうした強豪たちとの闘いを、少しでも多く見たいと思います。

>ハンクさん

圧倒的なスタートで、エルナンデスの心身がそうとう痛めつけられていたと見えましたから、あの失速も井上が倒す手応えを得たから、泳がせて引きつけているのか、と思っていました。あとで報道を見て驚きました。ただ、いずれにせよエルナンデスは限界ギリギリで、記事にも書いたとおり「末期の抵抗」だったわけですし、そこまで追い込んだ井上の力はやはり凄いものですね。
フライ級に上げるなら、即タイトル云々と言わず、段階を踏んでじっくり112ポンドの心技体を作り上げていって欲しいと思います。実際どうなるかはまだ見えてきませんが、本当に次からフライ級なら、一番ありそうなのが「WBAの正規」だったりしそうですね。まあ、これも井上の圧倒的な技量があれば「通過点」としては良いところかな、なんてついつい思ってしまいそうで、ちょっと怖いですが。

>neoさん

もし彼がウェルター級だったら、メイウェザーやパッキャオに伍して闘う選手になれるかも知れません。誰しも似たようなことを考えるものですね(笑)
井上を倒すスタイル...難しいでしょうが、それはリゴンドーのスタイルじゃないでしょうかね。思いつきですが。彼なら井上の踏み込みからさらに遠くに逃げられる速さがあり、なおかつそれをバランスを崩さずに出来るかも知れません。全然楽しくない想像ですが(笑)

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