事情あって遅くなりましたが、土曜日、さいたまスーパーアリーナにて何とか観戦してきました。
とても簡潔に書けるような試合ではないので長くなりますが、経過と感想文を。
初回、当然と言えば当然ながら、ゲンナジー・ゴロフキンの左リードが多彩。
当人にしたら軽めの打ち方なのでしょうが、ジャブ、フック、アッパーなど、威力も充分、テンポ良し。
で、注目点はこれまでもつらつら書いたとおり、村田諒太がそれにどう対するか、でした。
見たところ、基本的には、右クロスで抑えにかかる、という対応が中心のようでした。
私の陣取った最高峰(笑)というか、体裁してもしゃあないですね、一番上というか最安値というか(笑)のカテゴリーの席から見ていると、村田の右クロスや右ストレートは、それなりにゴロフキンを脅かす角度、タイミングがあるようにも思えました。
ただ、芯食った、というヒットはなさそう、というのも、かろうじて認識はできました。
悉く、ゴロフキンの小さい足捌きで外されている。下がるベクトルの動きはあるが、プレスかけられて退く、というではない。
ただ、村田の方は、積極的かつ、落ち着いて闘えている。腰も良い感じで降りている。
ブランクの影響はない。ロブ・ブラント再戦、スティーブン・バトラー戦の勢い、良さが継続している印象。
これだけでも、村田諒太は大したものだ、と思えました。
この日に向けて彼が乗り越えてきた様々を、費やした労苦の膨大さを思っているうちに、初回終了のゴングが鳴りました。
しかしこのままでは、彼我の差が徐々に広がっていくだろう...と思った2回、村田が左のボディブロー。
これが決まってゴロフキンが「退く」。続いて村田、左ジャブから右ストレートのワンツー。「ツー」の右はボディへ。もう一発右ボディ。
これはしっかり力がかかったヒットに見える。ゴロフキン、多彩な左中心にテンポ重視で返すが、村田が右クロス上、左ボディの対角線コンビ決める。
村田右アッパーも見せる。ゴロフキンも出て打ち合い。この回村田。
3回、ゴロフキンが右フック、左フックを、村田のガードを外から巻いて打ってくる。先ほどまでと明らかに対応が違う。
しかし村田、左右をボディに集める。ゴロフキンを食い止め、また右上、左ボディのコンビ。
両者右相打ち、きわどい。村田さらにボディへ右ストレート。ゴロフキン、少し身体が浮いている?村田の回。
この6分間、ゴロフキンは明らかにボディブローでダメージを受け、村田に「止められて」いました。
初回に見せた足捌きでは、上へのパンチは外せても、ボディは外せない。そこへ村田が後続打を重ね、それを高い確率でもらっている。
この展開は、試合前に思い描いていた中でも、村田にとり最良の部類ではないか。見ていて、思わず心が浮き立ちました。
場内の雰囲気も、村田への期待が最大限に膨らんで、騒然たるものでした。
4回、しかしゴロフキン、左右の「外巻き」パンチで、村田の高いガードを打ち崩しにかかります。
ガードが堅く、高い選手を打ち崩すには、ガードの内外を打ち分けて崩す...レベルの高い選手でないと不可能な方法ですが、ゴロフキンともなればそれが可能。
この回、早めに入った「外巻き」の左フックで、村田の勢いが一旦、止まって見えました。
また、村田のボディブローも、ゴロフキンが足捌きで外せぬなら、と腕で防ぐ場面がありました。
ゴロフキン、詰めの段で見せる、左フック斜め上から振り下ろし、というのを出しますが、これは村田が警戒していて、かろうじて躱す。
しかしゴロフキン左中心に焦らず当てて行く。強振していなくても、村田を止めるだけの威力あり。
村田踏ん張って右ボディ、これはヒットする。左ジャブも出る。しかしゴロフキン右クロス。ゴロフキンが取ったか。
5回、ゴロフキン今度は右の「外巻き」フック。村田右スト下。ゴロフキン逆に左からボディ攻める。村田少し膝が伸びる。やや腰高に。
この姿勢、重心では打っても威力がない。受け身一方になり、攻め落とされる。何とか元に戻したい。
ゴロフキン、それを見てテンポ良く、強弱つけて攻める。ゴロフキンの回。
6回、村田マウスピースを落とす。苦しくなっている。ゴロフキン、右から内外、アッパーと続け、左ジャブ。
村田、受けに回っている。この展開では厳しい。ゴロフキン。
7回、村田じわじわ攻められる展開続く。ダメージの蓄積が見える。
しかしワンツー、左ジャブ、右でゴロフキンを下がらせる。ヒットかどうかは、視認出来ませんでしたが、少なくともゴロフキンが一旦、攻めを止めたのは確か。
村田奮闘、右ストレートを下へ。ゴロフキン、これは警戒、というか嫌がっている。ポイントはゴロフキンか。
8回、ゴロフキン左ジャブ、フック、アッパー打ち分ける。村田右を連発し反撃。場内沸く。
ゴロフキン、右をインサイドへ、左フック外巻きをダブル、ワンツーで追撃。理詰めで強い攻撃。
これが「世界」とつくチャンピオンのレベルか、と、村田応援の心情を忘れ、思わず感心。
村田は半ば捨て身?右アッパーと右ストレートのコンビ?を繰り出す。相手の左腕を下から、上から巻くような攻撃。
これが決まれば...と思うが、その願いは叶わず。
村田の右が浅いがヒット、ゴロフキン珍しく「来い」とジェスチャー。
9回、村田がゴングと同時に飛び出して右。奇襲をかけたか、変化をつけたかったか?
しかしゴロフキン、咄嗟の事ながら対応した?右カウンター。
これが決まったか、村田コーナーに詰められ、打ち込まれる。
ゴロフキン、好機になればなるほど冷静というか、連打の中に右アッパーを織り込んでいる。
効いているときにこれやられると、ホンマにつらいです...と、ボクサー経験者の方に教えてもらったことがあります。
しかしその状況でも、ゴロフキンの左フック斜め上から、の追撃は村田が外す。
この試合に向けた様々な鍛錬、そして研究が、この苦境でも生きている。これもまた、攻撃時の奮戦と同様に、感動的な場面。
ゴロフキン、村田のガードを見た上で、何を打つか打たないか、瞬時に切り換えが効くよう、強弱の加減が出来る。
村田コールが沸き起こる中、村田奮戦、右ストレート返す。ゴロフキン詰めを諦め、一旦退く。
村田出るが、もうガードもバランスも乱れている。左フックを上に振った、と思ったら、同時にその上?をゴロフキンの右フックが通った。
これは正直、驚き。狙ってやるようなことかどうか。ゴロフキンも、かなり厳しい状態だったのかも、と振り返って思うところ。
しかしこのパンチが入って、村田ぐらつき、ゴロフキンを視界から見失って膝からダウン。その前か後か同時か?タオルが入って、セコンドが飛び込んで来ました。
試合が終わって、場内はしかし、一言で言えば感動に包まれているように見えました。
一部、早々に立ち去る観客もいるにはいましたが、多くが場内に止まり、世界最高峰の王者と、その最高峰に挑んだ挑戦者を、何とかして称えたい、その気持ちを表したい、という気持ちだったことでしょう。
私も同様でしたが、しばらくして事情あり、席を立ちました。
ゲンナジー・ゴロフキンは、初めての来日試合でしたが、ここ最近の中では、かなり良い状態というか「締めてきた」印象を持ちました。
日本向けのコメントは、色々リップサービスもあるだろうから割り引いて、と思っていましたが、何か強い思いがあるというのもまんざら嘘じゃないのかな、というくらい、心身共に充実を感じました。
また、相手を強打で効かせて追撃し、攻め落とす流れを、村田の奮闘により阻まれたあと、攻め口を巧く変えてくるあたりは、歴戦の王者ならではのレベルの高さでした。
今後、目指すというカネロ・アルバレスとのラバーマッチというものも、その充実の要因だったのかもしれません。
正直、もうちょっと落ちててくれたらな、と意地汚いことも試合前は思っていましたが、やはり、その健在を見られたことは、大きな喜びでした。
細かいことはおいといて、今回の来日に感謝したい気持ちです。そして、次戦の健闘も。
そして、村田諒太です。
日本ボクシング界は軽量級中心に、数多の名選手を輩出してきましたが、ミドル級というクラスで、しかも米大陸のマーケットにおいて、スーパースタークラスのメインイベンターとして長く活躍したチャンピオンと、堂々と伍して闘って見せてくれたボクサーなど、空前の存在だと思います。絶後だとは敢えて言いませんが。
村田諒太は、遂に辿り着いた世界最高峰への挑戦で、その強さを存分に見せつけてくれました。
セフェリノ・ガルシアの映像を見たことはないですが、日本や東洋太平洋、このあたりのゾーンから出たミドル級ボクサーとして、おそらく朴鐘八や竹原慎二を超えた、ミドル級史上最強のボクサーでしょう。
階級増加はまだしも、統括団体の増加や、いい加減な運営の数々によって、半ば荒涼たる風景にも見える世界のボクシング界、そしてその趨勢の中を生きる一人でしかない、とも言えた村田諒太が、最後の最後になって、このような舞台に立ち、全てを蹴散らすような健闘を見せてくれた。
リングの上で繰り広げられた、激しい闘いが全てだと見れば良いのでしょうが、その事実もまた、充分に感動的なものでした。
昭和の時代にいくつかあった、世界王者一階級一人時代の世界タイトルマッチ、それも相手が歴代屈指の名王者だったり、階級的に日本人の体格ではとても無理だ、と思われたような試合と、今回の試合は通ずるものがある、と思っていましたが、まさにそのような試合を見ることが出来たのだ、という感慨があります。
もちろん日本の選手を応援する心情はあるが、挑む相手が真の世界最高峰と見え、その頂に立つ者の偉大さにも感心せざるを得なくなる。
見終えたあとは、勝ち負け以前に「本当に良いもの、本物を見たのだ」という満足で心が満ちる。
これが本当の「世界」タイトルマッチだ、と納得する、そんな試合を見られたこと。
ゲンナジー・ゴロフキンと村田諒太に、そして様々に揺れ動く世界情勢のさなか、この試合を実現してくれた関係者諸氏にも、感謝したいと思います。
普段は敢えて言わないことですが、今度ばかりは、という気持ちでもありますね。
写真提供はいつものとおり「ミラーレス機とタブレットと」管理人さんです。
いつもありがとうざいます。
村田、やはり凄い選手です。全部出しきったし通じた部分もありました。GGGを下がらせた選手なんてほとんどいない訳ですし。しかし最後は技術で離され経験で仕留められた。世界の最高峰のなんと貴いことか。勝てはしませんでしたが、感動をありがとうと素直に感謝したいです。
ゴロフキンの左右のフックは特殊ですよね。
ドネアの後出しジャンケン左フックとは全く異質の、
相手がいつきてもいいようにブロックしているその外から肘を90度に曲げて、さらに手首も90に曲げて耳付近と側頭部にガンガン当ててくる。
普通はグローブに当たって半減以上のガード効果があると思うのですが、手首も曲げて巻き込むように当てて効かせてくる。
拳のことも気にせずにテンプルにもガンガン当ててくるし。いや、あれは凄い。
ボクシング含む、格闘技の煽りには辟易して見ているので、ゴロフキンの人柄にも統一ベルトをあげたい気分です。
ボディストレート、アッパー、締まったガードに強いプレス。村田さんは自分の美点を最大に、そしてバージョンアップしてました。序盤ポイントで五分にできたのだけで、そしてボディ効かせただけで感動。このステージに、ミドル級で、日本人が堂々と戦っている姿を見せてくれた事、感謝です。
ただ、「練習してきたパンチを精一杯打つ」村田さんと、戦況に応じてパンチを打つゴロフキン様の差はやはり中盤以降に出ましたね。あのおでこに当てる左フック。あんなの打ったら手首や拳痛めないかと思いますが、あのパンチやジャブ、色々打ち分けして、ガードし切れなかったですね。最後の右は一瞬何が起こったか分からなかったです。
ただ、本当に至福の試合。両者の試合後の振る舞いも含めて、近年計量オーバー、ヤク、他様々な醜聞にまみれたボクシング界に嫌気も差しつつあった中、ボクシングファンで良かったと思わせて頂き、ただただ敬意を表します。
古豪、という表現ではちょっと悪い、現状でも世界のトップと言える力がありましたね。かつては前半から打ち込んで「畳んでしまう」感じでしたが、今回そこを村田にやられて、威圧もあったでしょうに、巧さで対抗し、なおかつ力み無く打っても村田を食い止められる力はやはりある。9回早々のは、例えば高山勝成なんかがたまにやる奇襲的な意味があったのでしょうが、村田の出方に対し、油断もなく慌てもせず、自然に帰して、逆に好機にしてしまいました。ゴロフキン、流石でした。
村田はブランクの影響見せず、前半しっかり取って、見せ場を作りましたね。昭和の時代、後楽園球場でやっていた世界タイトルマッチに通ずる?雰囲気を場内で体感させてもらえて、私もお礼を言いたい気持ちです。
>おうさん
覗き見の堅牢なガードを打ち崩すパターンとしては、エドウィン・ロサリオがリビングストン・ブランブルをKOした試合が、今まで見た中では最高の雛形かと思っています。ヒジと手首が両方とも90度曲がるような打ち方と、インサイドへのアッパーを組み込んだコンビネーションによる攻略法ですね。村田もエマヌエール・ブランダムラをフィニッシュしたとき、近い打ち方したように記憶しています。何しろ単発でも充分威力あるのに、強弱や組み立て、打ち分けでも秀でている。一発の比較なら、村田と大差があるわけではないんですが。流石でした。
ゴロフキン、本当に好ましい印象を残しましたね。元々紳士であると伝えられてはいたんですが。
>アラフォーファンさん
例えば次、カネロと上の階級でやるとなれば相当苦しいだろうとは思いますが、少なくともミドル級ではまだまだ強い、という印象でした。
序盤は本当に苦しかったのでしょうが、4回以降は良いの当てて流れを変え、巧くて強い。世界王者の年季を見せましたね。
また、日本での試合というのが、彼に充実をもたらしたのかもしれない、とも感じました。これは想像でしかないですが、アメリカのリングでは旧共産圏、中央アジアのボクサーが、最後の最後でどこか「傍流」として扱われるところ、我々日本のファンや観客は、その辺何のこだわりもなく、村田の対戦相手であろうと関係なしに経緯を向けます。その辺がゴロフキンにとっても嬉しかったのではないかな、と。かつてのリゴンドー来阪時にも似た感じで。
試合前は長きに渡って色々思うところもあり、また実際行われた試合が、日本のボクシングにとっては史上最大の...ではあっても...という言い方も、しようと思えば出来るでしょう。しかしとにかく、村田諒太という貴重な存在あればこそ「ここまで」は来られたのだ、というのも事実ですね。細々とした碌でもない話、全部蹴散らすような試合だ、とも感じました。同感です。