さうぽんの拳闘見物日記

ボクシング生観戦、テレビ観戦、ビデオ鑑賞
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拳闘見聞の日々。

慎重かつ果敢 乱れず崩れず、圧して勝つ ユーリ阿久井政悟、岡山初の世界王者に

2024-01-25 00:00:03 | 関西ボクシング





今回のAmazonPrime興行、二大タイトルマッチがありましたが、メインは元より、もうひとつの方も緊迫感あり、見応え十分の一戦でした。
WBAフライ級タイトルマッチ、アルテム・ダラキアンvsユーリ阿久井政悟の一戦です。


普通のボクサーは、無駄を省いた小さい動作で攻防を展開しますが、大きく足を使って外し、身体を捻って逃しながら打ってくる、常識外れの破天荒なスタイルのチャンピオン。
パンチも硬そうで、元王者ルイス・コンセプシオンを何度も倒して勝った試合など、迫力も充分でした。
対するチャレンジャーは正統派のハードパンチャー。見るからに対照的な両者の一戦となりました。


初回、阿久井がワンツー。シンプルでコンパクトな攻撃で、ダラキアン下がって外す。大きく動いて回るダラキアンを阿久井が追う。
2回はダラキアン、左下げてジャブ。これに阿久井、右クロス被せる。小さい振りで、打ち終わりのバランス戻しも速い。
次に阿久井、若干左省略気味の「偽ワンツー」。間を変える。しかしダラキアンも敏捷。左フックカウンター合わせに来る。
しかしダラキアン、待ちから対応する型なれど、圧され気味。右ボディで追われ、ロープ際で回ったが、阿久井の右がかすめる。


互いに見切りがよく、それぞれの外し方がある。大きく動く王者に、小さい動作で外す挑戦者。
一撃で相手を倒せるパンチャー同士が、僅かな数のヒットによる得点を競い合う、という風。


3回、バッティングも事無く続行。ダラキアンが左フックで飛び込む。阿久井、ロープに詰めて連打。「当て逃げ」を許さない。
ダラキアン、なおもロープに下がるが、阿久井見て、無理に突っ込まない。左ボディジャブでヒットを取るのみ。ダラキアンの右アッパーは余裕で外す。
逸って手応えを追わず、よく見て、しかし取るべき点はしっかり取る。世界初挑戦としては、驚くべき冷静さ。


3回まで、ポイントは全部阿久井と見える。しかし4回、ダラキアンが、さらに阿久井を引き付けて右アッパーを決める。
さらに右ロングフック、また右フックが阿久井をかすめる。しかし阿久井、軸がぶれない。ダラキアンの方が身体を逃がす。
この回はダラキアンが抑えたか。右アッパーのヒットと、外して当てる流れを作った。

しかし5回、阿久井がワンツーで追い立てる。ダラキアン、両手を上げて回り、躱しているとアピール。
阿久井右ボディストレート。ダラキアン、阿久井のワンツーに連打で打ち返し、打ち合いに。
阿久井の右を外しながら左フックを打ち、同時に左足を引いて、スイッチしての右フックを当てる。
近い距離ではクリンチが多い選手だが、珍しくちょっとだけ打ち込みに来た。劣勢の意識故、か。
阿久井倦まずに追い、右ショート狙う。ダラキアン同時に右アッパー、空を切る。際どい場面。この回、振り分けるなら阿久井か。

6回、阿久井の右ストレートが伸び、ダラキアンがクリンチに出る。実況はボディにヒットしたと言っているが、角度的に見にくい。
しかし阿久井、徐々に的が絞れてきた?クリンチ際の離れ際に左フック。「打ちどころ」がいつ、どこにあるのか、全体的に把握してきた感あり。阿久井。
7回、阿久井がコーナーに詰めてワンツー、小さい左アッパー当てる。互いに左フックも、阿久井の方がヒット。
阿久井プレスかけて出る。左ボディジャブ、一拍置いて右ストレート決める。終盤、ダラキアン左足を少し捻る。大事ないか。阿久井。
8回も流れ変わらず。阿久井右、浅いがヒット。ダラキアンの右はブロック、揉み合っても自分の方が当てる。コーナーで左の探り、次いで右ヒット。
圧されるダラキアン、リターンパンチもヒットに乏しい。阿久井。


ここまでは、総じて阿久井がよく見て、逸らずに最小限のヒットを取っているように。小さい攻防動作で、軸の決まったフォームを崩さない。
対するダラキアンは、攻防ともに大きな動作なので、好きに当てて避けてという、良い流れにならないと、どうしても疲れが出てくる感。

このまま行けば阿久井の戴冠は有力、と見えましたが、さすがにすんなりとはいかない。
9回、ダラキアン奮起、足を使って左ジャブを繰り出す。阿久井の左フックかすめるが、足使っておいて、前に伸びる右アッパー決める。
ヒットは互いにあるが、有効度、さらに試合展開構築の部分で、ダラキアンの回。
10回も阿久井のプレスに、ダラキアンが動いて対抗。ダラキアンの左ジャブで、阿久井がバランスを崩す場面が二度。足が滑った、だけではない?
ダラキアン、阿久井の右を外して左フック当て、逃げる。不格好だが、これが得意。ダラキアンの回。

さすがにダラキアン、このまま何も無しで引っ込むわけもない、という感じの奮起を見せる。
阿久井のリードは間違いないと思うものの、見方ひとつで...という感じもなくはない?展開でもあり。
残り二つ、しっかり抑えて「間違いない」という試合にしてほしいなあ、と思っていましたが、11回始まると、阿久井がワンツー決めて出る。
ダラキアン、左右フック決めるが、阿久井はボディへパンチを散らす。ダラキアンの打って飛び退く動作が減ってきた?
右アッパーをミスした後、身体が残っているところに、阿久井の左フック。この日随一のクリーンヒット、ダメージあり、ダラキアン後方へよろめく。

場内、好機到来に沸くが、当の阿久井が実に冷静。左フックの追撃はボディへ。同じパンチで追って、右ストレートも。
ゴング間際には阿久井の右が際どく飛ぶ。阿久井、大きなポイントを、クリアな内容で取った。
最終回はダラキアンがまた奮起、足使って左、厳しく突き放すが、阿久井も出て、左のヒットから攻め返す。振り分けてダラキアンか。



さうぽん採点は8対4、阿久井と見ましたが、公式採点はこれが最小差。あとは9対3と、何と11対1(!)。
自分の採点を「甘いかな?」と思っていたら、一番辛かったという、ちょっと意外な数字でした。

しかしそれも、数字には表れない、新チャンピオン、ユーリ阿久井政悟がこの試合に費やした労苦の多さを感じていたからなのだろう、と思います。
ハードパンチャー同士が、3分のターンでフェンシングのようなポイントの取り合いを続け、12ラウンズを重ねたという風な試合でした。

その中で、強打者でありながら、破天荒なスタイルの攻防で当てて避けて、とやってくる相手に対し、一切無駄なことをせず、軸を決めて型を乱さず、相手に圧力をかけていき、数多くは取れないと覚悟していたであろうヒットを少しずつ重ね、被弾は最小限に抑える。
体力はもちろん、神経も疲れる試合だったと思いますが、見事に最後まで闘い抜き、結果として大差の判定を勝ち取った。
派手なKO勝ちとはまた違った意味で、これ以上無い、見事な戴冠劇だったと思います。

新人王トーナメントで初めて見たときは、ライトフライ級で減量もきつかったのか、巧いけど元気が無い選手やなあ、なんて思ったものですが、その後すぐフライ級に上げて、試練もありましたが、地方のジムにあって着実に強くなり、その末の見事な戴冠劇でした。
これで若手時代に総当たりで鎬を削ったライバル、中谷潤人、矢吹正道と共に、三人が全員世界チャンピオンになったわけで、彼らの試合をつぶさに見てきたファンにとっては、改めて嬉しいことでもありますね。


しかし、試合後の守安会長、ベルトを巻く、の図は、古いファンにとっては微笑ましい限りでありました。
こんなこと言っちゃなんですが(だったら言うな)、現役時代の姿からして、あの(あの、って何だ)選手が会長になって、こんなにスタイリッシュで強い選手を育てるだなんて、お釈迦様でもご存じあるまいて...という感じで(失礼)。
本当に、奥様やお子さんたちの様子も含め、なかなかに感動的な王座奪取、戴冠でありました。ユーリ阿久井、おめでとう!です。




敗れた前王者アルテム・ダラキアンは、実況によるとウクライナからの来日に、30時間どころではなく2日半かかった、ということでしたが、やはり様々な苦境が、その実力を若干、目減りさせていた、という印象は拭いきれませんでした。
スタイル的に、体力が要る闘い方ですし、さらに年齢のことも含めると、仕方ないことではありました。
とはいえ、終始懸命の闘いを見せましたし、阿久井にとって難関であったことに変わりは無かったのも事実です。健闘を称えたいと思います。



コメント (4)
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