さうぽんの拳闘見物日記

ボクシング生観戦、テレビ観戦、ビデオ鑑賞
その他つれづれなる(そんなたいそうなもんかえ)
拳闘見聞の日々。

驚異の復調、されど「復活」なのか否か パッキャオ、9年ぶりのKO勝ち

2018-07-15 17:05:25 | マニー・パッキャオ



ということでWOWOWの生中継を昼前から見ておりました。

ほぼ一年ぶりの再起戦、即WBA王座挑戦のマニー・パッキャオは、
前回の不調から一転、快調な試合ぶりで、強打ルーカス・マティセを一蹴しました。


パッキャオ、初回から右リードが良く出る。真っ直ぐなジャブ、フック気味のショート。
左右ボディを叩き、ジャブが上に返る。肩振って左ストレートも。

マティセは先制され、前に出たいが出られず。
下がって受けて強い選手ではないだけに、この展開はきつい。
3回、外からの右を警戒していたところ、インサイドに左アッパーを食ってダウン。

4回以降、パッキャオ変わらず好調、多彩な右、当てて遠ざかる左が決まる。
5回、僅かにマティセが右当て、さらに出られるかと見えたが、右フックで膝をつかせる。
6、7回もワンサイド、最後は左アッパーでKO勝ちでした。


試合前は、ジェフ・ホーン戦のパッキャオの不出来を思えば、さらに一年経って、
39歳になって闘う試合に、何を期待出来るのだろう、と思っていました。
稀代の英雄、アジアのボクシング史上最高のボクサーが、ついに終幕を迎える試合、
それも、しばし目を背けたくなるような展開を見せられるのではないか。そんな風にさえ。

しかし、実際はというと、考え得る中で、もっとも好調なパッキャオの姿が見られた一戦でした。
よくぞ、これほどの復調を示せるものだなあ、と驚かされました。
単に体調が良いだけでなく、右リードを多彩に出し、そこから次の攻め手を適切に選び、
相手の裏を取る狙いで、長短、内外を打ち分けて崩していく闘いぶりは、
今回陣営から離れたという、フレディ・ローチの教えが生かされた、質の高いものでした。

もちろん、ルーカス・マティセの、強打者としての天分に隠されてきた、
技術面での不足、展開構築力の乏しさがあり、パッキャオからすれば、
思う以上に「手が合った」面もあるのでしょう。
しかしこの試合は何よりも、パッキャオが今だに、普通の常識では計れないボクサーである、
その事実が改めて見えた試合でした。


そして、同時に、この試合の勝利が、真の「復活」を祝う「祝祭」ではない、
そのように喜ぶには、あと一歩、届かないところでの闘いだった、とも思いました。

かつて、ロベルト・デュランはレナード第二戦の「ノーマス」事件で王座を失い、
さらにベニテスにも敗れ、その評価、名声を失った状態から、
ピピノ・クエバスに勝って浮上し、デビー・ムーアを倒して「復活」を果たしました。
会場であるニューヨークのMSGは、パナマのフィエスタ、英雄復活を祝う、祝祭の場と化したものです。

今日、クアラルンプールの大会場は、パッキャオがマティセを倒すたび、大歓声に包まれました。
勝利の瞬間は、デュランがムーアを下したMSGの光景に、重なって見えもしました。


しかし、試合後、今後の試合について、何一つインタビュアーに言質を与えなかったように、
往時のデュランのように、飽くなき頂点への渇望を抱えて闘っているわけでもない、
現状のパッキャオがゆく「路線」の延長線上にある試合だった。それもまた事実です。

デュランがムーア戦の後、帝王マービン・ハグラーや、強打トミー・ハーンズ戦へと突き進んだように、
パッキャオがエロール・スペンスやテレンス・クロフォードとの闘いに、
自らの栄光の全てを賭けて挑むようなことになれば、それはもう、結果や内容以前に、
ボクシングの歴史上、繰り返されてきた「王位」の継承劇となるのか否か、という観点から、
誰もが勝敗を超越した、崇高なる闘いとして、その試合を見つめることでしょう。

しかし、昨今のボクシング界は、そのような「宿命」の「然るべき闘い」から、
チャンピオンやスター選手を遠ざける理屈や事情、手管には事欠かない世界でもあります。
ここ最近のパッキャオとて、その世界の中において、自身が設定した「枠」の中で闘っている、
そう言わざるを得ない面がありました。

今日の試合内容と結果が、パッキャオの今後を、そのような現状とは違うものに変えるのか。
もしそうなるなら、今日の試合を後に振り返ったときに、違う心境を抱くこともあることでしょう。


しかし、彼の現状、国会議員としての責任、39歳という年齢、英雄として護らねばならぬ名声、
その他諸々を考えれば、単にひとりのボクサーとして彼を見て、思うことだけで、
全てを語りきるには無理があるのも確かです。それは重々、わかってはいるのですが...。


改めて、今日の試合は、予想以上に良い内容での勝利でした。
それだからこそ、試合前には思っていなかったことを、あれこれと思いもしました。
今後がどうであれ、マニー・パッキャオは、稀代の英雄であるが故に、
その存在そのものが、さまざまな思いを抱かせます。それだけは変わりない事実、ですね。



コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする