さうぽんの拳闘見物日記

ボクシング生観戦、テレビ観戦、ビデオ鑑賞
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拳闘見聞の日々。

伝統階級「通過」の無念も掻き消す、試練の大一番決定 井上尚弥、二階級二桁防衛の強豪ナルバエスに挑む

2014-11-06 20:05:53 | 井上尚弥


ということで、年末開催世界戦数あれど、最大の注目だった井上尚弥の試合が正式発表されました。
12月30日、東京体育館でWBOスーパーフライ級王者オマール・ナルバエスに挑戦。

やはり大阪というのは誤報でした。そらそうですよね。
とはいえ以前、長谷川穂積と粟生隆のダブル世界戦が、会場確保の都合上、突然名古屋開催になった事例もあり、
万が一の可能性はあるのかなと思ってもいました。それに、もしそうなるなら、見に行くの楽でいい、とも(^^)
まあしかし、開催地に関しては、落ち着くところに落ち着きました。


以前少し書いたとおり、フライ級を素通りしてスーパーフライ級に挑むというのは、残念に思います。
ゴンサレス、エストラーダの両巨頭を始め、強豪が目白押しの伝統階級、フライ級の状況を考えれば、
そこに井上尚弥が参入し、どれだけ闘えるのかを、この目で見たいと強く思っていました。
仮に大晦日の相手が、王者としては格落ちのアムナット、レベコあたりとの対戦となろうとも、
井上ならばフライ級の真の頂点を目指すための通過点として見られるし、その先への期待も持てたでしょう。

しかし、この辺との交渉は不調に終わったようです。
普通なら、それなら調整試合を挟んで来年以降に、となるところなんでしょうが、大晦日や年末にどうでも世界戦を、
というTV局の意向は、我々が思う以上に強いらしく、日程に合う近隣階級の王者を探した結果、こうなったのでしょう。

井上尚弥のキャリアを長い目で見れば、当然、伝統階級であるフライ級での活躍はあって然るべきでしょうし、
ライトフライは最短奪取記録のための通過点で、これからいよいよ、怪物と言われる井上の真価が問われる、
その舞台として、今のフライ級ほど相応しい階級はない、と思っていました。
それが結果として階級そのものを通過、素通り。しかもその実情は井上のコンディションではなく、
TV局が設定した年末の放送枠を埋めることが優先された、と覚しきものです。

この点については、先のあまり意味のない108ポンドでの余計な一試合と同様に、
井上尚弥にとり、本来あるべき、目指すべきキャリアの道筋が、筋違いの事情によって曲げられた、
という感じがして、とても残念に思います。



しかし、挑む相手がオマール・ナルバエスである事実は、その感情を越えた衝撃でもありました。
井上の次戦について、この名前は当初、当たり前ですが全く想定していませんでした。

WBOフライ級16度、スーパーフライ級11度防衛を誇る、アルゼンチン軽量級の英雄。
小柄ながら厚みのある身体のサウスポーで、攻防ともに堅調かつ力強い。
右フックのダブルやカウンターが一番の武器ですが、左ストレートも伸び、ボディ攻撃も巧く、連打も出る。
ノニト・ドネア戦はやや評価を下げましたが、あれはさすがに階級の壁があり、相手が悪かったのでしょう。
スーパーフライに上げてからは、久高寛之戦しか見ていませんが、やや不調気味だったとはいえ
安定感のある試合ぶりで、ほぼワンサイドの勝利でした。


まず言えることは、二階級下から上げた井上の、転級初戦の相手としては、当たり前ですが相当手強い、ということです。
スピードや切れ味で上回っても、攻防共に厚みのあるナルバエスが、体力と経験を生かして井上を圧しまくり、
終盤に捉えるという厳しい予想も、充分成り立ちます。

ガードを高く絞った構えから、コンパクトに連打出来るナルバエスが、中間距離や接近戦では有利でしょう。
しかし、過去の試合ではそのガードを、ロングの右ストレートで貫かれ、打たれている試合もあったので、
長い距離を保って速いストレートパンチを中心に攻め、好機に波状攻撃をかける展開を作れれば、
井上にも勝機はあると思います。が、このクラスにおいて井上が全く未知数のボクサーである以上、
どのような予想も結局は根拠の不確かなものに過ぎません。


しかし、もしこの相手に井上尚弥が勝ち、一段飛ばしの二階級制覇を、デビュー8戦目で達成するとなると、
それは世界のボクシングファンにとり、かなりの驚きを持って迎えられる衝撃の報でしょう。
何しろ二階級に渡って二桁の防衛回数を数える王者であり、それが一階級飛ばして上がってきた
8戦目の選手に敗れるとなれば一大事です。井上尚弥の声名は、国際的にかなり高まると思います。

現実的には厳しいでしょうが、そうなった上でフライ級への転級も、しつこく期待したいですし、
逆にフライ級最強の二人が、上に上げてくるという可能性もあるでしょう。
これが他の団体の王者相手だったら、あまり楽しい展望にもならないですが、ナルバエス相手なら、
勝って得られる名声、評価の大きさが、井上尚弥に相応しいものだという期待が持てます。


井上尚弥にとっては、デビュー8戦目にして、余りに手強い相手との、大きな試練の一戦となりました。
最短世界奪取記録はこれまで何度か見てきましたが、その後、間もなく、こんな試合を迎えるというのは、
おそらく過去に類例のない話ではないでしょうか。
怪物と呼ばれる童顔の若き王者は、こちらが想定していた、フライ級戦線への段階的な参戦と同等か
ことによるとそれ以上の困難かもしれない一戦に挑むことになります。

改めて、予想外、かつ唐突な大一番の決定でした。
日本のボクシングの歴史を塗り替えると期待される、希有な才能が挑む試練の一戦。
正直、今すでに、少し震えるような気持ちでいます。
そして、試合の成立過程を考えれば皮肉なことに、TV放送の有無などどうでもよく、
会場で、この目で、見ずには済まされない、という気持ちも同時に、沸き上がっています。

...アンタは毎度そうやないか、と言われれば、返す言葉もありませんが。



コメント (3)
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