のほほんとしててもいいですか

ソプラノ歌手 佐藤容子のブログです。よろしくお願いいたします!

大任

2013-07-12 | 『毎日のこと』
天のまさに大任をこの人に降さんとするや


必ず先ずその心志を苦しめ、その筋骨を労し、その体膚を餓えしめ、その身を空乏にし、



行うことその為さんとするところに払乱せしむ











孟子


告子篇


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創作:『はあひいふう』

2013-07-11 | 『創作・短いお話』






はあちゃんは、5歳




ひいちゃんは、2歳






ふたりはなかよし姉妹




今日も二人でおままごと




はあちゃんはお母さん役



ひいちゃんは赤ちゃん役









「はーい、あかちゃん、ごはんですよー」


はあちゃんは、先ほど生垣のところで取ってきた小さい赤い実を5粒、プラスチックの黄緑色の小皿に載せた。






ひいちゃんは、お皿の上の赤い実を全部いっしょに右手でつかんだ。




「あっ、ひいちゃん、それは本当には食べちゃダメだよ」



はあちゃんが言うと、ひいちゃんはゆっくり右手を広げて、赤い実をぽろぽろと下に落とした。







「あ~、あかちゃん、ごはんをこぼしちゃったですねー。じゃあ、もういっかい、あげますね~」



はあちゃんは、ひいちゃんが落した赤い実を一粒ずつ拾って、もう一度黄緑色の小皿に載せた。





ひいちゃんは、はあちゃんが赤い実を載せた小皿を両手で受け取ると、にっこりとした。






「あかちゃん、おいしいですか~。」



はあちゃんは、一粒をつまんで、ひいちゃんに食べさせるまねをした。









ふと、はあちゃんは、ひいちゃんの横に、ころんと横たわっていた、くまのぬいぐるみをつかむと、ひいちゃんの横に座らせた。







この、くまのぬいぐるみは、プクロー、と言った。






「プクロー、今日からおねえちゃんのいうことを聞くのよ」





はあちゃんは、プクローをさとすように言った。





プクローは無言のまま、大きなたれ目を見開いていた。











「ひいちゃん、なんかさ、おとうとほしいね」





ひいちゃんは赤い実をいじっていた。




「あとさ、おやつもらいに行こうよ」



ひいちゃんは勢いよく立ち上がると、鉄砲玉みたいにお母さんのことろへ飛んで行った。





はあちゃんは、慌ててひいちゃんの後を追って、お母さんのところへ行った。




あとには、プクローが無表情なまま転がっていた。









お母さんは冷蔵庫からよく冷えたプリンを2個取り出すと、ふたを取って、きれいなブルーのガラスの入れ物に移してくれた。



「お母さん、なんかね、おとうとほしくなった。ひいちゃんもいってたよ。」



はあちゃんは、プリンをほおばりながらそう言った。






ひいちゃんは、ただただ夢中でプリンと格闘していた。


お母さんは、にこにこした。





「はあちゃんもそう思う?ママもそう思うのよ」




お母さんは言った。




はあちゃんは、とってもうれしくなって、プリンがとてもおいしくなった、と思った。







はあちゃんは、おとうとはどんなものかわからなかったけど、いつかおとうとに会ったら、なんて言うか考えた。










よく考えて、よく考えて、きめた。






「ひいちゃん、おとうとにあったらね、いうこと決めたんだよ」



ひんちゃんは、プクローをごねごねこねていた。


「うんとね、いうよ」



「おとうと、こんにちは」



ひいちゃんは、プクローをたたいた。





キッチンでフライパンを動かしながら聞いていたお母さんが、はあちゃんに言った。




「はあちゃん、おとうと、こんにちは、いいね」






はあちゃんはうれしくなって、ひいちゃんといっしょにプクローをたたいた。





ずっとずっと、たたいていた。











《おわり》


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創作:ミント外伝

2013-07-11 | 『創作・短いお話』
創作:『スカボロフェア第2話 〈ミント〉』を書いたのは、2年前の7月1日のようです。

今日は外伝として、妖精メンタのそののちを書いてみます。

これは、たまたまいつも行っているマッサージやさんで、ミントの香りがしたことから、ミントの伝説を話してあげてました。

そして、施術中に想像してみました。




@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@



《ミント外伝》







暁は進軍を続ける傷ついた兵士たちを慰めていた。


澄んだ空気は新しい時代を感じさせた。

ペルシア軍歩兵第8連隊がアスト岬に到着したのは、本日明け方のことだった。


8万とも10万とも言われたその連隊は、岬に到着するなり、空腹を満たすべく食料を分け合った。



士官アルドトスは美しい男だった。

勇者であり、頑強な肉体を持っていた。

精神もまた然り、どうような誘惑にも負けぬ鋼の強さがあった。


アルドトスはライ麦のパンを口に放り込むと、乾いた喉を潤すべく、林の奥に見える小川へと向かった。

小川はピリオン山の方から流れているのか、七色に光り、美しいせせらぎは天使の会話のような音を立てていた。

アルドトスはその逞しい手で水をすくうと、とてもおいしそうに飲んだ。

自然の恵みが身体を駆け巡り、ここ8ヶ月と続いていた戦いの疲れを癒す。

ふと、ときめく香りが風に乗り、彼の鼻をかすめた。

香りの方に目をやると、柔らかなグリーンの色をしたミントだった。

6センチぐらいのものだったが、その香りは四方に広がり、アルドトスの肩についた深い傷にも入り込んできた。

ミントの香りはアルドトスの肉体を征服した。

彼はそのミントを大事そうに摘むと、懐へそっと入れた。

隊に戻るべく、もと来た道を進むと、暗い森の中に白亜の宮殿が現れた。

その壮観な建物はプロピュライア宮殿のようでもあった。

美しく荘厳な彫刻はアルドトスを威嚇し、また魅了した。

アルドトスは吸い込まれるように、その宮殿の入り口の階段をあがっていった。

目の前に美しく整備された中庭が開けた。

女神のように神々しい女が水浴びをしていた。

長い黄金の髪が、透けるように白い身体にまとわりついていた。

女はアルドトスに気づくことなく水浴びを楽しんでいた。

アルドトスは自分の中に起きる衝動を把握することができなかった。

彼はその女に近づき、突然、永遠の愛を誓った。

女はあまりの急な出来事に驚いたが、アルドトスの美貌に魅せられ、その愛に即答した。

わかりました、と。

女の名前は、ペルセポネ、と言った。

ふたりは、その後、3日3晩、抱き合っていた。

4日目の朝も、ふたりは深く見つめあいながら目覚めた。

冥界の王、ハーデスの妻でありながら、ペルセポネには目の前の男がすべてになっていた。

まるで熱病に罹患したかのようだった。

突然、えもいわれぬ悪寒がし、アルドトスは嘔吐した。

手は震え、近くにあった刀を取ると、間髪いれずペルセポネを突き刺した。

ペルセポネは抗う隙もなく、息絶えた。

アルドトスは正気に戻ると、自分のしたことがよくわからなかった。

目の前には血だらけのペルセポネが白目を剥いて横たわっていた。

すると、背後で、鈴のような可愛らしい笑い声がしていた。

振り返ると、妖精メンタだった。

メンタの復讐は叶った。

メンタを草に変えた憎きペルセポネは、自分の手を汚さずにこの世から消えた。

メンタは細い腰をくねらせながら、妖艶なあどけない顔で、アルドトスを祝杯の宴に誘った。

アルドトスは崩壊し、その場で命を絶った。

メンタは大笑いし、その場を後にした。

ペルセポネとアルドトスが血にまみれて倒れるその部屋には、清清しいミントの香りが漂っていた…








【おわり】


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もし、この道で

2013-07-10 | 『詩・散文』





地下鉄を降りて、階段を上る




汗をふきながら、顔をしかめたサラリーマンが何人も何人も、すれ違いながら吸い込まれていく




地下へ地下へ





大手町駅は複雑だ





この出口も知らない人は知らないだろう






ビルへの道を急ぐ





ゆとりを持って出たはずだが、途中、駅のトイレで化粧を直しているうちに時間が過ぎた








別にそうじゃない




彼に会うかも、と思ったからではない





身だしなみを整えただけだ





半ば、自分に言い聞かせた







昼の時間帯だった





この界隈では名の知れたラーメン屋は、この炎天下の中でも、それなりの行列ができていた





目は、一応、行列の中に彼の姿がないことを確認していた






会ったからと言って、声をかけられるのだろうか




まったく自信がなかった






向こうさえ気づかなければ、身を隠すかもしれない、とさえ、思った





一方、もし会ったら、もう以前の私とは違うのよ、とでもいうように、余裕の笑みを見せようか、とも思った







いやいや、それはないや…










彼の勤め先のビルに差し掛かった







偶然を願いつつ、偶然を願っていなかった








暑さに頭がクラクラしてきた





夏のせいでもあり、彼のせいでもある、と、わけのわからぬ濡れ衣を着せた


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ポッキーからの電話

2013-07-10 | 『詩・散文』



蒸し暑い午後に電話が鳴って






でたら知り合いの犬からだった


ポッキーという美佳の犬






ポッキーは電話口で元気なく感じられた






実は、今日電話したのは、最近歳のせいかずっと調子悪くて、そしてあの風が吹くんだ最近








あの風?
気のせいじゃなくて?
気弱な時はそんな感じがするものよ






気のせいじゃないよ
確かに銀の粉も混じっていたし

怖くなって美佳に言ったけどあまり信じてもらえなかった





そうか…
じゃあ、確かにあの風なのかもね











どうしたらいい?











どうにもできないわ、ポッキーもあたしも美佳も










怖い…








かわいそう…
でも、こうしたらどうかな、目をつぶる









目をつぶってもあの風はわかるよ









うん、でも少なくとも銀の粉は見えないよ








わかった、やってみる









怖かったらいつでも電話して、電話に夢中であの風に気づかないかもしれないし








ポッキーは少し笑った








じゃあ、また








うん、また











電話を切ったら、生ぬるい風が吹いて、黒のワンピースに銀の粉がキラキラとついた








うそっ、わたしにも?












怖かった







自分の心臓の音が聞こえた











でも、やり方はわかっていた












ゆっくりと目をつぶった





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